第25話
三人は気づけば知らない物理宇宙に立っていた。元居た定理宇宙ではないようだ。
「ここは?」
「少し観測したが、どうやらX定理宇宙の物理宇宙、そのどれでも無いようです。別の層に移動したわけでもない。もう少し観測を続けてみますね」
エウクレは観測を続け、回路を回す。
そんなエウクレのことを阿曇はじっと見つめている。
「ところでエウクレ、聞いてもいいか」
「なんです?」
エウクレは観測しながら、返事をする。
エウクレを見つめる阿曇の目つきは何故か困惑一色である。
「どうしてそんなに小さいんだ?」
エウクレはカントルの手のひらに乗っていた。カントルは人型で、身長も人の範疇で、手のひらだけ大きいということもない。
阿曇の目の前には手のひらサイズになっているエウクレがいた。
「この大きさが疑問ですか?研究所に居た頃の大きさではいささか旅に支障をきたします。それに私は自身の大きさをいかようにも変えられますので小さい方が良いかと。性能も変わりませんし」
自身を周囲空間ごと縮小するだけでよい。物理的に小さくなったというより空間的に小さくなった。これならば性能を落とさず、小さくできる。空間を縮小するために少しリソースは割くが、体を物理的に小さくするよりエウクレ的にも適していた。
小さくなったエウクレはカントルの手のひらに乗り、観測を続けている。
「阿曇、小さいエウクレは可愛いでしょ。ほれ」
カントルが阿曇にキャッチボール感覚で投げ渡す。カントルは自身の設計者に対する扱いが酷い。
「ちょっ、カントル。投げるのは、うわっ」
宙を舞うエウクレは初めての感覚に見舞われていた。空を飛ぶ、装置や技術で幾度かやったことはあったが、今回は全く違う感覚だった。宙を舞い、体に働く物理法則を感じ、驚きに包まれた。
「ほい、キャッチ」
投げられたエウクレを阿曇がしっかりキャッチした。
(…重いな)
「阿曇、カントルの遊びに付き合わなくても良いのですよ。それと重いと思ったでしょう?私は比較的軽いです」
「…いや、空間だけ縮めたんだから質量は変わらないんじゃ」
「私だって、旅のためなら質量くらい変えますよ。重いと邪魔でしょうし」
どうやら旅の妨げになるまいと大きさの他に質量も変えていたらしい。質量の変更など質量保存則に反するのだが、エウクレ曰く質量保存則を変更すればよいではないかとの事。カントルに頼んだらしい。
「保存則での総質量を変えれば私の質量など、どうとでも出来ます」
阿曇はエウクレの新時代ダイエットのようなものを見た気がした。
「それでここはどこなんだ?そろそろ分かったか?」
「それが…恐らくですが先ほどモンストラス・ムーンシャインに飛ばされた時、彼なのか単に飛んだ影響なのかは分かりませんが観測が上手くいかないのです」
「定理宇宙内は?」
「それは大丈夫です」
エウクレの観測が十分に機能しない、これはモンストラスがしたことの可能性が高い。困ったことだが旅の一環だと阿曇は考えることにした。
「まあ、いつか元に戻るだろうけど、カントルは?」
「私は大丈夫、特に影響は。でもエウクレみたいにどこか制限されてるかもしれないね」
「…ひとまず、近くの街でも探すか」
空が青く、辺りを見回すとどうやら日本語がちらちら見えるので、地球の、それも日本であることが伺える。
街を探しに歩こうとした時、エウクレが割と大事なことを言った。
「そういえば、今ここは三次元です。だいぶ下ですね」
「えっ、俺、大丈夫?」
阿曇は体のあちこちを触って何もないかを確かめる。次元圧で体がバラバラになっていないか。もしかしたらどこかの次元に体の一部を落としていないか。
体はどこも異常なく、阿曇は安心する。
「大丈夫です、高次元から低次元に来た場合はそこまで問題ないですよ。まあ、一応この次元に適応させましたけど」
「…」
さらっと大事な事を言ったエウクレにもっと早く言えよと無言で見つめる。
今の阿曇は三次元存在である。
「そう見ないでくださいな、言わなくても問題ないかなと思っただけです。黙ってたのは悪いと思ってます」
「まあ、いいけど。問題は無いんだよな?」
「ええ、今のところは」
今のところという言葉が少し気になったが聞くのは止めにした。街を探すのに余計な考え事を増やしたくないから。
「…エウクレはいいよな、楽そうで」
阿曇はカントルに運ばれるエウクレに文句を垂れる。それもそのはず、今は昼間で太陽が照っている。周りに涼めそうなところは無く、街まで自力で歩かなくてはならない。羨ましく思えて当然である。
「それで、近くの街はどこなんだ?」
「ここから東に二キロくらいです」
二キロ先にあるとエウクレが言うが、阿曇の目には街の姿は無い。
「見えないけど」
視界を遮る建築物や地形ではないので、見えないことに疑問が浮かぶ。
「街全体を光学迷彩で隠してますね。人間の目では見えませんよ」
この物理宇宙の地球でも今は夏の様で日差しは強く、あちらこちらに蜃気楼が顔を覗かせる。
「じゃあ道案内はよろしく」
阿曇はカントルの体で出来た日陰に隠れた。
「仕方ないですね」
カントルはより日陰を広げるため、三次元物質の構築を始め、手のひらにパラソルを生成した。
「これならみんな涼しいでしょう」
「ありがとう」
真夏の、日が照る昼間に彼らは涼しい場所と人との出会いを求めて三人は街を目指す。
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