勇ましき者が極めるは道 ~任侠道を極めた漢、ダンジョン世界を無双する~

ヤミマル

プロローグ 漢の伝説

 その日、日本は異様な雰囲気に包まれていた。


 街の至る所に立つ、無数の黒い喪服姿の強面達。そしてその付近でピリピリと警戒を続ける警察官に警備隊。場所によっては自衛隊までもが軍用ヘリや装甲車を出して警戒し、それは海上でも似たような様相になっていた。


 日本国内での移動もそうだが、海外からの渡航も数日前から厳しく取り締まりが行われており、都会にある宿泊施設に至っては、そのほとんど全てが地方から出て来たヤクザや海外からやって来たギャングによって貸し切り状態になっていた。


 一般人には知らされなかったが、このあまりの厳戒態勢にの中では、この原因を知る一部の政治家や金持ち達が日本を離れていた程だ。


 なぜこんな事が起きたのか。それは、たった一人の伝説の極道が死去した為である。



 《伝説の極道『煉獄龍馬』享年八十八歳》



 数十年も前に引退しながらも、息を引き取る瞬間まで裏社会に影響力を放ち続けた一人の漢。その漢の死を悼む葬儀が、この異常事態を引き起こしたのだ。


 その葬儀は、当然ながら大きな葬儀場で行われていた。葬儀場の中だけではとても人が収まりきらないので外にも飾られた巨大な遺影は、人々の眼を引き付けた。


 その漢の振り向きざまの遺影には、顔がほとんど写っていなかった。老衰によって痩せ細りながらも力を感じる後ろ姿と、その背中に大きく彫られた『煉獄の空を舞う龍』の入れ墨が、とてつもない存在感を示していた。


 伝説の極道を象徴する様なこの鮮やかな遺影は、実は煉獄龍馬本人の希望により、死去する七日前に背中の墨に色を入れ直し、その後、最も鮮やかな状態で撮影された物である。


 漢の生き様をまざまざと見せつける堂々たる遺影に、煉獄龍馬を知る全ての漢達が、その軌跡に思いを馳せ、自然と手を合わせた。


 世界中から裏社会の実力者を集めた葬儀が終わり、有名な寺の一角に煉獄龍馬の通り名『獄龍』が刻まれた巨大な墓標が置かれてからも、一つの騒動があった。


 漢の伝説にあやかろうとした者達が、夜な夜な墓地に忍び込んでは墓標を削り取って持ち帰ったのだ。


 中にはお互いのその瞬間に鉢合わせ、殴り合いに発展して逮捕された者まで出たのだが、そんな者達を逮捕した警官の中にまで、その者達が削り取った墓標の欠片を懐にしまう者がいた。


 そんなこんなで、『煉獄龍馬』の墓標はたちまち小さくなっていったのだが、それすらも、伝説の極道の逸話として、後世に語り継がれていく。



 …………最後に、これは噂に過ぎないのだが。伝説の極道『煉獄龍馬』の葬儀の最中に、離れた場所から葬儀場を偶々見た多くの人々が、ある物を目撃している。


 空から降りて来た光と、その後に光の中を駆け登る炎に包まれた龍の幻影である。


 これが何を意味するのか。それをこの世界に生きる人々が知る事は、永遠に無い。





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