第17話

 「では私の体についていってください」

 接続前の案内人の機械体がついてきてと手をこまねき、歩く。一行はその後をついていく。

 十一次元空間で空中楼閣の様相を見せる研究所は床に足をつけていても浮遊感が抜けきらない。

 「エウクレのおかげで多定理宇宙間での通信や疑似定理証明装置の開発が出来ました。これらも研究の成果と言えます」

 階段を上り、阿曇たちはエウクレを見下す形で見学している。疑似定理証明装置は一階に収まりきらず、二階、三階と各階に多く存在する。エウクレはそれらに守られるかの様に鎮座し、どこからでも覗けるがそのまま近づくことは叶わない。

 「こちらの部屋でエウクレの居る空間まで移動します」

 一行の前にはさほど珍しくも無い金属製の扉があり、扉の先には部屋があった。

 「なあ、これって」

 木村の言いたいことは分かる。阿曇も見たことがあるからだ。

 「ああ、ルーブルでのやつだな」

 すると皆の端末の案内人がその通りと喋り出した。

 「この技術はルーブル美術館へ行くために使用した部屋と同じ技術です。といってもこちらの方が幾分精度も高いですし、装置自体の出力も高いです。エウクレが居る空間は研究所内の空間の中で独立してまして、行くにはこの部屋を通る必要があるんです」

 部屋があるということはエウクレの居る独立空間内にも部屋があるわけだ。

 阿曇はそう思い、エウクレの方を覗き見る。確かに小さな部屋が見えた。

 「さて、では皆さま行きましょう」

 そうしてエウクレの元へと移動した。

 

 「到着しました」

 部屋の外には箱型の機械が佇んでいる。

 「これがエウクレ…」

 感嘆の表情で箱を見つめる阿曇。目は星空を眺める子どもの様だ。

 「初めまして、皆さん。私はエウクレと申します」

 箱が起動し、エウクレが皆の前で礼儀正しく挨拶をする。

 大きさにして一人分の身長と同じくらいだ。

 「案内人、すまないんだがツアーの方をどこかへ連れて行ってくれないか」

 案内人に通知が入る。それを確認した案内人はどこか驚いた様子だ。

 「なるほど、分かりました。…皆さま、申し訳ないのですが急遽エウクレのお話は聞けなくなりました。時間的な問題で」 

 途端ツアー一行の表情は不安を帯びた顔になる。

 「何かあったんですか?」

 その問いにエウクレと案内人は悩む。

 「エウクレ、言うべきでしょうか」

 「構いません、言った方がいいでしょう」

 真剣さを帯びた二人の声に一行は不安を募らせていく。

 案内人がエウクレの方から一行に向き直る。

 「現在、というか未来で、なのですが第三知性体モンストラスの侵入が観測されているんです。ので皆さまの避難を」

 第三知性体の侵入と聞き、皆は不安を隠せず、様々な憶測が巡った。

 「皆様、落ち着いて。幸い第三知性体本人から攻撃の意思が無いことは表明されています。ですが侵入に際し、因果定理の証明で因果が歪む等の影響があることが見込まれますので、避難していただこうということです」

 「なんだ、そういうことか」

 案内人の説明で落ち着きを取り戻した一行だが、内心何を起こすか分からない知性体のことなので不安は未だ取り除かれていない。

 「ではこちらへ」

 案内人が一行を安全な場所へ連れていく。と同時にエウクレも本格的に起動を始める。

 エウクレの起動と同時に証明装置も侵入に対する準備を開始する。

 「さて、大ごとにならないと良いが」

 観測で未来を見ているエウクレだが知性体は時間や空間、因果を無視する。例え未来を見ようともそんなものは幾らでも演算で覆せる。

 

 「第三は何が目的なんだろうな」

 「目的?…なんだろうな」

 木村の疑問は最もである。第三知性体が何故ここに来るのか、それは気になってしまうのも無理はない話題だ。

 「攻撃はしないらしいし、探し物とか?」

 「知性体の探し物ってなんだ?」

 「分かんない」

 いくらか考えてみるがいまいち思いつかなかった。

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