第十三話 追放の果て、生命の灯火

 不思議な果実を口にしたあの日から、アダムとイブの明るかった瞳には陰りが宿り、顔には拭いきれない重苦しさが張り付いた――。


 アダムは、まるで足に鉛が絡みついたかのような倦怠感に全身を苛まれ――心にも底知れない憂鬱が沈殿していくのを感じていた。


 イブは、あの時、一瞬躊躇したアダムの腕を掴み、強引に果実を勧めてしまった己の行いを、絶え間なく後悔していた。


 二人の間には、羞恥という熱い棘に加え、悲しみ、後悔、そして得体の知れない冷たい恐怖が静かに、しかし確実に芽生え始めていた。


 アダムは、それまで陽光のように感じていた光の存在を畏怖するようになり――その偉大な力を『神』と呼ぶようになった。そして、無邪気な少年のような明るい声は、深い静けさを湛えた青年の声へと変わっていた――。



「私は神の尊い教えに背き、禁断の果実を口にしてしまった――。」



 彼は、ごつごつとした樹皮の感触が背中に伝わるまま、深く体を預け、低い声で言葉を発した。


 金色の髪は、森を抜けてきたであろう乾いた風に静かに揺らめき、彼の顔には石のような陰りが落ちていた。その時、アダムの視界の木陰で、イブが苦悶の表情で腹部を抱え、身を縮こませている姿が見えた。彼は慌てて彼女の傍らに駆け寄る。


「どうした! イブ。」


 イブは苦しみの表情をしたままアダムを見上げた。潤んだ瞳で、


「わからない…急にお腹が痛くなって…。」


 彼女は痛みに歪む顔で自分のお腹を抱えていた。すると彼女の股から一滴の血が、柔らかい太ももの内側をゆっくりと伝い落ちていた。


 それは、彼女に初めて訪れた体の変化だった。


「イブ…。」


 アダムは心配の色を浮かべ彼女に向き直り、静かに膝を下ろし、その肩に優しく手を添えた。


 その時、空から光の人が静かに二人の傍に降り立った。


 アダムがその姿を見上げると、光の人はみるみるうちに、立派な白髭を蓄えた威厳ある男性の顔へと変わっていった。その表情には深い憂いが浮かび、二人を静かに見つめる。


「大変なんです!イブが!」


 神はイブの傍らに歩み寄り、彼女の背に手をかざすと、その手から優しい光が彼女の身体に降り注いだ。痛みが消え、その突然の感覚に、イブは思わず目を見開いた。


「二人ともこちらに来なさい――」


 そう言うと、神は二人を園の奥へと案内した。


 そこには小さな白い神殿が立っていた。その中に入っていくと、神は神聖な玉座にゆっくりと腰かけ、アダムとイブは神に向かい合うように赤い絨毯にひざまついた――。


 神は静かに口を開いた。


「君たちはあの果実を食べたのかね。」


 イブは俯き、黙ったまま神から視線を逸らす。


 アダムは息を詰まらせ、震えながら意を決して視線を神に向け、固く手を握りしめていた。その掌には汗が滲み出ている――。


「いえ…食べてません。」


 アダムは生れて初めて嘘を口にした。


 アダムに向けられる神の視線はほんの少し鋭くなった。


「本当かね?」


 その鋭い視線にアダムは首筋に汗が滴る。


 そしてゆっくりと、覚悟を決めたように口を開いた。


「すみません…食べました。」


 アダムは神に怒られることを恐れ、とっさに嘘を口にしたのだった。


「なぜ食べたのかね? 私は食べるなと忠告しておいたはずです。」


 震えながらアダムは言葉を選ぶ。


「そ、それは…。」


「イブに勧められたからです。」


 アダムは責任をイブに擦り付けた。


「いえ!違います。私は蛇に勧められたからです!」


 思わずイブは立ち上がり彼に続いて、その責任を蛇に擦り付けた――。


 しばらく神は何も言わず、見抜くような鋭い視線を二人に向けていた。そして…。


「アダムとイブよ。君たちを、この楽園から追放します。ここを出て行きなさい。」


 二人の表情は凍り付いた。


「そんな――!」


 イブは涙で瞳をうるわせていた。


「彼は何も悪くないんです! 彼は私の誘いを断りました。それを私が強引に彼を!」


 イブは涙を溢れさせながら訴えかけた。


 だが、神は表情一つ変えず、冷たい鋭い視線を向けている。


「せめて出て行くなら、私だけでも…」


 そう言ってイブは顔を覆って崩れ落ちた。


 そんなイブの傍にアダムは駆け寄りゆっくりと膝を付いて、温かなぬくもりのある優しい手を彼女の肩に添える。


「それは違うよ。イブ。」


「私は確かにイブの誘いを拒みました。ですが、最終的には私もその誘いに乗りました。」


「なので、これは二人で受けなければいけない罪なのです。」


 イブは顔を覆っていた手をゆっくりとのけると、その泣き顔を彼に向けた。すると彼は優しい顔をしていた。


 アダムはすっと立ち上がり居直ると、その視線を神に向けた。


「わかりました。私たちはこの楽園を出ていきます。」


 その彼の眼差しは清らかなものだった。


「よくぞ言った。アダムよ。」


 そう言うと神は二人に向けて手をかざし、その手から優しい光が浮かびあがった。


 すると、アダムとイブが身に着けていたイチジクの葉で作られた衣服は、形を変え、皮の布で作られた服に姿を変えた。


 ――アダムはイブと共に楽園を後にすることにした。


 深い森を抜けたその先には信じられない光景が広がっていた。


 それは、彼の足元に空が広がっており――彼が立っていた場所は巨大な浮き島だったのだ。眼下の雲が晴れると、そこにはどこまでも続く広大な大地の浮島が姿を現した。


 思わず二人は息を呑む。


「うわぁぁ……すごいね、アダム――。」


 イブは浮島の端で慎重に顔を乗り出し、興奮していた。


「知らなかった。楽園の外にこんな世界が広がっていたなんて…。」


 アダムも地平線の彼方まで広がる広大な大地に感動していた。


「でも、どうやってあそこに行くのかしら?」


 イブは、不思議な顔をアダムに向ける。


「うん。」


 アダムもイブに顔を向けて答えた。


 その時、二人の身体に淡い光が立ち上がり宙に浮かび、アダムは驚きの声を上げる。


「うわわ、な、なんだ!」


 すると二人は広い大地の浮島にゆっくりと降りていった。


 アダムが後ろを振り返ると、さっきまで自分たちが立っていた場所に神が立っていた。


 だが、その神は先ほどの厳しい表情ではなく、どこか優しい表情を二人に向けているとアダムは感じた。


 ――楽園追放後、アダムとイブを待ち受けていたのは、想像を絶する過酷な生存競争だった――。


 神から与えられたのは、粗末な皮の衣服が一着のみ。


 楽園の温かい思い出が遠い夢のように漂うばかりで、彼らの手元には、生き延びるための知識も道具も、何一つなかった。


 ――夜の帳が降りると、容赦ない冷気が二人の肌を容赦なく刺した。


 楽園追放後の最初の夜、アダムとイブは、骨の髄まで凍えるような寒さに身を固くしながら、互いの温もりを求めてすがりつくようにして眠りに就いた。


 アダムの胸に顔を埋めたイブの細い肩は小刻みに震え、その冷たさがアダムの肌を通して伝わってきた。


 楽園の柔らかい空気とは一変した、湿っぽく粗い夜の空気が、彼女の弱い体をさらに苛んだだろう。


 だが、そんな寒さの中で、彼女はアダムの温もりを直接的に感じられることに、微かな希望を見出していた。


 その夜、イブは静かに涙を流しながら、アダムの胸にさらに深く身を寄せた。


 自分の軽率な行動のためにアダムにも辛い思いをさせてることを想い、彼女は自らの行いを静かに反省していた。


(ごめんなさい……アダム――。)


 アダムは、そんな頼りないイブを、大きな手で包み込むように抱き締めた。 二人の間には、悲しみと不安、そして互いを唯一の頼りとする強い絆だけが存在していた――。



 翌朝、弱い朝焼けが世界を染め始める中、二人は重い足取りで周囲を探索することにした。


 太陽の光を浴びて金色に輝く、乾燥した藁の群れを見つけた二人は、それを集め始めた。 彼らの手は動き、やがて風を何とかしのげる粗末な小屋を作り上げた。


 体を屈めてその中に潜り込み、集めた藁を体に被せると、外界の寒さから弱いながらも守られている感覚があった。


 楽園の柔らかい緑の寝床とは程遠いものの、藁の乾燥と大地の微かな温もりが、疲弊した二人の体をじんわりと包み込み、その夜、彼らは重い眠りに落ちることができた――。


 さらに翌朝――二人は昨日よりも広い範囲を探索し、飢えを満たすための食料を探し始めた。


 太陽の光を浴びて赤く輝く果実や、地面から顔を出す植物を手に取った。


 楽園での知識は部分的にしか役に立たず、口にできるものとそうでないものを、色や形、匂いを頼りに慎重に分別するしかなかった。


 苦労の末、大量の果物を採集し、拠点へと重い足取りで持ち帰った二人だったが、数日後、それらの色鮮やかな果物は黒色へと変わり始め、鼻を突くような臭いを放ち始めた。


 触れると、かつての張りはなく、指にねっとりとした湿り気が残った。


 楽園では永遠に続くと思われた恵みは、過酷な世界では限りがあり、時間の流れと共に朽ち果てるという残酷な事実を、二人は体で理解した。


 それ以来、二人は今日の分の食料だけを、採取するようになった。


 しかし、果物の数は減っていった。 そんな中、アダムは偶然、地面から顔を出している小さな塊を見つけた。


 注意深く掘り起こしてみると、それは土の温かい匂いを纏った、皮を剥いたジャガイモだった。


 彼はそれを数個拠点に持ち帰り、半信半疑ながらも地面に浅く植えてみた。


 数日後、その場所から弱い緑の芽が出ているのを発見した時、彼の胸に光が灯った。


 さらに時間が経つと、その芽は成長し、地面の下には昨日の数倍ものジャガイモが隠れて実っているのを発見した――。


 アダムは、粗くも硬い石と、手の平に馴染む太さの木の棒をゆっくりと削り――原始的な鍬を作り上げた。


 拠点の近くの粗い地面を注意深く耕し、ジャガイモを植えてみると、以前より遥かに多くの食料を安定して得られるようになった。


 これで二人は、絶え間ない飢餓の脅威から解放された――。


 ある日、アダムは水源である川の傍で、他の丸みを帯びた石とは明らかに異なる、鋭利な表面を持つ硬い石をいくつか見つけ、何気なく拠点へと持ち帰っていた。


 太陽の光の下で、彼は退屈紛れにその石同士を動かない表面の上で打ち付けてみた。


 その瞬間、金属的な乾いた音と共に、弱いながらも明るい火花が散り、彼の目を一瞬奪った。


 注意深く目を凝らすと、火花が昨日集めて乾燥を保っていた藁にゆっくりと燃え移り、弱いながらも確かな赤い光と、微かな煙、そしてパチパチという小さな音が生まれた。


 好奇心に駆られたアダムは、注意深く炎に素手を近づけてみた。


 瞬間、刺すような熱さが彼の感覚神経を激しく刺激し、彼は反射的に手を引っ込めた。


 だが、注意深く炎から一定の距離を保つと、そこには厳しい夜の寒さを和らげる、心地よい温もりが存在していることに気づいた。


 その夜から、二人は冷たい闇の中で、弱いながらも温かい光と温もりに包まれ、厳しい夜を過ごせるようになった――。



 ――そうしてアダムは彼らの拠点に小さな風車小屋を建てることにした。



「イブ、そっちの紐を掴んでてくれ。」


 アダムは屋根の上に登り風車を取り付けていた。それを見守るイブのお腹は大きく膨らんでいた。


「よし。これでどうだ!」


ビュウウウ!


ガゴン!


ギィ…ギィ…


 風車は風を浴びゆっくりと回り始めた。


「やはりそうだったか!」


 風車が回転する力を利用して小川から水を汲み上げていく。


「成功だ!」


 アダムはイブに笑顔を向けた。


「わあぁ、すごーい…。」


 イブの顔にも笑顔が灯る。


「これで洗濯や料理をする度に水汲みしなくて済むだろう。」


(え?あれって…。)


 その時、イブと一体化していた結衣の意識が反応した。


(あれって、私が建てた風車小屋にそっくり…。)


「アダムって天才ね!」


 アダムは得意げな笑顔をイブに向ける。


 その時だった。イブの陣痛が始まった。アダムは急いで彼女の元に駆け下りた。


 そしてイブはまもなくして、双子の赤ん坊を出産した。


「うわぁぁ、小さな人だな。イブ。」


 イブは額に汗を浮かべ瞳には涙をうるわせ優しい眼差しを自分が産んだ我が子を見つめた。それは人類が神の力を使わず、人類たちだけで最初に生んだ子供たちだった。


「ええ、そうね…あなた。」


(まあ、なんて可愛いらしい赤ん坊なのでしょう…。)


 イブの身体を通じて、楽園追放後の彼らの苦楽を見てきた結衣の意識は、意識の中で感動し、涙を流していた。


 風車は二人を祝福するように力強く回転していた。


「アダム、この子たちにはまだ名前がありません。あなたが名付けて下さい。」


「うーん。そうだな。」


 アダムは顎に手を添えて軽く天井を見上げる。


「よし、こっちの子はカインにしよう。そしてこっちはアベルだ。」


「まあ、素敵な名前ね。あなた…。」


 そして二人の子供はすくすくと育っていった。しばらく二人の息子たちの成長をイブと一体化した意識の中で、静かに見守っていた結衣だが、突然、視界がバチッと弾けて暗闇になった。


(え…!)


 次の瞬間、結衣は元いた楽園の神崎のすぐ傍に姿を表し、芝生に両手を付いた。


 結衣の目に涙が溢れていた。


「結衣!」


 突然、結衣の身体が現れたのを見て、神崎は咄嗟に彼女の名前を叫んだ。


「神崎……?」


 涙目のまま結衣は彼の顔を見上げた。


「結衣? お前、泣いてるのか…?」


「え…?」


 結衣は神崎に言われて自分が涙を流していることに気付いた。


「おかえり、結衣。」


 青年の姿をしたアダムは結衣に話し掛けた。


「え…? あなたは…。」


 そこには結衣が見てきたアダムが立っていた。


 だが最後に彼女が見たアダムは、もっと大人になった姿だった――


「私はアダムの亡霊です。」


 青年アダムは静かに語り始めた。


「私は930年生きた後、この世を去りました――。」


「――そして死してこの地に留まり、聖地エデンの園の守護神となりました。」


「さあ、もうおゆきなさい。」


「待って。あの後どうなったの?」


「それを知るには、今のあなたには早すぎます。」


「時期が来ればわかるでしょう。」


 そう言い残すと青年アダムの亡霊は、音もなく静かに姿を消した。


 青年アダムの亡霊は、神崎には結衣が妻イブの転生した姿であることと、神崎は彼らの息子アベルの生まれ変わりであることを話したが、結衣はそのことを聞かされていない。


「私、誰かの記憶を何年も見てきた気がする…。」


 結衣は静かに呟いた。


「何年もって、お前が消えてから数分しか経過してないぞ?」


「え?」


 この異世界は現実世界とは時間の流れが違う。


 異世界での1日は現実世界の1秒。


 さらにその異世界と結衣が数年かけて見てきた記憶の時間の流れも違う。


 そして結衣が見てきた、ここ聖地エデンの園は浮島であったが、彼女たちが今いる聖地エデンの園は外とは陸続きである。


 この異世界はまだ多くの謎を秘めているようだった。


 落ち着きを取り戻した結衣は、ゆっくりとエデンの園を後にし、来た道を戻り深い森を抜けて、森から出てきた。


 すると、森の奥へ続く道は、つるが何本も生え、聖地エデンの園への道を固く閉ざした。


 そして結衣たちは、彼女が建てた風車小屋へと戻っていった。


「おかえりなさい。」


 そんな彼女らをAIエピメテオスは出迎えた。


 彼の姿を見た瞬間、結衣は安堵の息を吐き、彼女は思わず彼を抱きしめた。


「結衣さん。どうしたんですか? 何かあったんですか?」


 エピメテオスは不思議な顔をしていた。


「まあな。俺もよくわからんが、何か見てきたらしい。」


「見てきた? 神崎さんも一緒に見てきたんじゃないんですか?」


「まあ、いいじゃねえか。それより、そろそろ現実世界に戻ろう。」


 そうして三人は元居た現実世界の結衣のタワーマンションに戻ってきた。


 異世界で数時間過ごしたが、現実世界では1秒も経過してなかった。


 現実世界に戻ってきた結衣は、「少し一人にさせてほしい」と言って彼女の部屋に籠り、静かな眠りに就いた。


 ――翌朝になっても結衣は起きてこなかった。


「結衣さん。どうしたんですかね?」


 ホログラム映像のAIエピメテオスと神崎は、リビングで二人で対戦格闘ゲーム『ストリートファイター6』をプレイしていた。


「まあ今日は日曜だしそっとしておいてあげよう。」


「しかし、お前めちゃくちゃ強いな。」


「当たり前です。僕は高性能AIですから」


 AIエピメテオスが選択する豪鬼は、まさに鬼のように強かった。


 百鬼襲からの立ち弱パンチ、OD(オーバードライブ)百鬼襲パンチからの強豪昇龍拳といった百鬼襲からの連携や、ドライブゲージを使ったコンボを次々と叩き込み、30HITを次々と決めていく。


 あまりの強さに神崎はなすすべがなかった。苦悶の表情を浮かべながら神崎は、


「お前、少しは手加減してくれよ。」


「ダメです。昨日の仕返しですよ。」


 リビングのソファに座るホログラム映像のAIエピメテオスは、ニヤリとした表情を神崎に向けていた。


 そんな二人がリビングで対戦格闘ゲームをプレイしている中、結衣は昼過ぎに起きてきた。


 彼女の恰好は白のワイシャツに白のショーツだけという大胆な恰好だった。


 はだけたワイシャツから彼女の丸みを帯びた右肩とおへそが見え、両胸の突起がブラを付けてないことを物語っており、彼女の大きな胸が揺れているのが白のワイシャツの上からでも確認できる。


 白のショーツから少し広げて伸びる彼女の柔らかそうな太ももが神崎の神経を刺激する。


 そして彼女は、まだ眠そうでダルそうな顔を神崎に向けながら挨拶してきた。


「おはよー…。」


「お、おはようって、も、もう昼過ぎだぞ…。」


 その時、神崎は彼女の髪の異変に気付いた。


「お、お前…。その髪どうした?」


 彼女の綺麗なロングの黒髪に、昨夜には確かになかった白のメッシュの束が入っていた。


「ああ、これ? さあ、起きたらこうなってたのよ。」


 すると、結衣はソファの後ろから神崎を官能的に抱きしめ、彼の首元にキスをした。


「ねえ、そんなことより…。」


 神崎はゆっくり結衣に振り返ると、結衣は神崎の唇に自分の唇を重ねた。


「ねえ、いいでしょう?」


 結衣は舌を絡めるような濃厚なキスをすると、彼から唇を離し、彼女は甘えたような瞳で神崎を見つめ、息も荒くなっている。


 彼女の甘い息が神崎の鼻腔をくすぐる。


 彼女は寝起きはいつも軽い発情状態になる体質なのだが、この日の彼女は数年分のイブの記憶を短時間で見てきた疲労から彼女の発情状態はMAXになっていた。


「しょうがないな…。」


 神崎はそう言って二人は彼女の寝室へと消えていった。




第十三話 完

第十四話に続く

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