第25話 都市伝説の真核

新宿駅構内の地下、封鎖された最深層で、美咲が古びた掲示板を見つけた。

そこには廃線予定の案内や行方不明者の名前ではなく、“噂”として語られていた断片が雑然と貼られていた。


>「0番線は誰も見つけてはいけない場所だった」

>「顔を食べる影は、もとは人間だった」

>「都市が“記憶”を建材にしていることを、誰も知らない」


玲央が一枚の文書に目を留めた。

墨で書かれた断片的な文章、その内容に息を呑む。


>「1968年、初めて地下構造が都市に“反応”した。駅員の夢の中に都市が語りかけ、自らの形状を変え始めた」


都市が、単なる構造物ではないとすれば――都市伝説は、「都市の記憶」が人々に語りかけている“意志の形”なのではないか。


顔なし。

記憶の街。

0番線。

これらは都市が記憶を記録・再構成する過程で生まれた“副産物”だったのか。


片桐が壁の張り紙に気づく。

古い切り抜き記事に混じって、一枚だけ異質なものがあった。


それは、彼自身の中学時代の作文だった。


>「僕は、駅が喋ってくれるなら、毎日通うのにな」


「なんで……こんなものが……」


この場所にある記録は、単に失踪者のものではない。

誰かが、“駅に対して願った言葉”が集められていた。


都市は、人間の言葉を聞き、街の形に“祈り”を編み込んできた。

そして、いつかその記憶が“都市の人格”となった。


それが0番線。

記憶で作られた路線。


「だから、都市伝説は、誰かの記憶の再構成だった」


玲央は呟く。


駅の奥で、再びアナウンスが鳴る。


>「本日も、ご記憶のご提供ありがとうございます──」


その言葉が、“都市伝説”の正体を明確にした。


それは、人間が忘れたくないこと、誰かに語りたかったことが、都市によって残された“痕跡”。


そして今、その痕跡が意思を持ち、“顔”を作り、“人”になろうとしていた。

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