第50話「鬼喰いの倒し方」
『”どうも、龍人サマ。やはり一族の長に匹敵する龍人が相手だと厳しいネェ”』
真っ二つになった岩の向こう側には小さな泉が湧いており、地下の岩壁にはぎっしりと木の根が張られている。
割れた岩からいくつかの飛び石が続き、小さな赤い鳥居に続いていた。
その向こう側には丸い鏡を手に持つ”鬼喰い”が鎮座していた。
燃える炎のような夕暮れの色。
花純と同じ真っ赤な瞳、イタズラ好きの猫のような目の形。
『”久しぶり、花純。元気そうでなによりだ”』
「楓……」
外はねの目立つ髪からは鬼特有の二本角。
耳は尖っており、笑うと八重歯が目立つ。
見た目も人格も楓のもの、しかしまとう邪気は鬼喰いそのもの。
なぜ楓が鬼喰いになっているのか、花純はわけもわからず触発されて前に出た。
「楓! 助けに来たよ! 鬼喰いを倒して一緒に蛍ちゃんのところへ帰ろう!」
『”……蛍かぁ、懐かしいなァ。会ってみてぇなァ”』
「――っ会えるよ。だから鬼喰いを……。どうすれば……」
『”ムリ。オレの身体が鬼喰いの暴走を抑えてるんだ。会えたのはうれしいけど早めにここから離れてほしい”』
「なに言って……」
楓の言葉通り、鬼喰いは楓の中にいるようで岩を割って以降、邪気を濃くして今にも襲ってきそうだ。
媛巫女の説明だけではいまいち不鮮明であったが、いざ目の当たりにすると鬼喰いとは何体もの鬼が複合して出来た化け物だとわかる。
その中心に添えられているのが楓であり、人格は楓だとしても今にも襲おうと殺気が揺らいでいた。
「……楓くん」
砂利を踏む音に振り返ると、鬼喰いが封じられている場所に楓がいたことに息を呑む媛巫女がいた。
徐々に気が動転してきたようで、ややパニックを起こしながら楓がここにいることに疑いの目を向ける。
『”……光莉も。久しぶりだ”』
人恋しいと、楓らしくないやわらかい口調で媛巫女の名を呼んだ。
楓のことを覚えていなかった媛巫女だが、名前を呼ばれた瞬間、目を見開いて震えだす。
静かに切なさのにじむ涙を頬に伝わせ、苦しさを押し殺して微笑みを浮かべた。
「思いだした。わたし、約束守れなかった。……蛍を失っちゃった」
『大丈夫。花純が守ってくれた。……オレはもう守れそうにないけど、花純がいるなら大丈夫だ』
「……楓? なにを言っているの」
顔に熱がこみあげて、じわじわと痺れだす。
動揺に頭が縄で締めつけられたような痛みを走らせる。
記憶を取り戻した媛巫女を慈しむ眼差しで見ている楓は、花純の知らない顔をしていた。
花純の疑問に楓はニッと歯を見せて笑い、手に持つ鏡の面を指し示した。
『”この鏡のなか、鬼が入ってる。鬼喰いってぇのは鬼の集合体なんだ”』
「楓。お前だけ抜け出すことはできないのか?」
『”ん~、厳しいなァ。正直、今他の鬼を抑えるので精一杯ってぇね”』
紫暮の問いに楓は困ったと後頭部をかき、誤魔化すようにケラケラ笑い出す。
平然としているが楓のわずかな動揺を隙とみて、抑え込まれている鬼たちが主人格を乗っ取ろうと牙をむいた。
首から顔にかけて筋肉の筋が浮かび上がり、楓は痛みに耐えて身を丸くする。
元々赤い瞳ではあるが、身体にダメージを受けるほどに目尻に血が溜まって涙となった。
苦しむ楓に花純は泣き叫ぶが、この場でもっとも無力なことに胸が引き裂かれそうになる。
『”光莉。もういいから。オレごと、鬼喰いを倒せばいい”』
「――そんなこと言わないで! わたしは貴方を失いたくないの!」
楓がその身に鬼喰いを抑えるようになった際、どうしようもなく苦肉の策として媛巫女が封じた。
一気に消滅させてしまえばよかったのに、楓を犠牲にするのは嫌だと媛巫女はその場で出来る最善を導き出し、楓の中に抑え込むことを選んだ。
鬼喰いは鬼を求める。
第一に楓を取り込み、媛巫女は楓ごと倒すほか道がなかった。
拒絶した結果、楓ごと封じるしか出来ずに媛巫女としての責務を全うした。
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