第3話 知らない丘



「…ねぇ、聞こえてる?」


どうやらフリーズしていたようで、彼女は少し怪訝そうに眉を顰める。


「---あ!えっと……すいません……!ここどこですか?」


悲しきかな情けない声を出てしまった。

目の前の彼女はキョトンとした顔で、さも当たり前のように言い放つ。


「どこって…モノハナの丘だけど…」


「…は?」


僕の間のぬけた声に心底不思議そうに僕を見つめると彼女はハッと何かに気づきクスクスと笑い出した。


「君、もしかして迷子なの?」



---まいご?

果たしてこれは迷子なのか。

いや、"迷っている"という点では迷子なのかも…?


探しても出口のない思考の迷路の中、気づいた時には手遅れで。

無意識のうちに思考が口をついて出てきていた。


「僕は…迷子なのでしょうか?」


予期せぬ返答だったのだろう。

目の前の彼女は眼をパチクリとさせながら首を傾げる。


でも僕はそれ程に混乱しているのだ。


---だって。

確かにいたはずの僕の寄り木が、知らない丘に変わっているのだから。


「…あの!

神奈川の鎌倉市、二階堂ってご存知ないですかね…!そこの山に、名前も読めないくらいボロい神社があって……僕はさっきまでそこにいたはずなんですけど」



早口で捲し立てるように出た声は自分でも驚くほど大きかった。

彼女は「うーん」と唸りながら首を横に振る。



その反応を見るに僕の中ではもう、一つしか答えはなかった。





「--じゃあここは…

異世界ってこと…?」



ポツリと溢した言葉は静かに響いた。

---まるで雫が水面へ波紋を描くように。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る