第4話

 第4話



 シフィルの声音は、とても真摯で胸にじんわりと沁みていた。


「信念とかよくわからないけど。私自身の中にある考えは、出来る限り曲げないでいたいとは願うわね。あらっ、自分の願いがあったわ」


 私は、戸惑いながらそう言い連ねた先に気づいて、くすりと笑う。


「……まったく。君は本当に愛らしいな」


「え?」


 シフィルは、からかうように言ってくるが、その響きは甘くて優しい。


 思わず胸の鼓動が、いっきに跳ね上がる。


「もえ。それじゃあ、今度は愛とはどんなふうに生まれるのか、僕に君の考えをきかせて欲しい。いいだろう?」


「あ、愛?」


 またしても仰天するようなシフィルの問いかけに、私の声は裏返った。


「ああ。何、そう驚く? さあ、君のことをもっときかせてくれ」


「きかせてくれって……」


 どう言えばいいのか、考えているうちに、自分たちが置かれている状況が、酷く奇妙なことに気づいた。


 見ず知らずの男性相手。


 こんな立ち入った話をするなんて。


 たぶん真っ暗で、相手の顔が全然見えないせい? 


 だから思わず、正直な本音を口にしてしまったのだろうか?


 シフィルがこちらの恐怖心を和らげようと、巧みに気遣ってくれているのかも。


 そう考えると、私は嬉しく感じた。


 私の通う女子高は、小中高大と一貫している。


 おばあちゃんの門限が厳しい生活も相まって、男性と接する機会が少ない。


 男性とこれほど率直に話することは、とても久しぶりだった。


 シフィルとのおしゃべりを、とても楽しく感じている。


 いつの間にか、ただならぬ恐怖心は影を潜めている。


 ただまっすぐに、シフィルに魅かれはじめてはいた。


「もえ、きかせて。君は自分の身内以外、愛をどう育む?」


「身内以外?」


「そう。どうだ?」


 シフィルの声には、一歩もあとには引かせない力強い響きがあった。



 

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