夜明けの唄〜この恋はやがて、世界の理を変えていく〜

咲昇ル

プロローグ

プロローグ


父の遺体が海から帰ってきた日。

皮肉にも空は快晴で、反吐が出る程の春日和だった。


僕の目の前にある、父だったもの。

あまりにも姿形が変わり果てたそれを、受け入れるまでに時間がかかった。

10歳にも満たない僕には、まるで悪夢を見せられているようだった。


ああ。僕の父は、無情にも死んだんだ。

僕と母を置き去りにして。そう、理解した時、すでに僕の二年が失われていた。


---あれから、僕の日常は色彩を手放した。


美しいはずの景色は、灰になって。

当たり前に享受されていた温もりは無機質になった。


僕は、なぜ生きてしまっているのか。それさえもわからなくなっていた。


多分あの日から、僕は生きる背中を失ってしまったのかもしれない。

それなのに、僕の体は息を忘れない。

それだけが今の僕を仄暗く生かしている。


あの日の。桜が散る、春の陽気の日陰みたいに。

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