第33話 パジャマパーティーを……。

「パジャマパーティー! したい!」


 星空の鑑賞会を終え、神田に屋上の鍵を返して、今日は解散――という雰囲気になったところで愛理が叫んだ。


「え……今から?」

「うん! 私もう今日眠れる気しないし、せっかく蓮がこれからいっぱい遊んでくれることになったんだからさ! このまま朝までいっちゃおうぜ☆」


 興奮冷めやらぬ愛理の提案に、最初こそ戸惑っていた少女達だが、「いいじゃん!」「私は構わない」「ま、まぁ……いいけど」と結局全員が同意した。


 元気すぎるような気はするが……今まで使命感に囚われすぎて、任務外であまり交流を持とうとしなかった蓮が心を開いてくれたことがよほど嬉しいのだろう。今日ぐらいはハメを外しても許されるはずだ。


「よーし! じゃあ各自パジャマを用意して、私の部屋に集合な!」

「楽しそうだけど、あんまりはしゃぎすぎて神田さんに怒られないようにな。じゃあ、オレはこれで――」

「え? 何言ってるんだ。斗悟も来るでしょ?」


 さも当然のように首を傾げる愛理。流石に返答に詰まった。


「……いや……だって流石に、オレがいるのは場違いだろ。女の子だけで楽しむものじゃないのか、そういうのは」

「えー? 何で? そんなことないよ。斗悟がいた方が楽しいよ」


 愛理がニコニコしながら言う。


 そのあまりにも純粋で眩しい好意に、自分が思いつくあらゆる返答が不純なものであるような気がして、またしても言葉に窮してしまった。


 だって、考えてもみて欲しい。


 同年代の、可愛らしい女の子達が、女の子の部屋で、パジャマという無防備な姿で、仲良く談笑している空間に、健全な男子高校生が無心で存在できると思うか? 


 ……あと単純に話題や空気感に一人だけついていけなくて気まずくなりそうなのも辛い。


 固まってしまった斗悟を見て、比奈子がイタズラっぽくニヤリと笑う。


「勇者くんてばー、なんかエッチなこと考えてない?」

「ち、違う! 断じてそんなことはない! ない……けど、やっぱり、こんな夜遅くに一人だけ男のオレが混ざってるのは良くないと思うから、今回は遠慮させてもらうよ!」

「えー!」

「じゃあなみんな、おやすみ――」


 不満顔の愛理から目を逸らして斗悟は踵を返し、そそくさと部屋に帰ろうとした。だが――きゅっ、と服の裾を掴まれてしまう。


 蓮だった。


 俯き、顔を真っ赤にした蓮が、消え入りそうな声で言う。


「……別に……いいじゃん。あ、あんたも……一緒に来れば」

「……………………」


 これを断る勇気は――異世界の勇者にも、なかった。



 なぜ……こんなことに……。


 ここソフィア本部には、常駐する桜花戦士のための居住区画があり、愛理達にも一人一人に個室が与えられている。


 個室の外は共用空間であるため、人通りのない深夜といえどパジャマでうろつくのは忍びない――という理由から、斗悟達はそれぞれ、自分のパジャマを持って愛理の部屋に集合し、そこで着替えようという手筈になったのだが……。


 斗悟はどこで着替えればいいんだ、という問題が発生した。


 当然ながら愛理達と同じ空間で着替えることはできない。幸い桜花戦士に与えられる個室は結構豪華で、広い居室に加えてトイレや浴室も備え付けられており、脱衣所もあったので、斗悟はそこで着替えることになった。……扉の向こうで四人の少女達がきゃいきゃい着替えている声を聞きながら。


 やはり場違い感がすごい。自分は別に着替えなくても、と思ったが愛理から「斗悟のパジャマ姿が見たいから着替えなきゃダメ」と言われて抗えなかった。


 パジャマと言ってもソフィアから支給された何の変哲もないシャツとズボンなのだが。


「お待たせ〜。もう出てきていーよー」


 愛理から許しが出たので脱衣所を出る。


 四者四様のパジャマに着替えた少女達の姿があった。


「おおー。ゆるい格好の斗悟見るの、なんだか新鮮だな」

「そ、そうか? みんなも、その……似合ってるよ」

「えぇ〜? それだけ? もっと一人一人にコメント欲しいなぁ」


 比奈子に煽られ、改めて皆のパジャマ姿を確認する。


 愛理は水色の半袖短パン。愛理自身の眩しい笑顔とスラリとしたスタイルの良さも相俟って、健康的で爽やかな印象を受ける、シンプルイズベストを体現したような似合いぶりだった。


 蓮は猫耳フード付きの、着ぐるみに近いモコモコしたオレンジ色のパジャマだった。蓮と猫耳! かつて歴史上にこれほど相性の良い組み合わせがあっただろうか? 喩えるならそれは、イノシン酸とグルタミン酸による旨味の相乗効果のように、蓮と猫という二種の可愛さが重なることで別次元の高みへと昇華されているのだがこの話は長くなるので後にする。


 ノルファは薄い紫色のネグリジェだった。それは金髪碧眼の美貌にはあまりにも似つかわしく、もう何らかの物語に登場するお姫様にしか見えない。


 そして――比奈子。


 ………………。


 その……なんというか。


 エロすぎる。


 ダメなヤツだ、これ。


 パジャマというかランジェリーである。ランジェリーとしてもエロい部類の。ブラジャーとショーツに申し訳程度の飾り布つけましたみたいな。


 驚くべきは、そんなエロいデザインのパジャマ(?)を完璧に着こなしていることだ……、比奈子のボディそのものが魅惑的すぎる。正直同い年とは思えない。


 他の三人についてはまだ理性を保って「かわいい」と言えるが、比奈子の姿に対する感想からは邪な感情を消し去ることができない……。そして比奈子の表情を見るに、完全に斗悟の反応を楽しんでいる。どうすればいいんだ。


「えっ……と、個別の感想は後でリーフのメッセージから送っておくよ」

「何それ、冗談? それとも本当に送ってくれる?」


 冗談のつもりだったが……皆の反応を見ると、なんだか本当に送らなければいけない気がしてきた。


「よーし、じゃあ準備できたしパーティー始めようか!」

「始めるって、具体的には何を?」

「ふふふ……実はな、みんなで一緒にこれを見ようと思ってたんだ」


 そう言って愛理は意味深に笑い、部屋の中央奥に設置された大型モニターの電源を入れた……。



————————あとがき————————

え!? この話続くの!?


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