第五章 香りの令嬢から、香りの辺境伯婦人へと
第31話 【結香】の香りに包まれて、馬車は帰路へと旅立つ
エルメンテスに旅立とうと言う前日、元両親が遺体の状態で地下牢で発見された。
犯人は、兵士の証言によりセベクと判明している。
今指名手配しているらしく、まだ捕まっていないのだとか。
ただ、唯一助かった点としては――セベクには教会の魔法契約を受けており、王都から出ることは出来ないのだと言うことだった。
「では、エルメンテスに来ることは無さそうですね」
「ええ、教会の魔法契約は厳重です。外そうとすれば命を落とします」
「なるほど……」
それほどまでに強い契約をされている状態ならば、エルメンテスに来ることはないでしょう。もし来たとしたら、最早それは執念だわ。
「では、早急にエルメンテスに馬車を走らせて王都から離れた方が良さそうね」
「ええ、俺もそう思います」
「残念だが、アメリアの元両親は死亡の元、罪人用の墓に既に埋葬していある。王国の決まりなのでな」
「いえ、陛下の御心を見出してしまい、申し訳ございません」
陛下に謝罪すると、陛下は「気にするな。お前は優しい娘だね」と反対に気遣って下さった。
「しかし、セベクを見ていた牢番は何をしていたのだ?」
「腹にフォークを刺されて、その隙にと言う話です!」
「それはまた……。今後フォークは木製に変更せよ」
「かしこまりました!」
バタバタと兵士が走る中、私は父の死を悲しんだりはしなかった。
最後に何を思って死んだのかは知らないけれど、セベクにまで恨まれていたなんて知らなかったわ。
それとも、単純に元両親が邪魔だった……とか?
断頭台に消えるというのに?
「セベクは元々猟奇的なところがあった。それが今回の一件で爆発したんだろう」
「恐ろしい殺人鬼を世に出したかもしれん。兵士には巡回を強化させて直ぐにでも捕まえさせる。教会の魔法契約で、居場所は地図にのるからな」
「それなら安心ですね」
「すぐに見つかることを祈ります」
こうして私達は翌日、エドワード様と一緒にエルメンテスへ向けて出発した。
最早王都には……いいえ、残していく元義妹のことも、死んだ元父の事も、全てここにおいていくの。
私の家族は、亡きお祖父様と、お母様だけ……。
今更悲しむことはないわ。
お祖父様とお母様が亡くなった時、思う存分泣いたもの。
「アメリアの家が代々受け継いできた家は、売りに出してよかったのかい?」
ふと声を掛けられ、私は小さく頷くと「家を持っていても、使いませんもの」と告げると、エドワード様は複雑そうな顔をしていたわ。
きっと、元家族のことを考えているのね?
優しい人……。
「安心して下さい。元家族のことで潤んじゃありません。これから先、私が王都に戻るにしても、エドワード様の持つタウンハウスがあるではありませんか」
「そ、それもそうだな! すまない、変に考えてしまって」
「ふふ、お優しいところも含めて好きですよ」
「すっ! 俺もだ!」
「あら? 言葉にはしてくださらないの?」
「むぐっ! アメリアは一枚もニ枚も上手だな……。無論、好きだし……愛してるよ」
「まぁ!」
「ははは!」
エドワード様のほうが上手だわ!
してやられた感がして悔しかったけれど、でもそこも含めて愛しいお方。
これから五日間の帰路への旅はきっと楽しいわ。
さぁ、これからのことを――未来を話しましょう?
【
それは、今までかの土地が望んでも望めなかったものだったわ。
でも、その望んでいた物を手に入れて、次はどこに進むのかしら?
「暫くは、婚約したと言う話を広めないといけないね」
「こ……婚約ですか?」
「ああ、無論君と婚約したと広めよう。俺は君を妻に迎えたいが、君は嫌なのかい?」
「いいえ? 私はエドワード様しか夫は考えられませんわ」
「なら、決まりだね」
エルメンテスに戻ったら、婚約したと皆さんに伝えよう。
きっとハンナさんは涙を零して喜んでくれるわ。
私に出来ることは全てやった。
寧ろ、やりきったと言う方が正しいかも知れない。
元両親が断頭台で罪を償うこと無く亡くなったのは想定外だったけれど。
そしてセベクが、元両親を殺したのも……予想範囲外だわ。
予想外のことが何度か起きたけれど、私は対して動じなかった。
それだけ元家族との仲は冷え切っていたという証でもあるのだけれど。
「冷たい女とお思いになりませんでした?」
「全く? 何故そう思うんだい?」
「元両親とは言え、あんな死に方をしたのに全く動じませんでしたので」
「ああ、そんなことか。それなら君ならばそうするだろうと、想定内だね」
「想定内……ですか?」
予想に反した言葉が帰ってきて驚いていると、彼はくすりと笑い私の頬を撫でた。
「君があの家で受けた事は全てではないにしろ聞いている。どれだけの苦労があったのかも、マーヤ公爵夫人からも聞いている。それを鑑みても、あの家の事で君が動じることはないだろうと判断していた」
「まぁ……!」
「君は芯のある強い女性だからね。負けないと思えば負けない。どうでもいいと思えばどうでもいい。そんな頑固な一面もあるだろう?」
「それは……まぁ、否定はしませんわ」
「そこもまた、惹かれたところなんだ」
思わぬ言葉に目を見開くと、彼は「俺はどうにも気が強い女性が好みのようでね」と口にしてから……「君にだけだけどね?」とお茶目に返してくれたわ。
それには私のほうがくすりと笑ってしまったけれど、こんな跳ねっ返りの気の強い女性を好きだなんて……エドワード様は変わっていらっしゃるわ。
「それに、気が強い割には、情に脆いだろう?」
「それは……分かりませんわ」
「いや、君は情に脆い」
「そうかしら?」
「そこがまた素敵なんだ」
「まぁ、そういう事でしたら……受け入れますわ」
「ははは、納得してないね? でも事実だよ。その面に俺は救われた」
「救われたのは私の方です」
「では、お互いを助け合い、そして補ってきたんだね」
「そうかも知れませんわね」
馬車の中では私達の笑い声だけが聞こえる空間。
徐々に王都から離れていき、護衛が何人か着いてもらっているけれど、彼らに感謝しつつ私達はかの土地へ帰っていく。
「そうそう、こちらに来る時は【
「ああ、そんな香りがしたよ。懐かしい香りだった」
「ふふ、今はどんな香りが良いかしら? と言っても、持ってきているのが【
「どんな効果があるんだい?」
「……仲直りや縁結び、あとは――結婚式に使われるかしら」
「いいね。是非焚こう。この香りは二人きりの時に是非」
蕩けるような笑顔で言われて頬が赤く染まる。
全く、そんなお顔は反則だわ!
でも、そこも含めて、内面も素敵なのだと息を吐き、【
馬車の中が、ほのかに、それでいて上品なバラの香りに包まれる……。
「うん、いい香りだ」
「ええ、とっても」
「アメリア」
「はい?」
「君とともにある未来を、これから考えよう。一緒に」
「はい。一緒に、共に歩んでいく未来の為に」
五日間の旅路は、幸せに満ちてた日々でもあり、恥ずかしくもあり、それでいて……欲しかった愛情を貰い……幸せな帰路となったのは言うまでもないわね。
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