初めまして

 春。

 桜が満開の校庭で、ふたりは並んで歩いていた。


「ねえ、瑞樹くんってさ」


「ん?」


「……私のこと、いつから好きだったの?」


 遥がそう聞いてくるのは、これで三回目だ。

 でもそのたび、俺は違うように答える。


「さっき好きになった」


「え?」


「ほら、今の遥の笑顔、最高だったから。記憶じゃなくて、今の君を見て、また好きになったってこと」


 遥は、ちょっと呆れたように笑う。


「それ、ズルいよ……」


「うん、でもしょうがない。俺、何回でも好きになるって決めたから」




 ◇ ◇ ◇




 遥の記憶障害は、今も完全には治っていない。

 毎日が、再会みたいな日々だ。


 だけど、それはもう悲しいことじゃない。


「瑞樹くんって、どんな人だったっけ?」

「私たち、いつから友達だった?」

「これって、前にも来た?」


 そんなふうに遥が聞いてくるたび、俺は『新しい思い出』を一緒に作るように答える。


「瑞樹くんって、私のどこが好きなの?」


 ある日、遥が不意に聞いたとき、俺は迷わず言った。


「全部だよ。でも、もし“どこ”かって聞かれたら――“忘れても戻ってくるところ”かな」


「なにそれ、ポエム?」


「詩じゃないよ。本音」


 遥は少し照れくさそうに笑って、俺の腕にそっと触れた。




 ◇ ◇ ◇




 もしも、全部忘れてしまっても――

 君がまた出会ってくれるなら、俺は何度でも恋をする。


 初恋でも、二度目の恋でも、三度目でもいい。


 覚えていなくても、心がまた動くなら、

 それは本物の恋だと、俺は信じてる。


 春風に舞う桜の中で、遥が微笑む。


「ねえ、また明日も、一緒にいられる?」


 俺は、迷わずうなずく。


「もちろん。君が忘れても、俺が覚えてるから。だから――明日も、初めましてをしよう」


 そしてふたりは、歩き出した。

 同じ未来へ、何度でも。

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君が記憶を無くすまでの五日間 @lion_1010

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