「特定されました」 人違いの炎上で全てを奪われた男の復讐劇
安珠あんこ
「特定されました」 人違いの炎上で全てを奪われた男の復讐劇
帝都銀行の行員になって十一年。寡黙な性格で、同僚からも影が薄いと陰口を叩かれるほど意識して目立たないように生活をしている。就業時間の三十分前には机に座り、デスクワークを卒なくこなし、定時を過ぎたら帰宅する。
だが、そんな彼の平穏な日常は、突如として崩壊することになる。
その日、【二十年前、ある地方都市で起きた母子連続殺害事件。凄惨な事件だったが、犯人は当時十三歳の少年だったため、氏名が公表されることは無く、罪に問われることも無かった。しかし、復讐心に駆られた被害者の遺族の一人は、この犯人が東京にいるという情報を掴んでいた。そして、この事件の犯人が神谷隼人であることを突き止めた】という真偽不明の情報が、とある告発系インフルエンサーの配信動画で告発されて、インターネット上で拡散されてしまう。
『こいつが罪も無い母子を――小さな子まで殺して、絶対に許せない』
『名前で検索したら普通に勤めてる会社と自宅の住所出てきたから晒すわ』
『こんな凶悪犯罪者がなんの罪にも問われずにのうのうと暮らしてるなんて、ありえない。二度と表に出てこれないように、社会的に抹殺しないと――』
もちろん、この物語の主人公である神谷隼人はこの事件とは無関係だ。
しかし、SNS上では彼の「顔写真」「勤務先」「家族」まで晒され、炎上している。
「隼人さん、大丈夫ですか? SNSで隼人さんが殺人事件の犯人だって情報が拡散してますよ」
帰宅中だった隼人は、職場の後輩からの連絡で自身がネットユーザーたちから殺人犯扱いされていることを知る。
「どうして僕が殺人犯に? 何が起きているんだ?」
すぐに職場の上司から電話がかかってくる。
「神谷、大丈夫か? うちのホームページの問い合わせフォームに、お前への苦情が殺到しているって本店から連絡があったぞ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。自分でも、何が起きているのかまったくわからなくて……」
「お前、事件とは関係無いんだよな?」
「もちろんです。そんな事件があったことすら知りませんでした」
「そうか。疑うようなことを言ってすまなかった。もう家には着いたのか?」
「いえ、まだですが……」
「今、お前のアパートも晒されていて、すでにSNSで玄関の画像まで出回っている。今戻るのは危険かもしれないぞ」
「そんな……」
隼人は急いでSNSを確認する。そこには自分の自宅のアパートの外観と、部屋番号の映った玄関の画像が投稿されていた。
『今、神谷隼人の住んでる部屋の前に着きました。これから奴が帰ってくるのを待ちます』
「これでは自宅に帰れない。どうすれば……」
花粉症でマスクを着けていたからか、周囲の人たちはまだ隼人の存在に気づいていないようだった。しかし、この状況ではいつ特定されるかわからない。恐怖に駆られた隼人は公衆トイレの個室へと逃げ込んだ。
「はぁ……はぁ……。どうして、どうしてこんなことに――」
隼人は恐怖で頭が真っ白になる。彼はトイレの個室から出ることができなくなっていた。
しかし、そんな彼を救ったのは、彼の高校時代の先輩からのメールだった。
『隼人君、大変なことになってるみたいだね。とりあえず、今からこの場所においで。私があなたを助けてあげる』
隼人は藁にもすがる思いで先輩の指定した場所へと向かった。移動している最中も、すれ違う人に自分のことがバレていないか、不安で仕方なかった。
メールには、とある雑居ビルの住所が書かれていた。隼人がその場所に着くと、先輩から新しいメールが届く。
『その雑居ビルの地下に私たちの拠点があるの。階段を降りて、その先にあるドアをノックしてから中に入ってね』
(どうしてこんな場所に?)
隼人は疑問に思ったが、他に助かる方法は残されていない。雑居ビルの階段を降りると、彼は意を決してドアを叩いて中に入った。
部屋の中は事務所のようだが、電気が消えていて薄暗く、中の様子かよくわからない。
「誰もいないのかな?」
しかし、すぐに隼人は部屋の中に複数の人間の気配を感じた。
「よく来たね隼人君。【
突然、部屋の電気がついた。次の瞬間、隼人は心臓が止まりそうなほど驚いた。部屋の中に、ウサギの着ぐるみの頭部を被った人物が複数立っていて、こちらを見つめていたからだ。
「そんなに驚かなくても大丈夫だよ。素顔を晒すと、相手に余計な印象を与える。だから、ここではお互いの顔がわからないように、ウサギの着ぐるみを被って顔を隠しているんだ。メンバー同士が対等な関係でいるためにね」
「そういうことは先に言ってください。心臓が止まるかと思いましたよ」
「驚かせてしまってごめんね。でも、隼人君なら、こんなものがなくても大丈夫。ここからは私も顔を見せて話すよ」
遥以外のメンバーは、遥の素顔が見えないように部屋の外へと退出する。隼人を除く全員が部屋から退出したことを確認した遥は、被り物を脱いで隼人に素顔を晒した。遥は黒髪のロングヘアがよく似合う、綺麗な顔立ちをした女性だ。
「ありがとう、遥さん。でも、どうして僕をここへ呼んだんです?」
「私の大好きな隼人君を助けてあげようと思ってね。昔、君が私の旧姓の
「遥さんは東都新聞の記者になったって聞いてましたが……」
「そうだよ。でも、私は記者として犯罪に巻き込まれた被害者たちを取材しているうちに、彼らを支援したくなってね。ここにいるメンバーたちとそういう組織を立ち上げたんだ。それで、今は被害者やその遺族から依頼を受けて、犯人への復讐代行みたいなことをやっている」
「なるほど。先輩は今回、僕を呼び出して復讐しようってわけでは無さそうですが……」
「安心して。私は君の味方だよ。例の母子連続殺人事件、私たちはすでに犯人の情報を掴んでいる」
「本当ですか?」
「もちろん。この事件の犯人は隼人君と同姓同名の神谷隼人。そして都合の悪いことに、君と年齢も一緒だった。だから今回、隼人君は犯人と間違えられてSNSに晒されてしまったんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね。僕は平穏な生活を望んでいた。それで、なるべく目立たないように、問題を起こさないように気をつけて生活していたんだ。それなのに、人違いで犯人扱いされるなんて、たまったもんじゃない!」
隼人の胸の中に、怒りが込み上げてくる。
「私たちが思っている以上に、正義というのは危うい概念でね。正義という大義名分があれば、人は簡単にタガを外してしまう。その行為が正しい行いだと錯覚してしまうからね。だから、通常はブレーキを踏むところで、躊躇せずに思い切りアクセルを踏んでしまう。そして、大勢の人がそれを支持していれば、ますます自分の行いが正しいと思い込んでしまうんだ。だから、彼らは自分の行いが罪だとは微塵も思っていない。今でも、自分たちは正義で、正しいことをしていると思っているはず。正直、一番厄介なタイプの犯罪者たちだよ」
「だからといって、僕を犯人扱いしていい理由にはならないです。身勝手な正義を振りかざして、事件と何ら関係の無い僕を社会的に抹殺しようとした。こんなの、許せるはずがありませんよ!」
「わかってるよ、隼人君。今回、君は何も悪くない。だから、私たち恨兎があなたを助けてあげる。なんなら、隼人君を陥れた人物を探し出して、復讐をするのを手伝ってもいい。彼らに自分たちの行いが間違っていたことを気づかせるには、同じ目に合わせてやるしかないからね」
「ありがとう遥さん。僕はもう家にも帰れないし、職場に行くこともできない。全てを失ったも同然です。だから僕は……僕を犯罪者扱いした奴らに復讐したい」
「隼人君の気持ちはよくわかった。それじゃあ、私たちはあなたの復讐を全力でサポートします」
「お願いします。遥さん、一ついいですか?」
「もちろん。何かな?」
「遥さんたちに復讐をお願いするだけじゃ、僕の気持ちが収まりません。よかったら、僕にも恨兎の活動を手伝わせてくれませんか?」
「素晴らしい申し出だよ、隼人君。私の理想はね、この日本を犯罪の無い世界へと変えることなんだ。君が手伝ってくれるのなら、これほど心強いことはないよ」
こうして隼人は、復讐代行集団である恨兎のサポートメンバーに加わり、自分を陥れた人物たちに復讐することになった。
「よし、それでは早速、隼人君を誹謗中傷した人間たちを特定しようか」
遥はまず、恨兎の協力者である弁護士の坂上信雄に隼人を誹謗中傷した人物の発信者開示請求を依頼した。その結果、特に悪質な五人の誹謗中傷者をピックアップすることができた。
「このまま刑事告訴して彼らを罪に問うこともできるけど、それじゃあ隼人君の怒りは収まらない、でしょう?」
「ええ、彼らには僕と同じ苦しみを味合わせてやりたい。それに、遥さんの言うとおりで、そうしないと彼らは自分の犯した罪の重さを認識できないと思うから」
「隼人君ならきっとそう言うと思ってたよ。それなら、隼人君を誹謗中傷した人たちに、彼らと同じやり方でやり返して、自分たちの犯した罪の重さを思い知らせてやろう」
次に遥は、恨兎のサポートメンバーであるハッカーの金田裕司に、隼人を追い込んだ誹謗中傷者の中から特に悪質な人物をピックアップして、彼らの弱点となる情報の収集を依頼した。裕司は自身のハッキング技術とダークウェブを利用して、彼らが決して知られたくない秘密を掴んでいく。
「私たちのサポートメンバーが、悪質な五人の誹謗中傷者を社会的に抹殺できるとっておきの秘密を入手してくれたよ。さあ、隼人君。復讐を始めようか」
◇◇◇
ここで情報を整理しよう。この物語の主人公、神谷隼人の復讐対象は次の五人だ。
一 拝島透 告発系インフルエンサー「カイト」として動画投稿サイトで隼人の告発動画を配信した。
二 真崎幸弘 インターネット掲示板のまとめサイト「まさゆきチャンネル」の管理人で、隼人の誹謗中傷記事を掲載した。
三 遠藤美由紀 SNSで積極的に隼人の情報を拡散して炎上を煽った港区女子系インフルエンサー。
四 上野正義 都立高校の教師。隼人の自宅アパートを訪れて写真を撮りSNSに投稿していた。
五 君島健斗 自称「晒し系ハッカー」。隼人の個人情報をダークウェブで収集して真崎幸弘に提供した。
ここからは、この五人が隼人からどのように復讐されるのかを見ていこう。
◇◇◇
「みなさん、こんばんは。正義のインフルエンサーカイトです。今日も僕のところにはたくさんの悪事の情報が届いているから、みんなで天誅を下してやろうね」
告発系インフルエンサーのカイトこと拝島透は、いつものように動画配信を始めた。しかし――。
『未成年の子に手を出してたくせに、何言ってるのこいつ?』
『ファンの子妊娠させて、中絶強要したらしいよ。サイテー』
『犯罪者が正義語ってんじゃねえよ』
『自分が炎上してるのに、よく配信できるよね? まあでも、それぐらい神経図太くないと暴露配信なんてできないかあ』
「え? みんな何言ってるの? 正義のインフルエンサーの僕がそんなことするわけ……」
『証拠の画像が出回ってるのに、まだしらばっくれようとしてるぜこいつ』
『DMのスクショまでバッチリ出されてるのに。あんなDM送りつけるようなクズが正義語ってんじゃねえよ』
「しょ、証拠の画像だって……DMも?」
(そんなはずは……)
視聴者からのコメントに動揺した透はすぐに配信を打ち切った。スマホの通知がひっきりなしに入ってくる。
「うわあああああ」
恐怖に耐えきれなくなった透はスマホを投げ捨てて、家を飛び出した。その後、カイトのSNSと動画サイトのアカウントは全て削除されて、二度と復活することはなかった。
◇◇◇
「カイトの奴、未成年の視聴者に手を出していたのか。バカな男だねえ」
インターネット掲示板のまとめサイト「まさゆきチャンネル」の管理人、真崎幸弘は今日もネット掲示板を巡回しながら記事にするネタを探していた。
「ろくなスレッドがねえなあ。仕方ない。自演して炎上させるか」
幸弘は知り合いのハッカー、君島健斗から定期的に炎上用のネタを購入していた。
「さてと、今回は【電車でJKのパンツを盗撮をしている奴がいるんだが……】で行くか。確か都立高校教師の上野正義って奴だったな。全く、正義なんて名前なのに盗撮だなんて、バカな男だよ。ま、そのおかげで俺のサイトのネタになってくれるんだから、感謝しないとな」
幸弘はインターネット掲示板ログちゃんねるのニュース板に上野正義の犯行画像を添付して、新規スレッドを作成した。
「これでよしっと。後は適当にレスがついたら、まとめ記事にして俺のサイトに載せるだけ。ふふ、炎上系の記事はかなりPVが稼げるからなあ。ほんと、正義くん様様だねえ」
『自分のまとめサイトに記事を載せるためにスレ立てしてるアフィカスの真崎幸弘君。ここ、転載禁止なんだけど』
『このアフィカス、ずっとここでスレ立てして自演したんだってな』
『顔と名前、SNSにあがってるし、特定は時間の問題でしょ』
「は? なんで俺の情報が……ていうかなんでこいつら俺がスレ立てしてまとめ記事にしてるの知ってんの?」
『俺、こいつの自宅特定したわ。ていうか今、こいつのアパートの玄関の前にいる』
「は?」
ピンポーン。
幸弘の住むアパートの玄関のチャイムが鳴る。
「アフィカスの真崎幸弘さーん。いるんでしょー」
ドンドンドンドン。
玄関の戸を叩く音が聞こえる。
「真崎さーん。いるんでしょー。開けてくださいよー」
「おいよせ。来るな。来るな来るな来るなぁー!」
ガチャ。
「なーんだ。開いてるじゃねえか」
◇◇◇
「あのバカ。せっかく情報を売ってやったのにしくじりやがって」
自称【晒し系ハッカー】の君島健斗は、太客の真崎幸弘が自分の提供した情報で立てたスレッドで炎上しているのを見て苛立っていた。
「また新しい客を見つけるか。売れる情報はいくらでも手に入るからなあ」
ピンポーン。
「ちっ、うるせーな。こんな時間に誰だよ」
健斗は基本的に呼び鈴を鳴らされても玄関に出て対応することはない。わざわざ家に来るような家族や友人がいないからだ。
ピンポーン。
「しつこいな……早く帰れよ」
「警察です。君島健斗さん、あなたに逮捕状が出ています。玄関を開けなさい。開けないと無理やりドアを壊して中に入りますよ」
「なんだって?」
(これまでたくさんハッキングしてきたが、痕跡は残してこなかった。警察に捕まるようなヘマはしなかったはずだ……。まさか、情報を売った客に裏切られたのか? いや、そもそも客には俺の個人情報を明かしていない。クソッ、一体誰が俺をサツに売ったんだ?)
健斗は頭が真っ白になり、トイレに立て篭もる。玄関から、ドアを壊す機械の音が鳴り響いているのが聞こえていた。
◇◇◇
港区女子系インフルエンサーの遠藤美由紀は、SNS投稿用に高級車をレンタルして撮影をしていた。
「確か、ナンバーを写すと数字でレンタカーだってバレるらしいから、気をつけないとね」
遠藤美由紀は自身のSNSでセレブを演じるために金が必要だった。
「炎上している案件に乗っかると簡単にインプレッションを稼げるからいいわ。また美味しい炎上案件こないかしら?」
美由紀はSNSで炎上案件を探している。
「え、何これ?」
美由紀は思わず目を疑った。自分がパパ活をしている男性にベッドの上で抱かれている写真が投稿されていたのだ。
その投稿は、ものすごい速さでいいねとリポストが増えていき、自身の恥ずかしい画像が拡散していく。
「ちょっと待ってよ。こんな写真拡散されたら、私、生きていけないじゃない!」
美由紀の全身から血の気が引いていく。同時に、美由紀のスマホからせわしなく通知の音がなり、メッセージが表示されていくが、もはや美由紀にその内容を確認するだけの気力は残されていなかった。
◇◇◇
「五人のSNSのアカウントが削除された。遥さん、メンバーのみなさん、本当にありがとう」
隼人は恨兎のアジトで遥たちに深々と頭を下げた。
「頭を上げて、隼人君。まだ、最後の一人が残っている」
隼人の最後の標的――警視庁の職員である安野政孝は警察官という立場にありながら、歪んだ正義感から、隼人を誹謗中傷した男である。同姓同名の神谷隼人を犯人と勘違いし、遺族を装って告発系インフルエンサーのカイトに隼人の情報を送りつけた、全ての元凶だ。
「警察関係者は厄介でね。下手に手を出すと、逆にこちらが難癖をつけられて逮捕される可能性がある。だから、今回は私に任せて。警視庁の中で処理させるよ」
◇◇◇
「安野警部補、あなたにお伺いしたいことがあります。監察官室までご同行願います」
その日、安野警部補は警視庁警務部の監察官から事情聴取を受けることになった。監察官は、警察内部の不正行為や不祥事を調査し、処分を決定する役職である。
「何故私を呼んだんだ。私は何もやましいことはしていないはずだが……」
安野は自分の聴取を担当することになった監察官に不服を申し立てる。しかし、監察官は冷静に安野に問いかける。
「安野警部補、あなたが犯罪情報等管理システムに複数回アクセスして、過去の捜査情報を閲覧した履歴があります。正当な理由がなく、捜査情報を照会することは内規に違反することはあなたも知っていますね? 総務部所属のあなたが何故捜査情報を照会する必要があったのでしょう?」
「それは……、個人的に興味があったからだ」
「なるほど。捜査担当者と違って、総務部のあなたには、全ての情報へのアクセス権限は付与されていなかった。ですので、個人情報の全てを閲覧することはできなかったはずです」
「……何が言いたい?」
「SNS上で母子連続殺害事件の犯人と同姓同名の別人が個人情報を晒されていると匿名で通報がありました」
「まさか……」
「心当たりがおありのようですね。安野警部補、あなたの業務用パソコンとスマートフォンの押収許可が出ています。調査に協力していただきますよ」
その後、安野のスマートフォンから告発系インフルエンサーのカイトのSNSアカウントに複数回、捜査情報と思われる情報をダイレクトメッセージで送信していた痕跡が発見された。
複数の捜査情報と個人情報を漏えいさせたことが確認されたことで、安野は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで逮捕され、懲戒免職となった。
◇◇◇
「本日、安野が逮捕されました。これで、隼人君の復讐は全て達成されました。これもみなさんの協力のおかげです。本当にありがとう」
遥はメンバーに深々と頭を下げる。
「そして今日はもう一つ報告があります。サポートメンバーの隼人君が正式に私たちの組織に加わってくれることになりました」
遥に促され、隼人はメンバーたちの前に立つと、深々と頭を下げる。
「この度は、僕の復讐に協力していただき本当にありがとうございました。おかげさまで僕を誹謗中傷した人達を僕と同じ目に遭わせることができました」
隼人は正式に恨兎のメンバーに加入した証として、遥からウサギの着ぐるみの頭を渡される。隼人がウサギの着ぐるみを被ると、他のメンバーから拍手が巻き起こった。
「ありがとうございます。今回、僕が被害者となって気付かされたことがあります。それは、犯罪者たちは傷つけられる痛みを知らないから、平気で人を傷つけられるということです。だから僕は、恨兎のメンバーとして、彼らに、被害者が受けた痛みを教えてやろうと思います」
「素晴らしいよ隼人君。他人に優しくできるのは、他人に傷つけられた、痛みを知る人間だけなんだ。そして、自分の手を汚す覚悟の無い人間に、理想を実現できるはずが無いからね。犯罪者をこの世界から無くすために、これからも私は進んでこの手を汚す覚悟だよ」
遥と隼人に、他のメンバーから再び拍手喝采が巻き起こった。
こうして、恨兎にまた一人、復讐と言う禁断の果実の味を知った人間が増えた。
◇◇◇
遥たちのおかげで嫌疑が晴れた隼人は以前と同じように帝都銀行で働いている。変わったことと言えば、目立たないように仕事をしていた隼人が積極的に上司や同僚に話しかけるようになったことだ。彼自身、今回の件で何か思うところがあったのかもしれない。
いつものように、定時に仕事を終えて自宅のアパートへと向かう隼人。しかし――。
どすん。
「ニセモノさん、ごくろうさま」
アパートの入口で隼人は何者かにいきなり刃物で脇腹を刺された。そのまま、彼は帰らぬ人となってしまった。
母子連続殺害事件の犯人、神谷隼人は、校正プログラムによって殺人衝動を抑え、事件の記憶を忘れるように矯正されていた。
だが、事件のことを忘れて平穏に暮らしていたこの隼人は、今回の騒動で二十年前の事件のことを完全に思い出した。二十年ぶりに殺人衝動が湧き出してきた本物の隼人は、手始めにこの物語の主人公である神谷隼人を殺害することにした。
そして、ナイフを片手に、隼人の住むアパートの前で、彼が帰宅するのを待ち構えていたのだ。
隼人の遺体の脇には、手紙が置いてあった。
『覚えておけ。神谷隼人は僕一人だけだ』
◇◇◇
遥は警視庁内部にいる恨兎のサポートメンバーから、メンバーの神谷隼人が何者かに殺害されたことと、遺体の傍に犯人が残した手紙の内容を伝えられた。この手紙から全てを察した遥は隼人を守れなかったことを知り、呆然としながら泣き崩れた。
「ごめんね、隼人君。私……君を守れなかった――」
緊急でアジトに集まった遥と恨兎のメンバーは、本物の神谷隼人に復讐をすることを誓う。
「隼人君。君を守れなかったのは私に気の迷いがあったから。そして、覚悟が足りなかったからだ。だから、もう私は迷わない。もう手段を選ばない。どんな手を使ってでも、確実に犯罪者たちを追い詰めてやる。――そうだ。奴らに高額の懸賞金を掛ければいいんだ。そうすれば、懸賞金目当てで市民たちがハンターとなって犯罪者を追いつめる。そして、懸賞金と引き換えに引き渡された犯罪者たちを、私たちの手で処刑すればいい。最初の標的は殺人犯の神谷隼人、お前だ。お前だけは私が必ずこの手で処刑してやる!」
そう話すと、遥は手に持っていたナイフをウサギの被り物の頭に突き刺した。
◇◇◇
遥と恨兎のメンバーたちは、犯罪者たちを追い詰めて、確実に捕えるために、【ジャスティスプロジェクト】という計画を立ち上げて、犯罪者たちに高額な懸賞金を掛けていくことにした。
「隼人君、私はあなたのことが本当に好きだった。だから、私が狩人《ハンター》になって、必ずあなたを殺した犯人を追い詰めて処刑するからね。そして、私は痛みを知らない犯罪者どもを狩り続けることにしたよ。この国から犯罪者がいなくなるまでね」
程なくして、ウサギの着ぐるみの頭部を被った【ハンターラビット】と名乗る謎の人物が、様々な理由で罪を裁かれなかったり、逃亡している犯罪者たちに高額の懸賞金を掛ける動画配信を開始した。
ハンターラビットの配信する動画は瞬く間に人気となり、多くの視聴者が高額な懸賞金を目当てに犯罪者を探し出すようになった。
しかし、皮肉にもそれは、かつて隼人を苦しめた告発系インフルエンサー「カイト」の動画配信と同じ行為であった。
◇この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。
「特定されました」 人違いの炎上で全てを奪われた男の復讐劇 安珠あんこ @ankouchan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます