恋はノイズまじりで

綴野よしいち

ノイジーラブ

第1話:ぼくの視界に、キミが来た

ぼくの世界には、

ちょっとだけ“砂嵐”が混じってるんだ。


モヤモヤ、キラキラ、ザザザって。

まるで、壊れかけのテレビみたいに。

目を閉じても、まぶたの裏でずっと踊ってる。


——ねえ、ちょっと聞いてよ。


これ、ビジュアルスノウっていう、不治の病なんだってさ。

名前だけ聞くと、なんかカッコよくない? でもね、ぜんぜんそんなことない。


要は、視界にノイズが走るだけ。

誰にも見えないのに、ぼくにはずっと見えてる。


「うわ〜! なにそれ、病んでる〜!」って思った?

うん……まあ、正直ちょっと当たってる。


でもこれは“病”であり、“ぼくの世界の一部”なんだ。

そしてたぶん、きみが現れるまで——

ぼくはそれを、ひとりでずっと眺めていた。




「ねえ、キミってさ、何見てるの?」


そう話しかけてきたのは、

制服のスカートをひらりと揺らして現れた、

太陽みたいな笑顔の女の子。


まぶしいって、こういうこと言うんだなって思った。


「何って……うーん、ノイズ?」


「のいず? DJ的な? わっかんないけどさ、

あたし、キミのその顔、けっこう好きかも。」


え?


えええ?


えええええええええ????


はやくも人生バグった気がしてるんだけど……!?



「てか、あたしの名前、**澪(みお)**っていうの。よろしくねっ」


パァン! ってクラッカーが脳内で鳴るくらいのテンションで、

キミはぼくの世界に乱入してきた。


ザザザって、ノイズの中に、

色が差し込んでくる——

そんな感じがしたんだ。


「澪って名前、かわいすぎて反則だと思う」


って、

口に出す勇気は、もちろんない。

ぼくの口から出たのは、ぜんぜん関係ない質問だった。


「なんで…ぼくに話しかけてきたの?」


「んー? なんとなく? いや、ちゃんと理由あるよ?」


そう言って、彼女は人差し指でぼくの肩をツン。

目をまるっと見開いて、言い放つ。


「キミだけさ、いつも空気が違うんだもん。

ねえ、ねえ、気にならない? 自分だけ、

世界の裏側にいるみたいな気分にならない?」


……え。え?


どこかで聞いたことあるような言葉が、

ぼくの中の“砂嵐”をふわりとかきまぜた。


「……えっと、名前、まだ言ってなかったよね」


「うん。言って! 気になってた!」


ちょっとだけ背筋を伸ばして、声を整える。

まるで“好きな人の前で初めて喋る”みたいに(いや、それか?)


「……一ノ瀬 凛。いちのせ・りん、です」


「一ノ瀬くん、かっこよ! アニメに出てきそう!」


「そっちは? フルネームで」


「えー、言っちゃう? はいっ、**月村 澪(つきむら・みお)**です!」


月に村に澪、って

なんか幻想的で、透明で、水みたいだなって思った。


(やばい、もうこの子の名前だけで短歌つくれそう)



「で、趣味は?」


「……え? 趣味?」


「だってさ、名前だけじゃ足りないじゃん。

キミのこと、ちゃんと知りたいもん」


知りたいもん、って。

あんまりにも素直すぎて、心臓のほうがパニック起こしてる。


「……音。聴くの、好き。あと、ノイズ、見てる」


「うわっ、めっちゃ気になる趣味!逆に天才?」


笑いながら、澪は制服のポケットをガサゴソ。

出てきたのは、小さなチャック袋。


「じゃああたしの趣味は、これっ!」


「え……グミ?」


「正解っ! つぶグミのレア色探し♡」


そう言って、袋の中をシャカシャカ振って見せてくる。


「これ、色によって気分が変わるんだよ。

黄色は“テンション爆上がり”、青は“ちょっと泣きたいとき用”、ピンクは——キュン補給♡」


「……完全に自己流だよね」


「そゆとこ、ツッコんでくれるとこ、好きかも♪」


やばい、この人、たぶん強い。

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