第24話
阿曇がモンストラスに連れられてから木村はシェルターの中でじっとしていた。友との急な別れに思考はまとまらず、ただ帰ってくることを願うことしか出来ない。
「あいつ、帰ってくるよな?」
そんな時、木村は周りがゆっくりとなった様に感じられた。
「木村、俺だ。阿曇だ」
頭の中から聞こえるような声に木村は戸惑いながら返事をする。
「阿曇か!お前、今どこだ。」
「今は定理宇宙の外だ。一つお前に言っておこうと思ってな」
「何をだ?」
「俺はこれから旅に出る。あの子に会いに」
「旅か、いつ帰ってくるんだ?」
旅といっても定理宇宙や公理宇宙、もしくは人類の知らない場所も行くかもしれない。いつ帰ってくるかなど当の阿曇も分からない事だった。
「それは分からない。公理宇宙や定理宇宙を渡り歩くんだ。危ないこともあると思う」
「命の危険があるのかよ。死ぬかもしれない旅は止めとけよ!」
木村の声が大きくなる。彼の事を思うが故に、死んでほしくなかった。
「でも彼女に会えると知性体は言った。なら俺は行くよ」
阿曇の意思は固い。その固さを木村は言葉を聞く前から知っていた。
「…」
木村は黙る。親友のその決断に自分は何を答えられるだろうか。
「…知ってたよ、そう答えるのは。…会えるんだもんな」
親友であるからか、彼の会いたい気持ちを身近に感じ、理解してきた。
「行ってこい。会いたいと努力すれば会える。旅で死ぬなよ」
「ありがとう。じゃあ行ってくる」
そういい、知性通信は切断された。
そこには親友を理解し、それゆえに引き留められない男がいた。
コーヒーブレイク中、阿曇の父に誠一の声が流れ出した。
「父さん、俺だよ。誠一」
いきなりの通信であったが、父は手に持ったコーヒーをこぼすどころか驚きすらしなかった。来ることが分かっていたかのように。
「どうした?声だけだなんて」
「色々あってね、それで父さんに言っておきたいことがあったんだ」
「何だ?旅に行きたいという話か?」
その回答に阿曇が驚く。
「何でわかるの」
「何となくかな」
父の回答は釈然としないものだが、当の本人は本当になんとなくであったのでそれ以上表しようが無かった。
「父さん、俺、旅に行く。死ぬかもしれない。公理宇宙にも行くからさ。でもあの子に会えるんだ。だから俺、頑張るよ」
「ああ、頑張れよ。母さんも応援するとさ。だから会ってこい。絶対にな。それと帰ってこい」
「ああ、帰るよ、必ず。それじゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい」
父に別れを告げて、誠一の意識は再び肉体へと戻った。
「ありがとう、モンストラス」
「礼はいい。それじゃ、行ってこい」
とモンストラスは三人をどこかの定理宇宙へと飛ばした。
飛ばされる中、阿曇は物理宇宙の方を見た。そこは確かに多世界解釈が適応され、物理宇宙の中には多世界が広がっていた。物理宇宙の全体は残念ながら見れなかったが、それは層状になっていた。それぞれの層で異なる多世界が広がっていた。
案内人と木村が交わした物理宇宙と多世界解釈の話は全て本当にあったのだなと阿曇は目に映る光景からそう思った。
景色を目に焼き付け、彼らは空間を飛び越えていった。
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