戦成銃刀

最神煌覇

第1話 夜月舞光

ここは、陸軍特別夜戦部隊である。

田舎の森の奥に作られた、陸軍夜戦部隊の寮は少し薄暗いため、蠟燭の灯を頼りに動く。夜戦部隊の者達はこの暗さに慣れていた。

何故なら、夜戦でも勝星を挙げ続けるために集められたからだ。

「おーい、皆、準備できたかー!」

織戸際国碇おとぎわくにさだは夜戦部隊の全員に声が聞こえるように言った。

「今日も狩りに行くの?せっかくの新しい制服が汚れちゃう」

「仕方ないだろ。上の命令は聞かないとどうなるか分かんねぇからな」

「制服が汚れちゃう」と嘆く愛標棷品ちかしめせじなを宥めながら、爬抱刕猟杞憂はがかりりょうきゆは国碇に聞いた。

「国碇、今日の敵兵の数はいくらだ?」

「…今日の敵兵の数は、ざっと六千かな」

国碇のその言葉を聞いて、明日苑輿辞あすぞのこしやめは自慢の薙刀を手入れしながらふてくされたように呟いた。薙刀の刀身は白金のように輝いている。

「ねぇ、今日、俺行かなくていいと思うんだよね」

「何言っているの!そんなこと言ったら、その子が可哀想だよ!」

現嶺砢うつつねらのは、白金のように輝く薙刀を指さしながら、輿辞の機嫌を取ろうと頑張っている。その言葉に輿辞は、「行こうかな」と思い始めた。

でも、まだ悩んでいる。

「でもなぁ、本当に俺要る?」

「要るよ、要る!」

輿辞の考えが変わらないように頑張って砢は動いている。

その横で、玄奘壽げんじょうことぶきは出発の準備をすでに終えて、沫愿賜貰つばきはらしせいと話している。

「今日は、風が強いな。刀を振りにくいかもしれないな。」

「そうだなぁ。無理そうだな~」

「小囗は大丈夫か?」

壽は賜貰の右に座って髪を結び終わった鑾音小囗すずねこはえに声をかけた。

長い黒橡くろつるばみ色の髪を一つにくくって、優しく微笑む。

「大丈夫。私はこの子を信用しているからねぇ。」

そう言って隣の壁に立てかけていた大太刀を撫でる。

何故か、それが喜んでいるように感じた。

巻爪彬干まきづめあきほしが先ほどから話をしている壽達に呼びかけた。

「ほら、早く出発しますよ。ことさん、何かありましたか?」

彬干の問いかけにそこまで見ていたのかと思いながら壽は答える。

「あぁ、今日は風が強いから一部は影響が出るだろう。」

「…弾も飛びにくいかもですね。注意します」

彬干は壽に礼をして、玄関に向かった。

「俺達も行くか、準備は?」

「えぇ、できているわぁ。」

小囗は隣にある大太刀を手で掴んで立ち上がった。

少しだけ大太刀は悲しんでいるように感じて、小囗は「大丈夫よ」と囁いた。

壽も椅子から立ち上がって、自身の大太刀を背中に背負う。

壽と小囗はいつの間にか玄関へ向かっていた賜貰の背中について行く。

「あれぇ、二人ともついて来てたんだねぇ」

「しせ坊は早いねぇ。」

「そうかぁ?姉貴は本当にゆっくりだなぁ」

壽はそう話す二人を置いて、靴を履いて外へ出ようとしていた。

「ことさん、忘れ物ですよ」

彬干は壽が出ようとするところを呼び止めて、忘れ物を渡した。

「ありがとう、俺としたことが鞘を忘れていくとはな。助かった。」

「鞘を忘れるなんて、珍しいですね。刀身が当たったら怪我しますよ」

壽は彬干と一緒に外へ出た。外には夜戦部隊の隊員が揃っている。

国碇が周りを見て話しだす。

「皆、今日は風が強くて視界が悪そうだ。周りに気をつけて行動してくれ」

「は~い、分かったよ~。でも、それは相手にも不利ってことじゃん。それなら、好都合だよね。ねぇ、そうでしょ隊長?」

棷品がいきなり振ってきたことに驚くこともなく、壽は答えた。

「そうだな、自分達に不利なことは相手にも不利になる。本当に頭の回転が速いな、棷品」

「ふふっ、そうでしょ?」

壽は優しく棷品の頭を撫でた。夜の森には強いというよりも優しい風が吹いている。戦場に向かうに連れて、風は強くなっていった。

森の中を忍びのように移動する夜戦部隊は、一般の部隊よりも経験を積んでいるわけでは無い。

陸軍の中では「奇人揃いの夜戦部隊」と陰では呼ばれている。

何故、この呼び名になったのかは、この者達の過去が関わってくる。

戦場に辿り着いたが誰一人として敵に向かっていかない。

「どうする?このまま行ってもいいが」

現嶺乘占うつつねのうらは敵の動きを見ながら言った。

練色の髪が少しだけ強い風に吹かれて荒波のようにうねっている。

隣に居た也鉦葬拿なりがねそうなが銃弾を敵に放つ。

だが、敵には命中させることはしなかった。乘占が苛立ちながら葬拿に言う。

「葬拿。君は、何をしているんだい」

「えー、何か問題でもあった?別にこのくら良いでしょ。小囗さん、もう敵のほうに行ってるよ」

「…本当に君って問題児だな」

乘占は頭を押さえて、呆れながらそう言った。

葬拿はそれが嫌味だと分かっているため、乘占の嫌そうな返し方をする。

「褒めてくれたの。ありがとう、真面目君」

二人のやり取りを𡈁碇は「またか…」と思いながら見ていた。

𡈁碇の視界の端に映っている小囗は、もうすでに敵を大太刀で斬り始めている。

出発する前の小囗とは違い、戦闘狂のような表情を浮かべていた。

「小囗さん!」

叢々忘呬ずどうわすれが小囗に次の行動を伝えるために声を掛ける。

小囗は先程まで浮かべていた表情ではなく、普段と同じ優しく緩んだ表情になっていた。

「ん?どうかしたのかしら。」

「次の行動について、お知らせに来たのですが」

「あぁ、そういうことねぇ。」

「次は敵の拠点に乗り込みます。その際に重要な人物は殺さずに捕まえろという指示がありましたので、無闇に殺さないでくださいね。それでは、よろしくお願いします」

「えぇ、分かったわぁ。」

忘呬は小囗に礼をして、遠くに居る儆褪痲いまさめの方へ向かっていった。

「ふふっ、忘呬は可愛い良い子ねぇ。敵の拠点は…あんなにみすぼらしいの久しぶりに見たわねぇ。」

小囗は大太刀を鞘に入れて、敵の拠点へと駆け出した。

その姿を見つけた𡈁碇は隣に居た棷品に声を掛ける。

「棷品、小囗さんについて行ってくれ。俺はあの速度にはついて行けないから頼んだぞ」

「はーい、分かったよ~」

そう言うとすぐに小囗を追って駆け出して行った。

𡈁碇は棷品の背中が見えなくなると、猟杞憂に自身のオートマチックピストルを預けて、三八式歩兵銃を構える。

遠くの森に逃げ延びた敵兵が居るようだ。𡈁碇はその敵兵に向かって引き金を引いた。

森から小さな悲鳴が聞こえた時、猟杞憂は森の方へ走り、敵兵の生存確認へ行く。

敵兵の死体の片付けが終わった輿辞と砢が𡈁碇の所へ来たが、砢は𡈁碇の顔を見た瞬間、輿辞の後ろに隠れてしまった。

「そんな酷い顔してたのか?」と𡈁碇は思って三八式歩兵銃を腰に挿して、「ごめんな、怖かったか?」と言う。

その言葉に砢は「いつもの𡈁碇だ」と思うと、輿辞の前に出て行った。

「…う、うん。怖かったよ、でもいつもの碇兄に戻ったから、大丈夫だよ」

「そうか、良かった。いつも通りに戻ったなら」

𡈁碇はそう言って、砢の頭を撫でる。

砢は𡈁碇の様子がいつも通りに戻ったことがうれしいようだった。

その二人の様子を見て、輿辞が𡈁碇に先程から思っていた疑問を口に出した。

「𡈁碇は、知ってたのか?」

「…え、何を?」

「敵を前にしたとき、異様なものを纏っていることを」

「あぁ、そうだよね」と思いながら、頭を押さえるように手を置いて、困ったような顔をして言った。その表情に輿辞は自分の行動に間違いだったと後悔し始めた。

「…知ってはいたよ。よく前の仲間に言われたことがあって…。でも、こんなに酷いとは思わなかったなぁ。本当にごめんね、砢」

「良いよ、もう怖くないから。僕こそ、怖がってごめんなさい」

「…砢は本当に良い子だな」

輿辞はそう言って、砢の頭を撫でた。

「もう、僕今日で撫でられるの何回目?」と言いながら、されるがままであった。

そんな三人の様子を遠くから見ていた葬拿は、何だかんだ隣に居る乘占にこう言う。

「弟があんなにちやほやされてて、嫉妬してるんじゃないの?」

乘占は葬拿のその言葉に内心苛立ちながらも答える。

「はぁ、俺が何であんなことで嫉妬しなくてはいけないんだ」

「本当は弟大好きなお兄ちゃんのくせにねぇ。今すぐにでも、頭を撫でながら褒めてあげたくて、うずうずしてるの隠せてないよ~」

葬拿のその言葉が乘占の心に刺さったが、乘占には砢に近づくことすら出来ない。

何故なら、乘占は砢に嫌われているからだ。

いつの間にか忘呬と褪痲が二人の所へ来ていた。

「次の作戦に移りますよ。準備は出来てますか?」

忘呬は葬拿の顔を見て、「あなたは、また何か言ったのですか?」と呆れた顔で見た。それを隣で見ていた褪痲は「何か面白いことしてる」と思っていた。

すると、葬拿がマークスマンライフルを構えて、遠くを見据え初めている。

それを見た褪痲は剣を背中から取り出して、胸の前に構える。

一方、乘占と忘呬は武器を構えることは無かった。

葬拿の見ている方向をじっと見つめている。

葬拿は地面に寝そべって体制を整えた後、引き金を引いてこう言った。

「あーあ、やらかした。敵兵の隊長撃つところだったぁ。本当に危なかった~」

その言葉を聞いた乘占は、「何やってるんだ、こいつは…」と今日で五度目の呆れた顔をしていた。

忘呬は、遠くから逃げてきた二人の敵兵を見つけて、槍を投げつける。

敵兵に投げた槍が届くよりも前に、褪痲が動いて敵兵二人の首元に剣を突き出した。そして、槍が敵兵まで届き、敵兵二人の胸元に突き刺さった。

四人よりも近くにいた𡈁碇達が敵兵の死体の片付けに向かったため、乘占達は敵の拠点へと向かうことにした。


 敵の拠点はもうすでに全滅している。

乘占達の姿を見つけた彬干は、乘占達に敵の隊長の口を割らせることを頼んだ。

すぐに、葬拿が敵の隊長の元へ急ぐ。周りには松明の明かりがある。

敵の隊長と思われる者のすぐ傍に壽と小囗が立っていた。

「お二人とも、お疲れ様です。」と二人に挨拶して、敵の隊長の口を割らせるために少し近づいた。隊長は、ペっと葬拿に向かって唾を吐く。

すると、葬拿は手にしていたマークスマンライフルとは別にM1911を左の腰から取り出して、隊長の喉ぼとけに突き付けた。

隊長は顔が強張り始めたため、葬拿は「ふふっ、これなら早く終わるわね」と思った。その姿を小囗は見て、「ふふっ、この子は好奇心旺盛ね。」と優しく微笑んだ。

葬拿を追いかけて来た乘占達が、葬拿と一緒に拷問を始めたので、壽と小囗は敵の隊長の隣から離れて、まだ残っている敵兵の死体の片付けを丁度良く到着した𡈁碇達と始めた。

棷品は、敵兵の物資を物色しているが、「何これ、必要あるの?」と思うものばかりだっため、物色することをやめた。

敵兵の死体の片付けをしていた者達は、片付けを終えて拷問をしている乘占達の元へ向かおうとしたが、あと少しの所で立ち止まって考えた。

「こんな大人数で行くほどでもないか」となり、代表して小囗が拷問をしている乘占達の元へ行くと、拷問はすでに終わっており、隊長の四肢を切り落として、麻で作られた袋に詰めている所だった。

小囗は「終わったら、帰るわよぉ。」と言って、松明の明かりを大太刀の一振りで消し去った。

丁度、袋に詰め終えてた。処理隊が来るまで隊長が持ちこたえるように、褪痲は袋の紐を緩く縛って、呼吸が出来るようにしておいた。

乘占達は小囗と共に待っている仲間の元へと戻った。

戻るとすぐに森の中にある寮へと向かって帰る。

風は帰るころには強くなくなっていて、優しく疲れた体を包んでくれていた。


 寮に着くと、皆の表情は明るくなっている者も居れば、疲れ切った顔をしている者も居た。

さらには、お腹が空いている者も居るため、少し軽い夜食を今日の料理当番の小囗と彬干が作ることになった。

しかし、食材はキャベツ・白菜・ほうれん草・卵・人参などしかない。

これでは、戦いに行ってきた者達の腹には何の足しにもならないではないか。

小囗は水分を多く体に含むとお腹が膨れることを思い出して、簡単な汁多めのスープを作ることにした。

その前に、血まみれの制服から普段着である着物に着替えて、たすき掛けをする。

そして、彬干と共に台所に立った。あまり、時間を掛けずにスープが出来上がった。

小囗と彬干は、寮で唯一の畳部屋の長机にスープを一人一つずつ並べ終わると全員集まって来ていた。

壽が「合掌」と言うと全員「いただきます」と言ってスープを食べ始めた。

だが、食べ終わりはバラバラだったため、個人個人で「ごちそうさまでした」と言っていた。

そして、腹が膨れてほとんどの者たちが眠気に襲われながら、自室へと戻り眠りについた。

 次の日も夜戦が入っているため、極力誰も自室から出ようとしなかった。

夜に近づくにつれて、段々と自室から出てくるようになる。

小囗が今日は一番自室から出てくるのが遅かった。

いつもは、誰よりも早く起きて、昼は山の中で動物たちと触れ合って遊んでいることが多いのだが、どうしたのだろうか。

心配になった壽が小囗の自室に入ると、まだベットに横になっている小囗が居た。

壽は小囗の様子がおかしいことに気が付いて、少し声を掛けてすぐに部屋を出る。

小囗の大太刀が泣きながら、震えているように見えたのは間違いでは、無い。

壽の後から出てきた小囗は屋敷の窓から空を見て、こう言った。

「…今日の月は三日月じゃ。なんとも麗しい月じゃろうか。あの方によく似合う月は三日月以外ないじゃろうな。なぁ、そうであろう?」

皆は小囗のようで小囗ではないその者を警戒し始めた。

月の話など小囗は数回ほどしか口にしたことは無い。

それが、どんなに貴重で恐怖なのかそれを理解しているため、皆は顔を強張らせて、武器を構える手に冷汗をかいている。

だが、その者はいつの間にか目の前に居なかった。

目の前には、普段と変わらない小囗が立っている。

「あらぁ、皆どうしたの?」

小囗は目の前に武器を自分に向ける仲間を目の当たりにして、不思議に思う。

でも、皆も不思議だった。意味の分からぬことを自分達の知っている者から発せられたことに驚いて、武器を構えて居ると、目の前には自分たちが知る者に戻ったことが信じられなかった。

「もう、どうしたのかしらぁ。砢、顔を洗ったの?棷品と猟杞憂は料理当番でしょう?壽は庭の手入れをしてもらいたいのだけど。」

いつもと同じように喋り始めた小囗に皆安堵の息を漏らした。

いつも通りに皆も喋り始める。

「小囗さん、顔洗ったよ!」

「小囗さん、今日の夕餉は何が良いですか?」

砢と棷品の言葉を聞いて、小囗は二人のことを抱きしめた。

棷品は、抱きしめられることがあまりないため、どうしたらいいのか分からず、固まっている。砢は、小囗さんに久しぶりに抱きしめられてとても嬉しそうだ。

「小囗、庭のどこを手入れしてほしいんだ?」

小囗は、壽にそう聞かれたため、棷品と砢を抱きしめていた手を離して答えた。

「庭木が伸びてきているから、綺麗に揃えてくれるかしら。」

「分かった。」

そう言って、壽は夕日が沈み始める時間に庭に出て行った。

そして、輿辞は砢を連れて、菜園を見に行き、棷品は猟杞憂と一緒に台所で夕餉の支度を始めている。

𡈁碇は、彬干と乘占に昨夜の報告書の手伝いを頼んで、書斎へ一緒に行く。

その他は、個人個人で仕事に取り組み始めた。

小囗は、自分に何が起きたのかを知りたくてたまらなかった。

でも、一時的に何かと入れ替わっていたような気がするようでそうじゃないようで、自分がおかしくなったわけでは無さそうである。

小囗は考えることを一時的にやめることにした。

すると、褪痲が小囗の元へやって来た。

褪痲は小囗の顔を見て「やっぱり、いつものだ」と言う。

小囗は何のことか分からなかったため、聞き返した。

「いつものだって、どういうことなのぉ?」

「いつもの優しい小囗だなと思ったから」

「何かおかしなことがあったのねぇ。」

「うん、あったよ。小囗の人格が入れ替わっていた…って言うよりも、乗っ取られていたの方が良いかな」

「…そう、やっぱりこの違和感は伊達では無かったみたいねぇ。」

小囗は違和感の正体までは辿り着かなかったが、ある程度のことは知れたので少し安心した。小囗の表情が明るくなったように思える。

それを見た褪痲は「良かったのかな」と思っていた。

庭から手入れを終えた壽が帰って来ると、突然小囗が呻き声をあげ始めた。

一階の廊下に居た褪痲と壽は、小囗を連れて寮の隣にある別邸へと移動した。

三人が移動した後、「何かの呻き声のような声が聞こえたな~」と台所に居た二人が廊下へ行くと床に陣のようなものを発見した。

「ねぇ、猟。これなんだと思う?」

「見た感じ、何かの術式みたいだな」

二人は、その見慣れないものに興味津々であった。

棷品が自身のアンリミテッドリボルバーを腰のベルトから抜き出す。

銃口をそれに向けて、引き金を引いた。すると、それは銃弾を跳ね返して、消える。だが、本当に消えたわけでは無さそうだ。

棷品は猟杞憂に台所に戻るように伝えて、二階へ上がって行った。

階段すぐの部屋を開けるとそこには賜貰が居た。

「ねぇ、賜貰。間違い探しでもしない?」

賜貰は、棷品のその言葉に乗ろうとしたが、やめた。何故なら、当番をサボると乘占に長時間の説教をされる確信があるからだ。。

「料理担当が何で間違え探しをしようってなるんだぁ?」

賜貰のその言葉に、嘘は通じないことを悟った棷品は、正直に話すことにした。

「もう、正直に言ったら良いんでしょ。…小囗さんの異変に関することだから、口外しないでよね。」

「あぁ、分かったぞ」

賜貰は棷品の言葉に、頷きながら答えた。そして、棷品は賜貰に先程見たそれの話を包み隠さず全て伝えた。

「へぇ~、姉貴は取りつかれていたのかぁ。俺は丁度、自室に戻っていたからなぁ」

「賜貰が居れば、どうにかなると思ってしまうのは、なんでだろうね」

「姉貴とは俺が一番付き合いが長いからだろうなぁ」

その言葉に、棷品はうんうんと頷いている。賜貰が自室から棷品と一緒に出てきた。すると、目の前には鬼の形相の乘占が立っていた。棷品はゲッと嫌な顔をする。賜貰が棷品を庇った。

「乘占やどうかしたのかぁ?俺は、今から少し出てくるが」

「…今日、棷品は料理当番なんですよ。棷品は置いて行ってくださいね」

「嫌だと言ったら?」

「無理やりにでも、連れて行きます」

「もう、夕餉の支度は出来ているだろう。なのに、棷品は必要なのかぁ?」

一階から夕餉のいい匂いが漂ってきている。

乘占の何でもきちんとやりたい性格を分かってはいるが、賜貰はその性格をどうにかしなくてはいけないのではないかと思っている。

彬干は賜貰達の話す声が聞こえて、二階に上って来た。

「何かあっ…た…の」

彬干がいきなり意識を失った。倒れた彬干の下には、術式が書かれている。

そのことに気づいた棷品と賜貰は、それに向かって村田銃と太刀を向ける。

階段を思いっきり駆け上がって来る者が居た。壽が上がって来たのだった。

それから、倒れて意識を失っている彬干をすぐに抱き上げて、医務室へと連れて行く。そこに居た三人は、壽の動きが速いことに驚きながらも、床の術式に目を向けた。銃で撃ったり、刀で差したが、びくともしなかった。

棷品が触ってみると、針で刺されたような痛みに襲われた。

「何なのこれ。なんかの守護式なんじゃないの?」

「そうかもしれんなぁ。ここの下を通ることは出来ないから、その可能性が高そうだなぁ」

「…こじ開けてみるかい?別に何があるか気になっているわけではないけど」

乘占の天邪鬼のような言葉に棷品は、笑ってしまいそうになった。

三人は床を破壊することにした後、三ケ所に分けて壊し始める。

三ケ所全てが壊れると、下には、祠のようなものが立っていた。

三人は降りて、何があるのか先に周りを探索する。

最後に祠をくまなく調べようとしたが、「無礼な働きすぎるな」と乘占が呟いたため、祠の前にある手のひらぐらいの大きさをした、刀を棷品が手に取った。

すると、いきなり大きくなって、手のひらに収まらなくなった。

段々と任務の時間が近づいている。

三人は、一応ここまでにして、二階の床を塞いだ。

ほとんどの者達は、夕餉を食べ終わりそうになっていた。

三人も急いで夕餉を食べる。制服に着替え終わり、武器を装備して、玄関へ向かう。その前に、医務室へと向かった。医務室には、術の影響で倒れた彬干が寝ているベッドがある。まだ、起きてはいないようだ。三人は、そっと静かに医務室を出ていく。そして、玄関で靴を履いて、外へ出た。もう、ほとんどが出発している。

残っているのは、小囗と壽だけだ。棷品が小囗に祠で見つけた大太刀を渡した。

小囗は取りやすいように、背中に背負った。

「こんなに綺麗な子どこで見つけたのかしらぁ?」

「倉庫の中にあったんだけど、全然錆びてなかったから、持って来たんだ!」

棷品は咄嗟に演技をしてごまかす。

まだ、小囗は憑りつかれていたことに気づいていないと思ったからだ。

「…そうなのねぇ、この子はそんなところに居たのねぇ。」

壽が、「綺麗だな。」と呟いた。小囗は、「そうねぇ。」と答える。

すると、遠くから𡈁碇の声が聞こえた。

棷品が「はーい!」と返事をして、𡈁碇の元へ走って行った。

小囗達も棷品の背中を頼りに𡈁碇達が居る所に向かった。

葬拿がM1911を構えている。銃口を向ける先には、敵兵の姿があった。

引き金を引くと、敵兵に当たる。すると、砢と小囗と賜貰が動いた。

三人の間を狙いながら、敵兵に𡈁碇と彬干と葬拿は銃弾を放つ。

そして、忘呬が褪痲と共に敵兵の中に突っ込んで行く。

輿辞の薙刀は、敵兵の体を微塵切りにしていた。

壽は、大太刀を手に持って敵兵が近づいてきたのと同時に、切り刻んだ。

月の下で敵兵と戦う小囗が、楽しそうに大太刀を振り回しながら、敵兵の攻撃をかわすと服の広範囲に血がついていた。

普段の小囗なら、気にせず突き進むことが多いが、この小囗は汚れを見て嘆いた。

「服が汚れてしまう。この姿をあの方はどう思われるのか。あぁ、気になってしまう。気になってしまう。どうしたら、良いのじゃ。どうしたら…」

その者がまた現れたのだが、皆戦闘中で気がついてはいない。

何故なら、大太刀を小囗と同じように振り回して、敵を真っ二つにしているからである。その者の存在に皆慣れつつあるように見せていた。

小囗は、憑りつかれていることに気づき、意識を活性化させて、棷品に貰った大太刀で胸を貫く。その一瞬を見た賜貰が、勢いよく胸を貫いた大太刀を抜いた。

すぐに傷が塞がる。

やはり、神に捧げられた御神刀は憑き物を祓う力があったのだろう。

小囗は、すぐさま敵兵の集団に突っ込んで行った。小囗の後を仲間達は追っていく。

今日の夜戦の終わりを猟杞憂が銃弾を空に放ち告げた。


皆が立ち去った場所に淡い光が見える。

それは、夜の月の下で大太刀を振り舞う者が光り輝いていることを表していた。

その者の存在に誰もが初の純狂を味わったことは、もう誰一人として、覚えていることは無いと小囗は思い込みたかった。

自分の体を好き勝手使われて、良い気がするわけがない。

これは、自分の気持ちのためでもあった。

小囗の体を勝手に操ったその者はもう空へと旅立つようだ。

小囗は、振り返った。その者の最後の言葉を聞くために。

「何をしたかったのかしらねぇ。」

その者は、答えた。

「もう一度、あの方のお目にかかりたかったのじゃ」

「…そう、私にはよく分からないわぁ。でも、空へ行けば会えると思うわ…」

「…申し訳なかったな。その神刀に会えて…良かっ…た…」

小囗は、その者が塵となって消えると「さようなら。」と別れを告げた。

すると、すぐに前を向いて、仲間と共に敵兵を殲滅した。

敵兵の死体の片付けを終えて、寮へ戻った。

「小囗さん、傷の手当しなくていいの?」

棷品が聞いたが、小囗は「大丈夫よ。」と言って、自室へ戻った。

自室に戻ると小囗は、窓際で月を眺めながら、涙を流した。

「あの子は、こういう気持ちだったのねぇ。」

夜月の下の蝶のような舞に小囗の心は、絆されていたのだ。

何故なら、神刀に宿った意思によって、心に新たなものが植えられたからである。

二振りの大太刀が再開を喜んでいるようだ。

その様子を見た小囗は、優しく二振りに微笑んだ。


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