第7話 朱莉⑦

母は、自分が中学1年生の時に病で亡くなった。


母が病に冒される以前から、両親の夫婦仲は冷めきっていて、父は小学生の頃から不在がちだった。


時折帰ってくるので、離婚をしていないのはわかったが、帰ってくるたびに父から離婚を迫られ、激しく反発する母の声が夜の間中響いた。正直、さっさと別れてしまえばいいのに、と思い続けていた。


中学に上がってすぐに母が体調を崩した。検査で入院した後、数回の入退院を繰り返し、結局、家には帰ってこないままだった。


鮮明に覚えているのは、母が病んだことを喜んでいたこと。


「お父さんの所為せいで病気になったようなものだから、最後まで面倒を見て貰わないと」


そう呟いた一言とその表情を今でもはっきりと思い出せる。子どもの自分には、その情念の深さがとにかく恐ろしくおぞましかった。


母が亡くなって2か月ほどして、父の再婚相手だという女性とその息子だと言ってひじりが家にやってきた。小学4年生だというが、年齢よりかなり小さく幼く見えた。


周りから見れば複雑な関係だっただろうが、兄弟のいなかった自分にとって、聖は圧倒的に可愛い弟だった。聖が自分と同じ格好をしたがるのが微笑ましかったし、自分に良く懐いて、付いて回る姿も愛おしかった。


我が家が大きく歪み始めたのは、そこから2年ほどして、義母が妊娠してからだった。聖と2人で兄妹が増えるね、と楽しみにして喜んでいたが、しばらくしてそれは、父の子では無かったことが明らかになり、そして彼女は聖を置いて出て行ってしまった。


父は荒れ、次第に聖に暴言を吐き、暴力を奮うようになった。一方、自分に対しては徹底して無関心で、家事をやる分には便利に使っているという感じだった。

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