俗世の魔女

@tetoteto-tenko

第1話

魔女は俗世を好まない。

空気中に存在し、発症者にしか観測することの出来ないエネルギー魔力、その空気にあてられ、超常を発する病にかかり、そのエネルギー、超常を使いこなすもの、すなわち魔法使い。

魔力の異例に備える公的機関、魔力の罹患者から魔法使いを育てる育成機関の創始者にして統括者、永世の魔女 柿崎繋 が私茶尾あがりの前にいる。

私は魔法使い資格が必要な観測バイトに応募し、面接に来たはずなのに、予測するはずもない状況に思考が追いつかない。

魔女が片手を少し上げると、他の人間たちが即座に部屋を出ていった、室内にはペーパー魔法使いと人類史に並ぶものがいない魔女の2人。


「勝手で申し訳ないが、君の本棚を見せて貰った、見事なラインナップだった。」


魔女の独白は更に私を惑わせる。


「3種のカードゲームを嗜み、応募時の問答も悪くない、そして何より漫画原作者か字書きを志望している。」


調べられても困らない謎の素性調査が入っている、観測不可能な一般社会には全容が掴めない魔法科、私はその闇に巻き込まれたのかもしれない。


「マジごめん、クールな大人を演じたかっただけなんだけど、凄い勘違いしてるから、普通に説明するけどさ、私の弟子って形式で仕事のオファーなんだよね。」


「魔力の罹患者はそれなりにいても、魔法省は万年縮小気味、魔法使いの一般社会転向が止まらない、魔女は俗世を好まないなんて言われるけど、本当は俗世から避けられ気味なわけ。」


「だから、魔法使い業が伝わりやすいように、罹患者の魔法使い志望者が増えるように、サブカルチャーを経由して魔法使い広めてこうぜって事で、魔法使い全員の適性をみて君にしか届かない求人を出したわけ。」


「私の弟子としての秘書業と、一旦形式は問わないけど定期的な魔法省の仕事と魔力異例の説明の発信が主な仕事なんだけど。」


一般社会転向は私も考えていたところだが、こっち側でも似たような仕事に就けるなら、永世の魔女の弟子の称号は魔法使いの才能が薄い自分に重荷か有益か、契約機関やその後の正規への道など、状況は理解したが突飛なことには変わらず、頭の中で多数の天秤が揺らいでいる。


「別に正規が良ければそれでも良いよー。」


「あとは魔法省から適任を選ばなかった理由にもなるんだけど、私は俗世が大好きというか、漫画とカードの為に生きてるんだけど、名前がでかいとねぇ、本もカードも買うのに迷惑かけるっていうか、でもジャケ買いとかショーケースみたりに憧れるっていうかね。」


「弟子たちにはあっさあさの知識披露でも褒められるんだけどさ、アイツら私の趣味に付き合ってくれてるだけっていうか、好きを謳っといてモノホン来たら魔法界の権威、サブカル界隈ではSNS情報音読してるだけみたいにボコられかねないしね。」


「つまり、漫画好きとカードゲーマーとして私の師匠になってください!」


流れ変わったな?


「漫画賞に入ってない面白いのとか、感想言い合ったりとか、デュエルしたり、ペア大会とか、五感共有してチェーン店も行きてぇー。」


「どうかな、破格の待遇は約束するけど?」


理屈は理解できなくもない、私も趣味の相手に魔法使いは隠す、他の業務もあるだろうけど夢に近しい道が開ける、ただそんな事よりも魔法使いのカリスマの砕けた本音に人間的な魅力を感じてしまった。


「是非お願いします。」


魔法使いの端くれだからだろうか、この超常事態に乗ってしまった。


「本当!?いやーお金と立場だけはあるからね、やってみるもんだね、面白くなってきたまくるぞーって事で、害は絶対起こらないんだけど、契約前に業務ではないんだけど気をつけて欲しい事があって。」


「魔法使いから選んだのは五感共有ができるからと、魔法省の評議会メンツを納得させる為でね、でも名前は大きく出来ないから、外向けにはバイトか正規雇用、内向けには私の弟子、もとい評議会の空席枠になるんだよね、もちろん仮で公表はされないで。」


永世の魔女の知名度からだろうか、先ほどの本音を聴く前なら重苦しく受け取っただろうが、今なら判断を鈍らせる理由にはならない。


「評議会が10席設けられてるのに、ずっと空席がある理由知ってる?立場に過酷っぽさが出てかっこいいから、実際は私の弟子8人が創設時から変わってない独裁組織でね、メンバーの称号も功績とかじゃなくてカッコいいからだね、永世の魔女を自称するなんて、流石に私も若すぎたね。」


少し惹かれる気持ちと、なんとない周りの人達の苦労と、魔法使いの人手不足の原因を見ている気がする。

百年余これが隠れていたのか、魔法組織創設が何よりの超常だったのではないか、想像とは異なる魔法界の闇に触れている。


「いや、創設前から弟子はいたし、一般転向との繋がりもあったから、むしろ私が頼みこまれる側だった。」


「なるほど、次心読んで返答したら弟子辞めます。」


「あい。」


「魔法界の始まりは置いといて、仮だし公表もないけど称号はいるからさ、業務とか今後の魔法使いとかのあり方に希望を込めてね。」


机の上にずっと置いてあった契約書、聞いたこともない魔女の称号があると思ってはいたが私用だったのか。

単語+魔女が通例だから仕方ないとはいえ好ましいとは言い難い、もう少し前向きさとかなかったのだろうか?


「よろしく頼むよ "俗世の魔女"!」


魔女は俗世を好まない。

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