花のような月

  今の私は、かつての様に宝塚歌劇団に入れ込む事は全く無くなってしまったので、最近のジェンヌ達の事には詳しく無い。

 私の、宝塚歌劇に対する関心が薄まったのは、決して「宝塚歌劇団96期いじめ問題」が原因では無い。

 宝塚歌劇団のいじめは昔から有ったし、私でさえ靴を履かずに舞台に飛び出す下 級生のジェンヌを何度も目撃している。

 それは、靴を履く暇が無かったのでは無く、その靴を同期の同僚か先輩が隠した為に履けなかったのだ。

 この96期のいじめ問題は、2010年3月1日に原告の主張がほぼ認められ、事実上、宝塚音楽学校の完全敗訴に終わった。

 その後、痛烈な社会的批判を劇団側は受けて、遅まきながら、2025年3月27日付けで、宝塚歌劇団、阪急電鉄、阪急阪神ホールディングスの連名で「宝塚歌劇における改革の取組について」を公表した。

 そしてこの4月からは、宝塚歌劇団は阪急電鉄から分離・法人化され、株式会社宝塚歌劇団として新たなスタートを切っている。


 改革の具体的な取り組みは別にして、分離・独立させたとは言え、株式会社宝塚歌劇団は阪急電鉄の100%子会社で、阪急電鉄が今後も宝塚歌劇団の運営会社として、公演の企画・制作や出演に関する業務を引き継ぐので、多くの人がこれは形だけを整えたに過ぎず、実態は変わらないと考えていて、当然、私もその一人だ。

 関係者は見掛けだけでは無く、真にこの問題を反省して、宝塚歌劇に又、圧倒的な熱量を取り戻して戴きたい。

 思えば、宝塚歌劇の総熱量が減少したのも、こうした事も背景のひとつだったかも知れない。

 これは勿論、私の推測にしか過ぎないが。


 今日、取り上げるエッセイの主役は、当然、この事では無い。

 かつて宝塚歌劇の総熱量が凄くて、私が彼女達のパフォーマンスに魅了された頃のお話で有る。

 私が贔屓ひいきにしていた組は、長い間、花組の一択だった。

 所謂いわゆる、「ダンスの花組」で有る。

 越路吹雪、大浦みずき、安寿あんじゅミラと続くダンスの名手達の系譜。

 「花男」と呼ばれる、キザで男らしくそして華やかな男役の個性。

 「花女」も又、花組の生え抜き娘役だけが呼ばれる一種の称号で、花組の娘役も皆、プライドを持って自身の役を演じていたのだ。

 それは男役トップスターの系譜が、安寿ミラ、真矢みき、愛華あいかみれ、たくみひびき、春野寿美礼はるのすみれと続く、全てが花組生え抜きの華に溢れるスター達だった事でも、花組と言うDNAが存在した証明に成る。

 そうした事が、私が「花組」を贔屓にした理由だった。

 続く真飛聖まとぶ せいは、星組から男役二番手としての組替えからのトップ就任で、蘭寿らんじゅとむで又、花組育ちにトップが戻った。

 私が好きだった花組と言うより、宝塚歌劇はこの頃までだった。


 花組に限らず、宝塚歌劇のひとつの時代は、男役トップスターの就任期間でピリオドを打つ。

 その時代に男役トップスターの名前を冠に付ければ、宝塚のファンだったら、それが何時いつの時代の話なのか直ぐに分かる。

 その時代と言う意味で花組に於いては、安寿ミラから春野寿美礼までの5代が、私が知る中では、花組が最も輝いた時期だった様に思う。

 だから、私は決して安くは無い、宝塚歌劇のビデオテープやDVDを買い漁って、それが擦り切れる程、幾度も幾度も再生した物だ。

 だが私が熱中するのは、一つの組が出力した熱量の総和として、素晴らしいパフォーマンスを見せるジェンヌ達の姿で有って、そのジェンヌ達本人では無い。

 だから、入り待ちや出待ちの類は一切しないし、組単位では無いお茶会なども出席しない。

 増してや、ファンクラブへの入会なんかは絶対にしないのだ。


 ここで名前を挙げた花組の5代にわたる男役トップスターについて語れば、明日の朝まで語ってしまうので、これも今日のエッセイの主役では無い。

 それでは何が主役かと言うと、組替えで花組の人気と実力を兼ね備えた男役2番手が月組に組替えに成ってトップスターに、そして花組出身者で、かつて花組でそのトップスターの相手役も務めたジェンヌが娘役トップスターに成ってしまった件が主役なのだ。

 これでは月組公演なのか花組公演なのか分からなく成ってしまう。

 この「花のような月」が突然に出現した事に、それまで月組を贔屓にされていた方は、さぞや悔しい思いをされたに違いが無い。

 何故なら、若しこれが逆に花組で起きていたら、「おい、植田、出て来い!話が有る!」と、私は叫んでいた筈だからだ。

 (注、植田と言うのは当時の宝塚歌劇団理事長の植田紳爾うえだしんじさんの事です。植田さん、ゴメンナサイ、悪しからず!)

 今でこそ組替えは日常茶飯事で、その事が組のカラーを無くしてしまう最大の原因に成っていて、どの組を見ても変わり映えがしないのでは、私も本気で宝塚歌劇を観る気が失せてしまう。


 何れにしても、2005年5月、花組から月組に移籍した瀬奈じゅんと、花組とそら組を経て月組に移籍した彩乃あやのかなみのトップスターコンビが誕生した。

 本拠地でのお披露目公演に先立ち、二人は同年7月に梅田芸術劇場で『Ernest in Love』を上演後、その10月に『JAZZYな妖精たち』で宝塚大劇場でお披露目公演を行った。

 配役は・パトリック:瀬奈じゅん(麻子さん)、シャノン:彩乃かなみ(かなみちゃん)、ウォルター:霧矢広夢きりやひろむ(霧やん)、ティモシー:大空祐飛おおぞらゆうひ(ゆうひさん)と言う錚々たる顔ぶれだった。

 霧矢広夢は膠原病の一種を患いながらも月組の男役トップスターを務め上げた。

 そして、大空祐飛は「花の78期生」で、組替えに依る花組の2番手への就任から、宙組のトップスターとして大いなる飛躍を遂げ、大変な人気を博した。

 大空は相手役トップスターに、大空と共に宙組へ組替えに成った花組生え抜きの娘役、野々すみ花を指名して、ここでも「花のような宙」が実現してしまう。

 

 さて、話をお披露目公演『JAZZYな妖精たち』に戻すと、ショーの「REVUE OF DREAM」は良い出来だったのだが、肝心のお芝居の方は元々のミュージカルの脚本が酷過ひどすぎて、これだけの配役を揃えても、正直、私には見るに堪え無い代物しろものだった記憶が有る。

 折角のお披露目公演がこれでは、新トップ達には可哀そうな話だった。

 案の定、『JAZZYな妖精たち』の評判は散々な結果に終わった。

 それでも、「花のような月」でスタートしたこのトップコンビは、実力も人気も兼ね備えているバリバリのトップスターだったので、直ぐに月組ファンからも受け入れられた。

 だが、2008年に相手役の彩乃かなみが退団して、瀬奈じゅんは自身が退団するまで、相手役トップスターが不在と言う異色のトップに成ってしまった。

 それもで瀬奈は、2009年に宝塚で7度目、自身3度目の『エリザベート』でトート役を演じると言う記録を打ち立て、その存在感を示す事が出来た。


 今日のエッセイ、「花のような月」には結論は無い。

 私が懐かしかったので書いて見ただけだ。

 敢えて言えば、このエッセイを書いた目的は、劇団は何時いつながらの場当たり的な組替えは止めよ!

 専科の位置付けを明確にして、その組のカラーを際立たせる為のスペシャリストとして舞台に立たせろ!

(注.専科とは、特定の組に所属しない一芸に秀でた生徒の集団の事で有る。昔は「舞踊専科」「演劇専科」「声楽専科」「ダンス専科」などが有って、その公演でその組に不足しているスキルを補う役割を持っていた。今でも専科生は各組の公演に特別出演として出演する)

 と、ほとんど誰も読んんで呉れない淋しきエッセイで、そう声を張り上げる事くらいなのだろう。

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