第7話 騎士団
異世界のメタバースは没入感が半端ない。いやその言葉こそ逆に陳腐だ。そうミライは思った。
カーリイの部屋というメタバースは極めて普通なのだ。普通に皆がカーリイの部屋に集まっている。席について数分後にはミライは完全に部屋の客人となっていた。
ここはメタバースではない。感覚としてカーリイの部屋なのだ。今日集まっているのはヨシタカとノーデン、アレクもいた。これは全員昼間のクラスにいた連中だ。
ひとり女子の姿もあったが、壁掛けの大型ディスプレイに映し出されたビデオ参加である。なんで、メタバースにビデオ参加!?
ミライは訳が分からない。だが、至って自然にカミールはビデオで参加していた。たとえメタバースでも男性の部屋には上がらない、そういうことなのか? ミライは首を傾げる。
実際、部屋にいるのは、いやメタバースなんだが、カーリイとマイカルを加えて5人だ。あとビデオ参加のカミールとミライ自身を加えて7人が集まっていた。
「じゃあ、全員揃ったので始めようか」
カーリイが口火を切った。どうも家主が議長を務める決まりのようだ。いったい何が始まる? ミライは緊張した。
「まずは先日の話の続きで、この秘密結社の名称だけど……」
カーリイが椅子から立ち上がって話を始める。だが、ミライは既にツッコミたくてたまらなくなっていた。
(秘密結社ってなんだよ?)
「それはさあ、この前出てたエストラゴン騎士団でよくね?」
ヨシタカがいかにも軽そうに言った。
「俺もヨシタカに賛成だわ」
すぐに同調したのはノーデンだ。アレクも同意の意味なのか手を挙げている。
「私はマイヤーズ騎士団の方がいいと思うんだけど」
ビデオ参加のカミールが口を挟む。
「それもいいよね」
マイカルだった。
(「騎士団」は決まりなのかよ)
ミライは心の中でツッコミを入れる。自分も何度かこの会議に出ているようだが、何の記憶もなかった。
(何をやろうとしてる。ただの遊びか?)
ミライがそんなことを考えている隙に、彼等の秘密結社はエストラゴン騎士団に決まっていた。
(決まったのかよ。エストラゴンて薬にもなる雑草かなんかだよな? どういう意味だよ)
だが、それからの話は支離滅裂だった。様々な話題が議題に上る。気が付けば既に1時間を過ぎていた。
(課長の教え、だ。会議は1時間以内。有益なものにするためには事前にアジェンダを整理しておくこと。そして議事録を必ず作り記録を残すこと、だ)
これが会議の鉄則と言えた。まあこれが単なるおしゃべりということなら別に拘る必要はないんだが。
ところがミライにとって非常に気になる話が最後になって出て来た。
「兄貴が今年春に大学卒業して就職したんだけど。以来何の連絡も来ないんだ。みんなのとこもそうか?」
アレクが言い出した。するとビデオ参加のカミールが話し出した。
「とっても仲良くしてくれた先輩が今年卒業したんだけど……。海外の大学へ行ったはずなのね。必ず手紙をくれるって言ってたのに、全然来ないの……」
(まあ、海外留学じゃ、色々忙しいし、毎日があまりにも新鮮で忘れてるだけじゃないのか?)
ミライはカミールには悪いがそう思う。だが、そうは言わずに、
「連絡してみたら?」
そう言ってみた。
「したわよ。手紙も書いたし。通信もした。けど、全然繋がらない」
カミールが少し怒ったようにディスプレイの中で言った。
するとカーリイがかなり真剣な顔で話し出した。
「サッコなんだけど……」
サッコとは隣のクラスにいる女生徒らしい。後で分かったのだが、カーリイとは結構親密な関係のようだ。
「サッコの友達の姉貴がやっぱり今年卒業して就職したんだって。部活の練習見てあげるから、たまに顔出すねって言ってたんだけど。やっぱり連絡がない。学校に来るどころか連絡すら付かないそうだよ」
この話題は前回も出たらしくて、それぞれが情報を集めていた。そしてこういう話には
「学校を出て行くと……、二度と帰らないし連絡も取れなくなる……か……」
誰かが独り言のように言った。するとカーリイの部屋は水を打ったように静まり返ってしまった。
(これが例の件だったか)
ミライも納得する。
「いや。そんな馬鹿な……」
とカーリイ。
「これは真偽不明だけど」
と言い出したのはアレクだった。皆がアレクに注目する。
「中学の時のクラスに悪さばかりしてるヤツがいたんだ。ルール無視とか、万引きとか、しまいに教員アンドロイドに暴行働いて。学校に拘束されて、警備も出張って……それから学校からいなくなった」
「いなくなったって、どういうこと? 逮捕されたとかじゃなくて?」
ミライが思わず問いかけた。
「色々噂はあった。退学になったというのが専らだったけど。彼の姿を見た人はいないんだ」
アレクが暗い顔で説明した。
ここでミライは昼間の学校でのことを思い出した。
「処罰される……ってどういう意味なんだか知ってる?」
ミライが皆に聞いた。
すると全員が首を横に振る。
「あいつらよく言うけど、実際処罰って何なのか知らない。誰か知ってるか?」
カーリイである。
「そうだよ。連絡が取れない友達のこと教員アンドロイドに聞いたことあるか?」
ノーデンも言い出した。
いつの間にか教員アンドロイドについての不信感の話になっていた。
「俺は一度聞いたことがある。去年友達のひとりが転校した。突然、何の話もなく。だからその時の教員アンドロイドに聞いたよ。彼はどこへ行ったんですかって」
そう話したのは、ノーデンだ。ノーデンは他学区の中学から来ていた。
「ヤツは何も答えなかった。親にも聞いたんだけど、知らないって。だって親同士は友達だって言ってたんだよ」
どうも学園都市の学校を卒業すると、あるいは転校でも、何なら退学でも、とにかく学校を出て行くと二度と連絡は取れないらしかった。
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