第4話 ◎1人目

「カズト。目標、モルフェはメインパークの中心に聳え立つ城の最上階にいる模様。迅速かつスムーズな殺戮を。」


「了解。」


耳に付けた無線機を切り俺は背中の剣に手を伸ばす。


門前に到着。当然のごとくセキュリティが多く配備されている。


「おい!そこの者!ここから先はこの国の王、モンペウス様の城であるぞ!」


槍を構え、盾を構え、臨戦体勢。


「そんなこと、分かってるから来たんだろ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


う、嘘だろ。あいつ、ほんの数秒で、

俺たち衛兵を半分以上殺しやがった…。


「皆んな!引くな!王を守れ!」


隊長はああ言うけど、無理だろ。


あいつ、剣を抜いたかと思ったらあっという間に距離を詰めて土煙を起こしながら軍の体勢を崩し次々と斬りつけやがった。


「まだやるか?」


やつは剣を突き立てて言ってきた!


「ひ、ひぃ!待ってくれ!どうか命だけは!」

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剣についた汚れを振り払う。

よし、門前制圧完了。


「これより城内に侵入する。」


無線機に手を当て報告。



城内は赤いカーペットが廊下に沿うように敷かれている。石造りの壁の所々に松明が掛けられ灯りの確保がされている。


間取りは行動開始以前に見たものと変更はない。城を貫く形の廊下を軸に部屋が枝のよう

に分かれている。またその廊下の突き当たりには西棟、東棟につながる道がT字に分かれている。


西棟には客間、応接室、第一広間。

東棟には風呂、調理室、第二広間。

が連なる。


正面門から入り中央廊下を挟んだ階段を上がるとある2階も概ね同様の作りである。

そして、最上階へ繋がる階段は特殊であり、

2階の西棟突き当たり、東棟の突き当たりからの階段から行ける。


現地点、2階。3階への道中。


「おい!来たぞ!」

「侵入者だ!」


見つかってしまった。


ゾロゾロと連なる形で赤いカーペットを汚しながら歩いてきた。


「仕方ない、迅速に済ますため、奥の手を使おう。」


「終わりだ!観念しろ!」


剣を背中の鞘に収め、目を閉じる。


俺は、電龍。目にも止まらぬ速さで電気を従う最恐の龍。


電気を流し、その電気に体を乗せ最前の敵に近づき剣を抜き切り裂く、瞬間に足でそいつを蹴り次の敵に移る。それを敵の数だけ繰り返す。


人の間を稲妻状に縫って斬りつける。


「奥義:電龍:LAN。」



よし。着いた。最上階、展望室。


「よくここまで辿り着いたな。カズト。」


ヤツはそう言って振り返った。

顔を見た時、怒りが抑えきれなかった。


「今日こそ、お前を殺す。」


「ふっ。やれるものならやってみろ!」


「おらぁ!!!」


俺は剣を思いっきり振りかぶりヤツに迫った。


「奥義:電龍:SEN!!」


首を切り落とした。


[ピロッ]


[夢の達成を確認。ベッドルームを初期化します。]


周りの風景のパネルがパタパタと裏返り白くなっていく。やがて一面真っ白の部屋となった。


「よーし!よくやったね!カズト!」


無線機に手を当て反応する。しかし妙だな。

随分と近くに感じる。


「ああ。いつも通りだ。」


この感じ、後ろにいるな。


「違うよ。隣にいるよ。」


「うわ!!」


声の方には彼女がいた。


「えへへ。驚いた?」


彼女はアスナ、俺のサポーターだ。彼女との出会いは突然だった。


俺はいつものようにベッドルームでヤツを殺す算段を考えていた。

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…あいつだけは絶対に許さない。

俺の家族を奪ったあいつを。

だがどうやって復讐する?ゲームである以上あいつに対して直接手は下せない。

四肢を捥いでも、首を切っても、意味は無い。

痛みはない。


「そうとは限らないんだなー。」


とベッドルームの壁から響いて聞こえた。


「え、今なんか声が…」


「当たり前でしょ。喋ってんだから。」


その声はいきなり背中のすぐ後ろから響きなく聞こえた。

振り向くとそこには…


「うわっ!?」


「よっ!」


目の前の声の主は手をおでこにつけ、何とも子供っぽく挨拶した。そしてその主の正体はどうやら女の子のようだった。だがその容姿はほぼ服なし。全裸に近かった。

"近かった"というのは下着を着ていたという意味ではない。そもそも人間の身体という感じがしなかったということだ。


三つの赤い線が背中の一点から左右、両方の横腹を通り足先まで続いている。

そしてまた違う赤い線が同じところから肩を通りおへそにかけてY字に収束している。


いわゆる人間の生物的要素が欠けているのだ。


「き、君は誰だ?」


俺は恐る恐る全裸の女子に問うた。


「私はアスナ。君の力になりたくてこのゲームに参加した女の子!てのは嘘で…」


…唾を飲む。


「君の夢を叶える専属AI、アスナ。ちなみに超高性能!」


数秒間、瞬きを忘れた。


「なんだって!?」


「言った通りだってー。私はアスナ。君の夢を叶える超高性能AIだよ。」


「俺の夢を叶えるってどいうことだ?もうすでに何個かはこのベッドルームで叶ってるぞ。」


アスナ?はくくくっみたいに悪らしく笑ってこう言った。


「実はね、そのゲームには叶えられない夢があるんだよ。その一つがさっき君が願っていた夢。"ゲームマスターの殺害"なんだー。」


"ゲームマスターの殺害"は叶えられない。当たり前だろう。なぜ?なんて言う意味すら無い。

そんなことは俺も分かっているが願わずにはいられない。


「当たり前だろ。そんなこと。」


俺は自信満々に言う彼女にそう返した。


「うんうん。当たり前だよね?でも私がさっき言ったこと覚えてる?」


「まさか、、」


「そう。そのまさかなんだよ。私はその願いを叶えられる。君の夢を叶えられる。」

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俺はその後、アスナと協力関係を結んだ。

アスナは高性能AIと語るだけはあり俺の夢を果たす策を講じた。


それは、ゲーム自体に"バグ"を起こすこと。

このゲームは確かに強固で緻密なセキュリティーが設定されている。そのため内部から起こるバグもまして外部要因のバグは起こったことがなかった。


アスナはそこに目をつけた。裏を返せばこのゲームには"バグが起こらない"という絶対の信頼がある。その信頼はプレイヤーにはもちろんゲームマスターにすら及んでいる。

そのため予測不可能なバグを作り出し信頼を崩すこと、こちらに有利な状況を作ることを目的とした。


そして俺はその有利な状況下でヤツに"ある剣"を突き刺すことで夢を果たすことができる。


"ある剣"とは……まだ分からない。アスナが言うにその剣はこの世界で1番の悪夢を見せる剣…らしい。


そして有利な状況を最大限に活かすには俺自身が剣の扱いに慣れること、それ以上に誰にも負けないほどの剣豪になることが重要であり、今に至る。

そこで始まったのが修行である。


「えへへ、驚いた?じゃない!俺はそういうびっくり系が苦手なんだ。」


「ごめんごめん!あ!そういえばこの前の大会また優勝したんだってね!」


「全く話変えやがって…。だが、ああそうだよ。」


「やっぱり私の目に狂いはなかった!」


アスナは口を尖らせ目を細めなんとまあ自慢げな格好をして言った。


「これで何連勝目?10?12?」


「お前、本当に俺のサポーターか?20だ。」


「マジか!やっぱり私の目に狂いは無かった!!」


アスナは口を尖らせ…以下同文。


「てか、いつ来るんだ?あの人は。」


「多分そろそろだよ。彼女のログも消えたしね。」


そうして数分後、彼女は来た。


「これでいい?」


「もちろん。これでバグのサンプルは取れたよ。ありがと、レナ。」


アスナにレナと呼ばれた彼女はとにかく可愛らしく綺麗だった。このゲームでは確かに珍しいことではない。自身の容姿は自由自在。だが

アスナが言うにこのレナという少女はある理由から容姿はリアルと変わらない、つまりリアルでも容姿端麗であるらしい。


鮮やかなオレンジ色のよく手入れされている長い髪、その美髪に付いている赤いリボンが映えていた。青というよりも蒼い、夜空のようなその目は見つめていると飲み込まれてしまいそうだった。


「そういえば、彼はどうだったのさ?」


アスナはレナさんからUSB状のアイテムを受け取りながら彼女に聞いた。


「…別れちゃった。まあ、私から振っちゃったんだけどね…。」


気まずい緊張感が空気を凍らした。


「そ、そうなんだー。ま、まあ彼、秘密主義だったっぽいし別れて正解でしょ。」


「…!」


アスナの野郎!なんてこと言ってんだ!いくら自分が振った相手でも応えること言いやがって。


「アスナ、黙ってろ。」


自称高性能AIはダンマリ口をつぐんだ。


「……レナさん。」


「……?」


彼女は呼びかけに応じて首を俺に向けた。


「こいつの言ったことは無視してくれ。君も知っての通り空気が読めないところがあるからな…。彼氏のことは辛かったな。さっきの言葉でどれくらい彼氏のことが好きだったか分かるよ。」


「私、彼のことが好きだったのかな。……私、彼に恋と愛は違う、なんて説教したのに、私の方が分からないなんて…。本当に…。」


レナさんは抱えてる。何か大きな問題を。

だがもちろん俺はそれに関わる資格はないし、知る由もない。


しかし、これだけは分かる。彼女は夢を持っていた、その夢をこのゲームで"体験"してしまったこと。そのせいでここまでの苦痛を感じている。


レナさんは涙を拭った。そしてこう吐き出した。


「もう!本当だよ!全部アスナのせいなんだから!」


「え!?私のせい!?」


二人は仲良しだ。俺は二人のやり取りを今日になって初めて見た。それでも分かる。

互いに信頼し合っている。


このゲームは夢を見せるゲームだ。それは幻を見せるのと変わらない。虚空を見せてくる。


やはり、俺は、このゲームが嫌いだ。

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