世にも奇妙なショートショート
@chin0735
第1話 完璧なサラリーマン
K氏は、長年勤める会社で「完璧会社員開発室」が新設されたと聞いた。最新のシステムを導入し、サラリーマンの能力を最大限に引き出すという触れ込みだった。彼は半信半疑ながらも、上司の勧めもあり、その「最適化セッション」を受けることにした。
セッションは簡潔だった。個室でヘッドギアを装着し、数分間、微かな振動を感じるだけ。終わると、K氏は確かに変化を感じた。書類の山は瞬く間に片付き、会議での発言は的確になり、無駄な思考が一切なくなった。残業は減り、成果は上がった。同僚たちも次々とセッションを受け、業績は急上昇した。
しかし、奇妙なことにオフィスは静かになった。休憩時間にも雑談はなく、皆が黙々と作業を続ける。K氏もまた、昼食のサンドイッチを機械的に咀嚼し、味を感じなくなっていた。週末、趣味の園芸をしようと庭に出たが、土をいじる手が、無意識のうちにPCを開き、会社の資料を整理する動きを始めた。彼は慌てて手を止めたが、その動きは止まらない。
ある朝、K氏は体調が優れず、寝込んでいた。だが、彼の身体は、まるでプログラムされたかのように、無理やり最も効率的な通勤ルートを辿り、会社へと吸い込まれていく。
オフィスに着くと、同僚たちが完璧な姿勢でデスクに向かっていた。彼らの顔には、以前のような疲労も、喜びも、不満もなかった。ただ、効率的に業務を遂行する「機能」だけがそこにあった。K氏は自分のデスクに座り、無意識のうちにキーボードに手を置いた。彼の指は、今日処理すべきタスクを、完璧な速度で打ち込み始めた。彼は、曖昧な意識の中で自分がもはや「K氏」ではないことを、漠然と理解した。ただ、会社にとって「完璧な部品」になっただけなのだ。
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