擦る
ささかま
第1話
「なんかいるかも」
深夜2時半、そう言いながら電話越しで友人は100m全力疾走したかのように息を切らせていた。
昔から友人は臆病で、小バエ一つで大騒ぎするようなやつだった。今回の「なにかいる」というのもどうせ家にめちゃくちゃでかい虫がいたというオチだろう。
こんな時間にかけてきやがってと文句の一つでも言いたいところだったが、腹の中に収めたままとりあえず「なにが」と事務的に返事をしておいた。
「わからない、多分人いるかも」
多分て。
「人ならさっさと警察呼べ」
「わかんない…でも擦るような音がする」
「俺には聞こえない、さっさと警察よべ」
パニックになっているのかあまり会話になっていない気がする。
俺は眠いんだ、明日早いんだと最初に言いたかった言葉を添えて強引に切ろうとした。瞬間、ズルズルと何か引きずるような音と共に
「聞こえてないもんね」と友人ではない男の声がした。
翌日、友人は四肢を切断されて自宅で死んでいた。刃こぼれしている包丁のようなもので何度も切り刻まれていたそうだ。
警察によると、犯人は大きいゴミ袋を持って步いていたとのことだった。
袋には誰かの首と胴体と髪の毛が入っていたらしい。
擦る ささかま @osasa110323
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