第5話

第5話



 シフィルの顔を見てみたいと感じた。


 落ち着いた雰囲気から、きっと人畜無害で、子犬のように人懐っこく子羊のように大人しい。


 私としては、そう考えたい。


 だが、シフィルの声音には逆らい難いところがあり、力強く魅惑的だった。


「……そうね。私自身、愛とは時間をかけて、ゆっくりと作り上げてゆくものだと考えるわ。お互いの信頼と尊敬、相性の良さも踏まえた基礎も欲しいかも」


「へえ。実に面白いな。やはり君なりの法則がありそうだ」


「法則って……。それもよくわからないけど。自分の中のものを考えてみる価値は、あるのかもね」


 シフィルは自分より大人で、きっと面白がられていると。


 それでもシフィルが指摘したことは、人生で大切なこと。


 これからもっと考える必要があると、私自身感じていた。


「もえ、君は恋したことはある?」


「恋って……。憧れとかはあるけど」


「どんな?」


 矢継ぎ早に、答えにくいことをシフィルが問うてくる。


 動揺して目をぱちくりさせ、私は小首を傾げる。


「どんなって言われても、私の通っている学校は男子がいないから、私自身恋愛経験なんてゼロよ。ああ、でもずっと昔ね。父の兄の経営する牧場で見た逞しいカウボーイに憧れたことはあるけど」


 しどろもどろになりながら、私は未熟な自分を恥ずかしげに打ち明けた。


 自分自身の答えの中で、私の胸奥で何かが香る。


 甘く囁きかけていたが、それは掴めずにいた。


「そうか。もえに恋愛経験が一切ないのは、いいことなのかもしれない。これからゆっくりと、学べばいいことだから」


「そ、そうね。そうかも」


「それであっても、もえとしての理想は、しっかりとあるのだろう?」


「理想……? うーん、相性のよさって、その人の感情の動きや知的レベル、相手を尊重したい気持ちがあるかないかと思うけど。私自身、自分が尊敬できる人がいいわ」


 考えながら話し終え、恋愛すら何もわかってないのに、それは生意気だとか、あまりにも理想論すぎると、隣の男性にからかわれてしまうと、感じてしまう。


 自嘲気味になり、思わず自分の両足を胸の前に引きせ、自分の両腕を抱え込んでいた。


 どうあれ、近くにいるシフィルを感じて、理解していきたい気持ち。


 それは、私の中で高まっている。


 それでもそこまで考え、ぶるりと身震いする。


 だからといって、必要以上に閉じ込められるのは嫌。


 私自身、その件については変わらず、切実に外へ出たいと思っていた。

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