第2話

 配信アカウント名-夢崎ゆめさき あかね

 現在Bランクの探索者であり、チャンネル登録者数70万を超える大物配信者。白く短い髪に、蒼い目が特徴的なルックス。本名、赤石あかいし ゆめ【22】。探索者としての役職は剣士であり活動はソロが主である。


 そんな彼女は今、うなだれていた。


 理由は単純。憧れのAランクに取材を断られたことにある。薄暗い部屋でスマホとにらめっこをしながら、その人物について漁る。出てくるのは良くない話ばかり。

 黒衣の聖者。探索者の中では無愛想かつ異質な存在として語られることが多い。その理由の一つに、誰も大我の戦闘を間近で見たことが無いと言うのが上げられる。誰ともつるまない。救援要請にも向かわない。そんな大我をよく思うものは居ない。


 だが、夢はそう思えなかった。


 3年前の出来事だ。夢がダンジョン配信を始める前。彼女はダンジョン内で孤立してしまった。原因は特異個体の同時出現。それにより帰還も難しいものとされ、Aランクの探索者パーティでさえ救援は難しいと判断された。そこに単身現れたのが、当時Bランクの大我だった。まだ法衣を纏っていた頃の大我でさえ、その特異個体達を軽くひねった。その少年の目には何が見えているのか、その黒さに夢さえもどこか恐怖したのを覚えている。

 それ以降、夢は大我と出会うこともなくなった。配信者になることを決意したのは、大我を見つけ出すためだった。お礼もまともに言えていない。ならいっそ自分が有名になれば、手がかりも掴めるのではないか。そう思っていた。

 実際、手がかりは掴んだ。それが黒衣の聖者。今の夢にとって黒衣の聖者があの時の少年であるという確証はない。だが、唯一のAランクのプリーストという点でどこか夢は心を踊らせていた。


 まあ、それも散ってしまった訳だが。


「はぁ…。」


 溜め息を一つ。せめて、自分の存在を起にイメージの払拭ができたら。そんなことを考えていたが、本人からしてみればお節介なのかもしれない。だが、このまま言われっぱなしでは夢のプライドが許さない。仮にも恩人(かもしれない人物)なのだ。


「出待ち…とかは迷惑だよね。私も結構顔割れちゃってるし…変な噂が立つのだけは絶対に良くない。」


 そんなことを思案する。どうにか自分に出きることはないのだろうか?いっそ偶然を装って接触してみるのはどうだろう?いや、それも難しい。黒衣の聖者が主に活動しているのは大型以上のダンジョンの深層である。夢の実力ではたどり着ける場所ではない。


「はぁあ…ダメかぁ…一目でいいからもう一度…。」


 そう言えばと、アポを取りに行ったときのことを思い出す。


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──────────

─────


『あの…黒衣の聖者さんに取材をしたいんですけど…。』


『黒衣の聖者…大我さんのことですか?一応聞いておきますね?』


 ─────今回接触を図ったギルドの受付の子…黒衣の聖者のことをよく知っていそうだった。名前もたしか言っていたような気がする。


「…大我…さん…。」


 あの子なら何か知っているのではないだろうか?ようやくたどり着いた手がかりだ。ここで逃すわけには行かない。


「明日…また行ってみよっかな。」


 そう呟くのだった。

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