第37話 悪戯
走って。
走って。
走って走って。
走って走って走って。
逐一、後ろを見ながら、警戒しながら。
ゴーレムのことを、確認しながら。
瞬間移動に、対応できるように......!
でも、妙だ。
「おかしいです、余呉野さん!」
ゴーレムが、さっきのを最後に、瞬間移動を、使わなくなった......。
なんでだ?
瞬間移動を使えば、俺たちとの距離を、一瞬で詰められるのに。
ずっと、普通に歩いて追ってきている。
これなら、距離を少しずつ開いていける。
ゴーレムの速度は俺たちよりは遅いが、一足ごとが大股だ。
それに俺たちも、万全じゃない。
だから、少しずつ......。
でも、やはり気にかかる。
スキルは、もう使えないのか?
使用回数制限?
それとも、実は、条件が揃わないと使えない?
「いや、そんなはずはない」
ここまで俺たちの不意をついてきたコイツが、その程度の魔物なわけがない。
その程度であってほしいけれども、そんなのは妄想だ。
コイツは、もっとずっと、強(したた)かだ。
なら、何だ?
何かを、企んでる?
「余呉野、さん......!」
「モカ!」
モカが再び、転びそうになる。
でも、それはモカの体力のせいとか、そんなんじゃない。
「俺たち、ずっと走ってきたよな。それなのに、何で......
何で、まだ三層に居るんだ......?」
赤い光が、俺たちを照らし続けている。
三層、30レベルの地帯。
そしてそれは、レベル10のモカにとっては、毒になる。
それはモカの体力を、精神を、徐々に蝕んでいるのだろう。
と、そこで、ようやく光明が見えた。
「見ろモカ! 緑の光だ。二層がすぐそこだ。そこまでいければ、いや。俺が、連れて行く!」
俺はモカを、前に抱え込む。
現実では、こんなことする力もない。
でも、この世界では、レベル20もあれば、これくらいはできる。
俺はもう、なりふり構っていられなくなっていた。
とりあえず、ここから、モカと一緒に逃げて、ミリネラの家に帰る。
モカは、俺なんかに抱えられるのは嫌だろう。
でも、それで嫌われても、生きてさえいれば、生きてさえ、居てくれれば、俺は。
「余呉、野、さん......」
その時。
目の前の、緑の光が、消えた。
「え?」
いや、正確には、消えたわけではない。
緑の光では、なくなったのだ。
先ほどまでの緑は、今や赫赫(かっかく)としている。
「感、化......」
モカが、事態を察したように呟く。
ゴーレムが、俺たちを追う。
そして、追っているから、動いた先の、周りの鉱石が、感化されて、レベル30になっていく。
きっとそれは、俺たちが気づかなかっただけで、さっきから繰り返されていたのだろう。
だから、ずっと走っても、三層にいる気分だったんだ。
「いや、でも!! 二層を抜けたら一層だ。そしたら、感化なんて起こらない! モカの調子も戻るはずだ!」
「......っ」
モカは、もはや風邪を引いた子供のように、うつらうつらしている。
「安心しろ! 俺が、なんとか、するから!」
俺一人でも、この洞窟から出るくらいなら、問題はない。
分かれ道は沢山あるが、モカのおかげで、見分け方はわかってる。
凸凹(でこぼこ)が多い方が、ハズレだ。
その、はずなのに。
「これ、どっちも、デコボコしてないか?」
おかしい。
こんなことは、絶対に。
これは、俺たちが来た道だ。
来た道を、逆走してるだけだ。
だから、どっちもこんな歪なら、モカも俺も、気づくはずなんだ。
洞窟なんだから、どっちの道もデコボコしてても、別におかしくはない。
でも、俺たちが来た道に限っては、どっちもこんなになってるのは、
変なんだよ!
ゴーレムが、こちらへ向かってくる音がする。巨大な足音だ。
俺は、振り返る。
ゴーレムに口はない。
宝石のような、目が二つ。
目だけなのに、
笑ってるのが、わかった。
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