私にもう一度チャンスを━━━
ゆうり1412
私にもう一度チャンスを────
「───は、亡くなりました。」
先生の言葉を聞いた。驚きなんて言葉では気持ちが表せなかった。
夢だと思った。
夢であってほしかった。
それもまた、夢で、
先生の言葉は現実だった。
必死に涙を堪えていたつもりだったけど、いつの間にか視界が歪み、頬にも温い水滴が流れ落ちた。
彼が死んだ理由は、すぐに分かった。
虐めだった。
今年になってから、彼はクラスの数人に虐められるようになっていた。
私も、彼のことを虐めていた。
私は、虐めをしているなんて全く気づいていなかった。
本当に、虐めている人は、自分が虐めをしていることに全く気づかないものだった。
でも、私は、ある日、虐めをテーマにしたテレビ番組を観た。
まだ小学校低学年の男の子のエピソードだったが、私はすぐにどきりとした。
────私、これと同じことを、彼にしてたんだ。
そこから、私は他の虐めっ子にバレないように、こっそり彼の味方についた。
たくさん語り合い、私たちはたまに遊びに出掛けたりもした。
そんな深い仲になったのだ。
なのに、、、、
なのに──────
込み上げてくる感情は、この世の言葉では表せなかった。
その日、クラスの全員がほとんど一言も喋らず授業を終えた。
夕方。
私の家のインターホンが鳴った。誰だろうと思いドアを開けてみると、家の前には彼の母親がいた。
「あ、るなちゃん。ごめんね、こんな時に。」
まさか彼の母が来るとは思っていなかったので、少し驚きつつ、いえ、大丈夫ですと答えた。
「実はね、あの子の遺書が部屋から見つかったんだけど、そのなかにるなちゃん宛ての手紙があったから・・・はい、どうぞ」
ありがとうございます、と言って受け取った手紙は、彼の香りがした。
部屋に戻り、恐る恐る手紙の封を開けた。
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るなへ
るな、今までありがとう
助けてくれてありがとう
実はね、僕、前からるなのこと好きだったんだ。
でもるなが僕のことをいじめるようになって、すごくショックだったんだけど、
そのあと謝って助けてくれて、
本当に嬉しかった。
でも、もう僕はこの世界にいるべきではないのかもしれない。
耐えられないんだ、もう。
だから、もう違う世界で楽に生きようと思う。
告白のチャンスなんていくらでもあったのに、それができなかった。ごめん。
最後に、お願いがあるんだ
僕に、もう一度チャンスをください。
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読み終わった。
最後の1文の意味について考えた。
手紙をポケットに入れた。
部屋から飛び出した。
家から飛び出した。
ひたすらに目的地に向かって走った。
無我夢中で走った。
この時、気づいた。
私──私も─────
あいつのこと──────
好きだったんだ。
気がつけば踏切のところまで来ていた。
遮断機が降りる。
カンカンカンという機械的な音が、頭に響く。
電車が来た。
1歩、踏み出す──────
誰かが、私の肩を掴んだ。
はっとして振り向くと、死んだはずの彼──
みなとの姿があった。
背後を電車が通り過ぎた。
まだ生きているんだと分かった。
みなとは微笑んで言った。
「死んじゃ、だめ。」
その後、私たちは転校して幸せな毎日を送った。
私にもう一度チャンスを━━━ ゆうり1412 @yuuri-33
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