民生委員のお仕事

やざき わかば

民生委員のお仕事

 迫りくる少子高齢化の波。医療や科学が発展し、人間の健康寿命も伸びたとはいえ、やはり年を取ると動くのも億劫になるものだ。


 様々な理由で独居をしているお年寄り宅への、一日最低一度の訪問。これは、安否確認、防犯、さらにはお年寄りと話し相手になることで、ストレスを緩和し、体調の様子を伺う、地道だがとても重要な仕事だ。


 そして、その重要な仕事を、俺の町では、俺を含めた民生委員が担っている。とはいえ、俺もそろそろ訪問される側になりそうな年齢なのだが。


 まぁ、町内くまなく歩くので運動にはなるし、途中で新装開店した飲食店を、偵察と称してまわることも出来る。疲れたら、近所の公園で一服。顔見知りの家族と会話も楽しめる。散歩のようなもので、気楽にやっている。


 さてこの度、他所から移住してきたお年寄りの家も、俺の巡回ルートに組み込まれた。しめしめ、俺の行動範囲がさらに広まった。これでまた新たな発見があるぞ。そう思い、ウキウキ気分でそのお宅へと向かう。


 呼び鈴を鳴らすと、少し影のある雰囲気だが上品な佇まいのおばあさんが出てきてくれた。おばあさんなのだが、長身でスタイルが整っており、美しい。


「こんにちは。私はこの町の民生委員の者です。これ、身分証明書です」

「あら。ご苦労さま。わざわざ大変ね、こんなおばあちゃんのところまで」

「いえいえ。これも仕事ですから。最近は、何か変わったことはありませんか?」


 彼女は少し考える。


「ごめんなさい。引っ越してきたばっかりだから、まだあまり、よくわからないの」

「そうですか。いいんですよ。それよりも、この町を選んでいただいてありがとうございます。なにかきっかけになったことはあるのですか」

「最近ね、どうにも身体の調子が悪いの。もう年かしらねぇ」


 話を変えられてしまった。都合の悪いことだったのか?


「わかりますよ。私も最近、ぎっくり腰をやってしまいまして」

「この先の商店街で良い八百屋さんを見つけたわ。あそこの品揃えは侮れないわね」

「そうなんです。我が町の自慢はなんといっても商店街。ぜひこれからもご贔屓に」

「そうだ。ちょっと見てくださらないかしら。最近ラジオの調子が悪いの」


 ことごとく話を変えてくる。さすがにちょっとムッとしてしまった。


「やたら話の腰を折ってくるなぁ。なんなんですか、貴方」

「魔女だよ」


 

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