なぜ労働はクソなのか

楽天アイヒマン

なぜ労働はクソなのか

 働きたくない。僕は労働が大嫌いだ。「働け」といわれると、魂を包丁で切って孤児に分け与えているような気分になる。

 そもそも人間に労働は向いていない。1日の三分の一をやりたくもない単純作業に捧げるなんておかしい。そして何よりおかしいのは、おかしいと声をあげる僕の口を塞ぐ掌の数の多さだ。そりゃ大人数のスーツの大人から黙ってろなんて言われたら、一呼吸するまもなくネクタイを締めるに決まっている。怖いもん。

 世の中にはやりたいことを仕事にして、人生最高みたいなことをほざく人たちもいるが、それは働きすぎて頭がラリってしまった人たちの寝言なのだ。ピキらず放っておけばいい。彼らはやりたいことを仕事にするための努力を、努力と思わない天賦の才を持っている。僕が言う「労働」は、満員電車にシェイクされ、胃酸とコーヒーの混ざった臭いがする「労働」だ。

 なぜ働くか?その答えはサラリーマン全員の課題でもあるが、それは不労所得の方々の黒い胃袋の中に収まっているはずだ。

 もっとも、その不労所得の方々だって、本人がひた隠しにする血の滲むような努力や、先人たちが築き上げたバベルの塔をうまいこと登りおおせた頭の良さがあるはずなのだ。 労働という名のバームクーヘンの一番外側にたかる蝿。それが僕らだ。

 たぶんこの文章を読んでいる立派な大人たちは、唾混じりの言葉を僕に吐きかけるだろう。

 「馬鹿なこと言ってないで働け」

 「いつまでも子供みたいなこと言うな」      

だから何だってんだ。僕の書く駄文は決して正当な批評なんかじゃない。酔っ払って吐き出すため息なのだ。正論を持ち出すのはやめていただきたい。


 労働とはクソである。理由は後に述べるとして、クソとは俗に言うウンコのことであり、もう少し丁寧に言うなら大便だ。そもそも「ウンコ」とは、気張る時の掛け声である「ウン」と、接尾語である「コ」が組み合わさった言葉であり、皆様が想像するウンコと大差ないものだと捉えてもらってもいい。非常にチャーミングな響きで、僕も日常遣いしている。

 ウンコだって人間の生活の役に立つ。肥料に使われ、各家庭に美味しい農作物を届けている。人を罵倒する際「クソの役にも立たない」なんて言葉を使い方々もいるが、あれはウンコに失礼だ。謝って欲しい。そもそもクソを生み出すのは人間であって、そこの主従関係が逆転するのはおかしい。共産主義による資本家打倒ならまだしも、現代日本は資本主義だ。その言葉を使うならとっとと亡命したほうがいいだろう。

 資本社会の環の中で人から生まれ落ち、骨の髄まで利用される。なんだかどこかで聞いたような話だ。


 ウンコとは人間の生活の搾りかすであり、そこには消化されずに水に流すしかなかった日々の悲しみが詰まっている。だからあんな悪臭を放つのだ。

 純粋すぎる子供がウンコウンコといって喜ぶのは、ウンコが混ぜ物なしの悲劇だからではないだろうか。

 子供というのは残酷で、もっとも動物に近く、しかしながら奇妙に人間の心理が輪郭を持っているようなところもある。

 子供の笑顔というのは素敵だ。どこまでも無邪気で、下心がない。子供達は一様に目を細め、ぐらついた乳歯を剥き出している。それと似たものが一つある。

 猿の威嚇だ。彼らは目を手で覆い、歯を剥き出しにする。他者への敵意に満ちたそれは、子供たちの笑顔とどこか重なるものがある。

 僕たちは大人になるにつれて、子供の頃のような笑顔を失ってしまった。それは単純な悲しい話ではなく、酸いも甘いも嚙み分けたことで、顔の彫りに陰影がうまれる。常にしわくちゃの顔が笑うのは容易ではない。つまり笑顔の複雑化なのだ。

 思えば、どうしようもなくなった時に「笑うしかない」といった慣用句が使われる。これは実に隠喩的だ。

 少し話がずれてしまったが、子供達がウンコと言って喜ぶのは、ウンコと子供、どちらも同じトラジティだからだ。


 繰り返しになるが、労働とはクソである。なぜなら労働は「やらなきゃ死ぬ」と僕たちの喉元にナイフを突きつけてくるからだ。それはウンコも同じで、ウンコをしなきゃ僕らの腹は膨れ、身動きの取れないまま死んでしまう。それは働きもせず部屋で腐っていく孤独死の老人と瓜二つじゃないか。

 「やらなきゃ死ぬ」ただ生きているだけの僕らにとって、その言葉はあまりに場違いで、残酷だった。その言葉は、最初に言った「好きなことを仕事にしている」人種にしか似合わないのだ。

 猿上がりで笑うしか能がない僕たちに「労働」の二文字は重すぎる。トイレのお掃除おばさんにも、労働を綺麗にすることはできない。なぜなら彼女自身も「労働」に組み込まれているからだ。

 全身クソまみれになったところで、この話は終わりにしようと思う。

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