第19話 元勇者のおっさんは突き進むそうです

「邪魔だ! どけぇ!」


 溜まりに溜まった怒りを乗せ、ノルバは道を塞ぐ輩を斬り捨てていく。

 最高機密だけあって警備は厳重。しかし道を塞ぐ障害もノルバにとっては小石。容易く蹴り飛ばしていく。


『ノルバ、スピード落としなさい! 指示が出来なくなる!』

「お前らが早く来い!」

『アンッタねぇ! そこ右!』


 念話届かない距離に行かれては連携がとれなくなる。それを危惧しての発言にも関わらず取り合う気のないノルバの態度にアーリシアはキレる。

 アーリシアが長い間、店内をうろついていた事には理由があった。それは製造工場の位置の特定。

 奴隷の首輪の解析により、首輪から発せられる信号の逆探知を行いおおよその製造位置は把握する事が出来た。しかし商会側もバカではない。アーリシアという天才を完全に出し抜く事は出来なかったが全貌だけは隠し通した。

 何重にも重ねられた魔法を解析するとなれば他の魔法使いに存在がバレる可能性が高い。

 故にアーリシアはVIPエリアに潜入し、何層もの阻害魔法の下に入って、そこで解析を行った。そうすればトップクラスの魔法使いであるアーリシアなら誰にもバレずに解析を行う事が出来る。

 その結果判明したのは製造工場までの道は迷路になっているという事。

 全体を把握しているのはアーリシアしかいない。だからアーリシアはノルバとの距離を保とうと躍起になっていたのだ。

 しかし彼女もノルバの気持ちが分からない訳ではない。


「私達も急ぐわよ!」


 アーリシア達もシーを連れて急ぎ後を追うのだった。


 ※※※


 一人先頭を走るノルバは不意に足を止める。


「おいアル! アル!」


 おかしい。最低限の距離は保っていたのに念話が切れている。

 アーリシア達に何かあったのか。そう思った時、迷路の陰から氷の弾丸が撃ち込まれる。


「テメェの仕業か」


 全て弾いたノルバが聞くと奇襲犯は姿を見せる。

 外套と大きく尖った笠を被った訝しげな魔法使い。


「左よ……―――」

「なら死ね」


 だがノルバの相手ではない。気付く間もなく上半身と下半身が泣き別れになる。


「おいアル聞こえるか!?」

『良かった。妨害魔法を使ってる奴いたでしょ? もう倒した?』

「あぁ」


 ノルバは剣に付いた血を振り払う。


「警備が厳重になってきている。他の道はねぇのかよ」

『ないわね……い…………私達が……では…………よ?』

「何だって? おい、アル! ……クソッ! また妨害か」


 ノルバを囲い現れた魔法使いと剣士の大群。

 金で雇われた罪の片棒を担ぐ輩。

 ノルバの剣を握る手が強くなる。


「テメェらの金の為に罪のない命がどれだけ犠牲になってるか知ってるか」

「お? 何だっておっさん。ボケて独りで喋ってんのか?」


 耳に手を当てバカにする一人の剣士。仲間がどれだけ殺されていようと臆する事のない強者故の余裕だ。だがしかし、そんな強者も次の瞬間には首が空を舞っていた。


「黙れよ」

「う、うおぉぉぉぉぉ! やっちまえー!」


 一斉に斬りかかってくる剣士。

 逃げ場はない。ノルバは剣を地面に突き刺すと電撃を流す。

 すると電撃は地面を走り近くにいた剣士を一瞬にして黒く炭化させてしまう。

 魔法使いは距離をとったり、浮遊したりで電撃を回避している。ノルバは剣を抜くと空中にいる魔法使いに斬り掛かる。

 防御魔法の壁すら紙の様に斬り、一人仕留めるとそいつを足場にノルバは次の空中の敵へと飛ぶ。

 放たれる魔法を全て斬り捨て、胸元に剣を突き刺すと再度敵を足場に今度は地面に降りる。


「うわぁぁぁぁ!!」


 怯える敵だろうと容赦はない。ノルバは全てを斬り伏せていった。

 その姿はまさに電光石火。何十人といた敵は数分掛からず沈黙した。


 ※※※


 一方その頃、アーリシア達も敵と遭遇していた。


「妨害妨害妨害。ホント嫌になるわね!」

「あの男の事だ。やられはしないだろうが何をしでかすか分からないから心配だ」

「お二人共、敵がいます! お喋りしている時間はありません!」


 ノルバが討ち洩らしたか、それともビビって隠れていたか。

 十中八九後者だろう。

 アーリシア達は剣士の大群に包囲されていた。


「シーさんは返してもらうぜ。大事な金づるなんでな」

「おい、いい女じゃねぇかよ。ズタズタにしてから遊ぼうぜ」

「いいな賛成だ」


 女だ女だといかがわしい目を向ける輩にリッカは唾を吐き捨てる。


「反吐が出る。世界の害め」

「いいな、ねぇちゃん。俺と遊ぼうぜ!」


 斬りかかってくる男にリッカは剣を構える。


「あの男に負けてから私は更に強くなった。もとよりキサマの様な輩には負けん!」


 一撃。リッカの剣は敵の剣ごと持ち主を両断した。


「何だコイツら、つえぇぞ!」

「な、何言ってやがる! 所詮は女。しかも三人だ! 一斉にやれば負ける訳がねぇ!」


 まるで実力さから目を反らす発言にアーリシアは苦笑する。


「エルノ、アナタ殺れる?」

「はい。殺れます。こんな非道を許す人達を私は許せません」


 師匠から任された。何よりこんな悪行が許せない。

 ダンジョンに行って成長出来た。けどまだまだだと実感した。今ここでもう一度成長するんだ。

 エルノは杖を強く地面に突き立てる。


「ガイアフォース!」


 杖を中心に淡い光が一帯に広がると剣士達の視界は知らぬ間に暗闇に沈む。

 エルノ達の周りには突出した地面が囲っている。

 エルノの魔法は一瞬にして外敵を岩ですり潰した。


「上出来よ」


 人が人を殺す事は罪だ。しかしその手を罪にまみれさせなければ守れない時がある。

 エルノはまた一つ殻を破った。

 こんな時にと自分でも思ったがアーリシアは雛が巣立つ親鳥の気分を感じていた。

 しかしそんな気分も早々に切り替える。


「ノルバと繋がったわ。行きましょう」


 アーリシアは道を塞ぐ岩に魔法で穴を空けるとそこを進んでいく。

 そんな時だった。突然地震が起きる。

 常人ならば立っていられない程の揺れ。

 しかしアーリシア達は平然と警戒して武器を構える。


「アーリシア殿!」

「お師匠!」


 突如背後の壁から現れた無数の手にアーリシアは引っぱられる。


『これは壁じゃない!?』


 先程までは確かに変哲もない壁だった。だが今は壁ではなくどこかへ繋がる異空間となっている。

 壁の中に引きずり込まれる。


「お師匠!」


 エルノの手がアーリシアに延びる。

 掴めばどうなる。助かるのか。それとも道連れか。二人だけ残して大丈夫なのか。

 目まぐるしい速度で思考される。

 そして導き出された答えは。


「エルノ、リッカ! アナタ達だけだ進みなさい! エルノ! アナタが道を作るのよ!」


 選ぶべきは託す事だ。

 手に掴まれてから魔法が使えない。これ以上、犠牲を増やすわけにはいかない。


「行きなさい!」

「お師匠ー!」

「アーリシア殿!」


 アーリシアは壁の中の暗闇へと姿を消してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る