第49話「鬼喰いとの戦い」
凛とした花純の様子に媛巫女はうなずき、従者に扉を開くよう命じる。
重々しい鉄の扉が開かれ、視界に飛び込んできたのはしめ縄の施された巨大な岩だった。
すぐさま巫女たちが火をともし、すでに張られた結界の配置に着くと祝詞を唱えだす。
静まり返っていた空気が一変、縦に大きく揺れ出すと岩の頂点に入っていた亀裂がメキメキと音をたてた。
(ここに鬼喰いが……!)
「きゃあっ!?」
岩の前まで駆けると、すぐ後ろから甲高い女の悲鳴がした。
振り返ると、祝詞を唱えていた巫女たちが一斉に立ち上がり媛巫女を抑えようと襲っていた。
「媛巫女様!!」
「どうしたのあなたたち!? 鬼喰いをおさえなくては……!」
『”これ以上はダメだ。抑えが効かなくなる”』
巫女たちの声は本人たちのものではなく、まるで怨霊のような恐ろしい声が重なる。
知らぬ声のはずなのに、花純は重低音の音を耳にしてハッと息を呑む。
「楓? 楓でしょ?」
花純の問いにそれは答えない。
媛巫女を押しだそうとする力だけが強まり、じりじりと扉の向こう側へ弾かれそうになっていた。
――バシャァッ!!
すべてを流す水の渦が現れ、媛巫女を拘束する巫女たちを壁際に押しやる。
操られた巫女たちの中には足の骨が折れたものもいたが、痛みを感じていないようにゆらゆらと媛巫女を捕えようとした。
キリがないと紫暮は舌打ちをすると、背中からしなやかな翼を生やし、巨大な尾で地面を叩きつけて横にスライドさせる。
水の刃となって巫女たちは壁に叩きつけられ、そのまま拘束具となって動きを封じることに成功した。
はじめて見る紫暮の、龍人らしい姿に花純はほぅっと息を吐く。
誰もが見惚れるだけのオーラがあると、今さらながらに梨亜奈が幼い頃から惚れていた気持ちを理解した。
「媛巫女。岩の向こう側でいいか?」
「はっ……はい!」
媛巫女はすばやく体勢を整えると、紫暮の四方に防御壁を展開し、岩の向こう側から襲いかかってくる邪気を弾く。
この向こうに楓がいる。
だが岩の向こうに抑え込まれているのは鬼喰いだ。
同じ場所から二つの気配が入り混じっている……いや、それ以上の禍々しい気配がいくつも絡み合っていた。
紫暮は水を自在に操って剣を形成すると翼をはためかせ、勢いをつけて岩を真っ二つに斬りかかる。
割れた瞬間、真っ黒な邪気が四方八方に飛び出し、この場にいる全員に悪意の塊をぶつけにかかった。
抵抗力を失った巫女たちに黒い煙が入り込み、まるで操られた獣のような顔をして媛巫女に飛びかかる。
紫暮を囲む防御壁を維持しながら媛巫女は、巫女たちを傷つけないよう走り回って弓を構えた。
(慣れた動き。まるでお母さまみたい)
花純が生まれた頃にはすでに母・綾芽は巫女を引退していた。
だがどうしても人手が足りずに助っ人に入ることもあり、その時の一歩抜きんでた動きに花純はひどく憧れた。
残念ながら花純には巫女の能力がなく、それどころか鬼の能力を有している疑惑が浮上した。
憧れた人物像とは異なり、結果的に何人も傷つけてしまう。
”鬼の誘惑”はいまだわからないが、少なくとも紫暮と梨亜奈の人生は狂わせた。
好きだと言ってくれる紫暮をこのままにしていいのかもわからない。
(それでも私は紫暮様が好き。それだけは本物だ)
花純は花純のために、これ以上後ろめたい気持ちを抱かなくて済むように。
せめて大事な人の”家族”を守れるくらいには強くなろうと、割れた岩の向こう側にいる”それ”を睨みつけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます