お嬢様。
「ねえ、宮瀬さん。今度のパーティーって、私、行く必要ないと思うの。まだ生物学のレポートを一つ追加される方がマシだわ。」
「まあまあ、そんなこと言わずに。彩羽さんはこれから先、お父上を支え、いずれこの皇の企業グループの後継ぎになられるんですから。ああいう場にも慣れておかないといけないんでしょう。」
よくは分からないけれど、この前、父が新たなアンドロイドのプログラム開発で国際クリエイター賞を受賞して、その大規模な祝賀パーティーがあるらしい。で、どうやら私もそこについて行くみたいな話になっているとのこと。
「はっきり言ってあんなの、行って知らないおじさんに挨拶して、あとはお利口に座って待つだけじゃないの。」
「全く…そんなことを言うのなら、フランス語のアニー先生に、作文を5枚増やしてもらいますよ!」
「あ、それだけはやめて。」
宮瀬さんは父の秘書。いつも学校の送迎をしてもらっている。身の回りの人だったら、割と一緒にいても気が楽な方。
「ほら、着きましたよ。」
車を止めたその先に、もう見慣れた立派な門と建物があった。
「行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
院瀬美ヶ丘学園。国内有数のお嬢様学校。自分に向いていないわけではないけれど、こんな学校に通っているのも、不本意だ。
(パーティーは1か月後…学園の課題とフランス語と英語の稽古の宿題に、バレエのレッスンはいつも通りある…。)
「はぁ、終わるはずがないじゃないの…。」
「い、ろ、は、ちゃん!!」
「きゃあ!……美香ちゃん!」
肩までの短いツインテールを揺らして、満面の笑みで私の肩に飛びついてきたその子。
「えへへ、びっくりした?」
「うん、びっくりしたわ。」
学園の友達、琴宮美香ちゃん。お父さんは医療研究者で、私の父の会社とも関わりがあり、一応名家のお嬢様。だけど、お茶目でいたずら好き。でも可愛らしい癒し系キャラだから、構いたくなる。
(ペットに子犬がいたら、こんな感じなのだろうか。)
「⋯おはよう。」
「彩羽ちゃん、なんかあった?フランス語の宿題?それともお父様の件?そういえばなんかすごい賞とったんだっけ。」
(どれも当たってる…。)
「実は、今度お父さんの祝賀パーティーに出席しないといけなくて。正直ものすごく面倒なのよ。」
「あー、めんどくさいよね…。大丈夫だって!そういうのは自分の席に座って、とりあえずにこにこしておけば行けるから!」
「本当かな…。」
*****
「んー。まぁ、仕方ないことだと思います。」
分厚い本を片手に、切れ長の目をこちらに向けてたその子。
「それはわかっているんだけれど…。」
「あくまで、私たちがおかれた立場、それを分かっていて、彩羽はそうやってウジウジしているのでしょう?」
白石朱鳥ちゃん。こちらも学園の友達。美香ちゃんとは対照的に、常に冷静沈着、上品でまさに『お嬢様』って感じ。彼女のお父様は政治家で、真面目、有能、人間関係も安定、おそらく、世が求める逸材になるであろう。
「まず、ここに通っているだけで、育ちが良く、洗礼された人間認定はされるし、『皇彩羽』って名を、あなたが持って生きるだけで、良くも悪くも高潔なお方だもの。パーティーくらいには慣れないと。」
「朱鳥ちゃんはこういうの、行ったことありそうだよね。」
「祝賀パーティーとか?そこまで大規模なものは行ったことないけれど、あるにはあります。」
「そっか⋯。」
お嬢様。高潔な人間。名家の娘。そんな肩書、もう慣れた。きっとみんなそうだ。人によって異なるのは、それをすべて背負って立派に生きるのか、自覚することをやめたのか、それにもう呆れているのか、どう生きるかだ。
(私は、どう生きればいい…?)
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