第3話 バレエの為、お着換えする話

 更衣室の中には、ボク位の小学生から幼稚園児位までの女の子達が着替えをしていた。

 小さい男の子もいたけど、皆 気にすることなく下着になって着替えている。むしろ同性の自分の方がちょっと恥ずかしい。


 ママは空いているロッカーを見つけ、そこにカバンを置いた。

「ほら、着替えるから服を脱ぎなさい」

「え!?」


 ママが出してきたのは体操着ではなくレオタードだった。しかも派手なオレンジ色。

「え、ちょっと。やだよ、こんなの。恥ずかしいよ」

「何言っているの? バレエするんだったら普通よ、ホラ」


 周りの子達見たら、これと同様にレオタード着ている子が半分、体操着とか短パン・Tシャツの子半分。

 うわぁ、ママ、確信犯か。


 ママは強引にボクの服を脱がせ、まずは真っ白なタイツを突き付けた。

「ほら、グズグズしないで」


 ボクはママの肩を持って支えてもらいながら、そのタイツに足を通した。小麦色だった足が真っ白になり、白いから光と影の明暗が出て、足の筋肉のラインがぴっちりと浮かぶ。


「その上から、これを着るの」

 そう言いながらオレンジ色のレオタードを貰う。それを白いタイツの足を滑らせる様に入れて身に着ける。首のところから両袖に腕を入れて通す。ぴっちりとした半袖の生地が肩と上腕をカバーする。このレオタードはスカートの様な余分な飾りは無いから、ボクの身体のラインがくっきり出る。股間からお尻にかけても。


 そして、これまで特に気にした事なかった胸も、このレオタードを着る事でそのラインがくっきりと出て、ほんのちょっと膨らんでいる事が分かった。

 意外にもこんなところで、自分の身体が女として成長していた事に気付かされてしまった。


 実は体操でも試合とかでレオタードは使っていた。最もこれよりもっと地味なやつ。しかもその時でも短パンを上から履いていたから、ここまで恥ずかしくは無かったし、下は生足だったから、こんな白タイツは履いていなかった。

 でも何か白タイツ、生足の時より意識してしまう。


「髪、短すぎて纏められないわね」

「ママ、痛い痛い!」

 無理やり髪をまとめて後ろで束ねようとしている。短すぎてポニーテールにもならない。まるで後ろちょんまげだ。さらに短くてまとまらない部分の髪は、ハードなジェルで固められた。さらに頭全体をぐるっと巻く様なヘアバンドで留めて纏められ、ちょんまげはネットの様な袋をかぶせてヘアゴムでくくられる。

 

「何とかなるものね」

 鏡の中のボクは、赤いヘアバンドがあるからか、一気に女の子の顔になってしまい、何となく恥ずかしくなった。

 正直コレ、ボクの顔じゃない!。


「服とかは全部ママのお古だけど、靴はそういう訳にはいかないからね」

 新品のバレエシューズを出してきた。履いたら今のボクの足にぴったりだった。

 もう色々と突っ込みポイント多すぎて追いつかない。


「ほら、行くわよ」

 着替えが終わり、やる気なくてダラダラ歩くボクを、ママはギュッと手を引っぱって練習場に入った。


 壁に大きな鏡があって、そこに自分の全身の姿が映る。

「うわぁ」

 ひっつめてヘアバンド付けて、もう女の子にしか見えない顔。

 レオタードとタイツで、もう裸でいるのと同じ、いや全身のラインがさらにくっきり出る分、裸である以上に恥ずかしい。改めてやっぱり自分が女だったんだと事実を突きつけられる様な。同じレオタードでも体操のと何か全然違う。

 こんなの最近、中学校の制服を注文する為に女子用のブレザーを着た時以来だ。

 あの時も、子供だと思っていた自分が、ちょっと大人の女になった感じがしてドキドキしたが、今回のインパクトは、それ以上だ。


「思った以上に似合っているわよ。本当、女の子って良いわね」

 ママの機嫌が良い。ボクがバレエするから?

 それとも女の子に見える格好をしているから?

 ああ、何か負けた気がする。ママの思った通りに事が進んでいく。


「本当に、バレエなんか今回っきりだからね!」

「はいはい」

「ほら、そろそろ集合よ」

 一回ママの方を向いて、べーっと舌を出してから集合場所へ小走りした。

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