プロローグ 「魔法兵器」と呼ばれた天才少女
緋色の髪を靡かせ、正確に大量の魔法を放つ姿は、「まるで兵器のようだった」。彼女を見た者は、そう語る。
魔法歴18XX年、魔王軍が人間の領地に侵略を開始した。魔王軍による残忍な殺戮行為に対して人間側は各国が手を組み、すぐさま戦争が始まった。
身体能力の高い魔王軍と数の多い人間軍の戦いは泥沼と化した。
身体的に死にづらく魔法を扱うことに長けている魔王軍に対して、人間側は独自で研究を進めた魔法や魔法道具、兵器によって応戦し、善戦をした。
しかし、領地を奪い合う攻防戦が10年近く続き、少しずつ人間の数は減っていくこととなる。徐々に魔王軍が優勢になっていき、人間側に暗雲が立ち始めた。
そんな最中だった。一人の天才少女が現れたのは。
齢12歳にして、いくつもの上級魔法を使いこなし、独自の攻撃特化型の魔法によって魔族を殺し尽くした。
体内に秘める膨大な魔力量を持ってして、彼女は一日中戦場を駆け抜ける。
そんな姿からついた二つ名は、「魔法兵器」。
魔王軍優勢の苦しい戦いでも、彼女が戦場に駆けつければ、戦況は必ず好転し、あとには魔物の死体が山積みになった。
そうして魔王軍との戦いは徐々に優勢になっていき、3年後、人間側の勝利で終わりを迎えたーーー。
そして、戦争が終結した後のリーキラ王国の王城にて。
「魔法兵器」と恐れられた少女は、国王陛下に謁見していた。
「此度の戦い、ご苦労であった。其方には、多くの戦場で助けられた。其方がいなければ、今日の人間側の勝利はなかったであろう」
「もったいないお言葉です」
そう言って頭を下げた少女の緋色の髪が揺れる。
サファイア色の瞳を持つ彼女の表情にはまだあどけなさが残っており、「魔法兵器」と呼ばれた面影などどこにもない。
国王は初めて会う彼女の意外な幼さに面を喰らいつつ、本題に入った。
「さて。数々の戦績を上げた其方には、褒美を与えたいと思っている」
「……!」
「国宝級の金銀財宝でも、爵位でも、領地でも、欲しい物を望むと良い。何でも与えよう」
「何でも、ですか……」
爵位や領地などを与えると言う真の理由は、他国に少女を奪われないためである。彼女は新たな戦争の火種になりかねないほどの力を持っている。そのため、彼女の望みを叶えて懐柔し、爵位や領地などで国に縛りつけようという算段である。
そんな大人の思惑を知らない彼女は少し考えた後、人差し指を立てた。
「それなら、一つだけ」
「ああ。何でも言ってくれ」
身を乗り出した国王に、少女はにっこりと笑って言った。
「私を魔法学校に通わせてくれませんか?」
「そうか。魔法学校か。君の願いならもちろ……って、魔法学校?」
「はい。私、魔法学校に行ってみたいんです」
「………………………は?」
彼女の無垢な笑顔に困惑しつつ、国王は何とか言葉を紡いだ。
「そ、それは魔法学校の教員として生徒を指導したいとかそういう……」
「いえ、そういうのではないです。むしろ魔法兵器としての正体は隠したいです」
「そ、それは何故……」
残酷なまでに正確無比、無尽蔵な魔力を持って戦場を駆け抜けた天才少女、通称「魔法兵器」。
彼女はにっこり笑って、「魔法兵器」の名に似合わぬ、年相応の少女らしい願いを口にした。
「私、普通の女の子として学校に通ってみたいんです」
こうして、かつて「魔法兵器」と呼ばれた天才少女は現役を引退し……魔法学校に通うことにしたのだった。
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