第9話
ギルドへと夢を運んだ大我は、その後自分の家へと戻った。アパートの一室。布団に寝転がり天井を見上げる。自分の能力の無力さを知る。
大我の未来予知は決して解決できるものばかりじゃない。大我が動けば解決するか、それ以上。大まかにはそんな未来が見えている。そしてそれは、確定的な未来である。
「本気…か。」
飾ってあるペンダントに目をやる。やるしかない。あれを扱いきらなければ、どうすることも出来ない。だが、大我の目に映る未来にあのペンダントを扱いきれる姿はなかった。
唯一、被害をおさえることができるであろう存在がそのペンダントである。大我の未来予知にも映らない不確定要素。言い換えれば、奇跡の体現。切り札の中の切り札である。
「俺もまだまだだな…。」
思えば、プリーストとして目覚めてから数年。ろくなことがなかった。大我も昔は、ただ憧れるだけの一般人であった。力などなかった。
それでは駄目だと思い知ったのは、中学3年の夏の終わりであった。
ふとよぎった顔馴染みの姿を掻き消して、これからのことを考える。今日のあれでまだ発展途上。考えただけでもおぞましい。
結局やらなければならないことは1つ。入り込んだテスカトリポカを衰弱させる。そして夢と完全に溶け込ませる。
「それをするには…暴走させないといけないっていうのがまた本末転倒な話なんだがな…。」
暴走さえすれば、力としてのテスカトリポカそのものに攻撃を加えることが出来る。それまでは、夢の中に入り込んで一切の攻撃は効かない。無理やり引き剥がそうにも、またどこかにテスカトリポカが現れ夢の元へと向かうだろう。そうなれば、各地のダンジョンで異常が起こる。それに、夢自身にかかる負担も大きい。
「はあ…仕方がないよな…。」
今の大我には待つことしか出来ない。あの絶望とも言える光景をただ待つことしか。
─────やるしかない。
──────────
同時刻、ギルド内にて。
「はあ…。」
ため息をついたのは薫里だった。原因は夢の存在。今日、大我が連れ帰ったときには皆疎ましそうに2人を見ていた。大我はなにも悪いことをしたわけではない。ただ、皆からすれば余計なことをしただけ。
「大我さん…。」
業務をこなしながら、ふと一息ついた。大我曰く、夢の暴走は近い。何が原因なのか、それもはっきりしないようだ。そんな爆弾が近くにあるのは確かに不安だが、それ以上に薫里の心に引っ掛かるものがあった。
─────先輩…。
訓練室には櫂の姿があった。双剣を構えながら、思い出す。あの槍使いを。あのプリーストを。
勝てる未来は見えない。全く持って人間の範疇ではない。翻弄されただ屠られるか、圧倒的な力の前に落とされるか。
「クソ…。」
年下相手にすらなにも出来ないその無力感。
やるせなさに任せ振るう刃は常人の目には捉えられない連撃。それでも櫂の目には敗北するヴィジョンしか見えない。
「もっと…もっとだ…!」
また踏み込む。今日でもう何本こなしたかわからない反復訓練。そうやって積み重ねたものだけが櫂の支えだった。
─────才能なんてクソ食らえだ。
規格外な現代最強プリーストはダンジョンをソロで踏破する 烏の人 @kyoutikutou
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