第二章 ペトラの物語 下賜騒動
モルダウ国王主催の舞踏会
鼻っ柱が強くいささか、お口も達者なペトラさんも、ハイドリッヒの姉である『愛人待遇麗人 エリザベート』には頭が上がらない。
今日もお茶を前に叱られている。
モルダウ国王主催の舞踏会に招待され、参加したのが原因です。
踊った相手がペトラさんに求婚してきたのです。
それもペトラさんが相手に惚れた、と、大いなる誤解をしたようなのです。
さらにはどうやらペトラさんを別の人と勘違いしているような……
* * * * *
ハイドリア連合王国ハレム所属の『格子 ペトラ』は気が強い。
実家はハイドリア連合王国を構成するモルダウ王国の侯爵家、しかしそれも遠い昔の話。
現在の当主の侯爵とは、血のつながりというならほとんどない状態である。
『エラムの騎士』であったハイドリッヒの直系の子孫であり、鼻っ柱が強く、いささかお口も達者なペトラも、ハイドリッヒの姉である『愛人待遇麗人 エリザベート』には頭が上がらない。
今日もお茶を前に叱られている。
「まったく……貴女はヴィーナス様にお仕えする女官なのよ!ご寵愛をいただいた『格子』なのよ!」
この叱られている理由について、実はペトラには何の責任もないのではあるが……
「そうはおっしゃられますが、私には寝耳に水なのですが……」
「まあ、そうなのではありますが、チャラチャラと着飾ってリップサービスなんてするからよ!」
そうなのですね……事の顛末は次のようなのです。
久々に故郷に帰って、のんびりとモルダウで休暇をとっていたペトラさん。
モルダウ国王主催の舞踏会に招待され、ハウスキーパー事務局の許可をもらって参加したのです。
この時、黒の巫女の仕えている女官ということは、大っぴらにしないことと釘をさされたのです。
黒の巫女の女官は、公の場所には出ないことになっているのです。
まあ、このころには形骸化されて、お忍びなら別に怒られないし、事務局の許可をとっていれば、別に踊りの相手ぐらいなら構わない……
もちろん、ペトラさんがどのような立場の女かは、国王主催の舞踏会に参加するぐらいの者なら当然知っている……公に口にはしない、これがマナーなわけである。
舞踏会のダンスね……そういえばヴィーナス様はお上手でしたが、あまりお好きではなかったような……
あっそうだ!堅苦しいのはお嫌いでしたね……
それでも出るところに出れば、ピシっとされていたわ!
そんなことが頭をよぎったりしていましたが、ペトラはダンスなんてお手の物、体に叩き込まれているのか、自然に動くようです。
ペトラは舞踏会の華、さすがに黒の巫女様の寵妃、誰もが感嘆したのです……口には出さないのですよ。
次から次に踊りを申し込まれ、そつなくお相手を務め、それなりに楽しんでいたペトラさん。
「やはり楽しいわ♪私ってダンス好きだったのね♪」
舞踏会場の人々の賞賛の視線が心地よい……そして最後の曲が流れてきました。
「よろしければ私と踊っていただけませんか?」
手を差し出されたので、手を添えたペトラさん。
流れるように踊る二人でしたが、当のペトラさんというと……
……知らない方ね……見覚えがないわ……どこかの貴族の息子さんでしょうが……まあ、いいか……
……それにしても顔が近くない?失礼な方ね……
ダンスが終わり、ストレス発散したというか、すっきりしたペトラさん。
「まだ休暇は少し残っているわ♪久しぶりに実家に顔を出しましょうか?」
エリザベートさんは、このままイーゼル温泉に保養にいくようです。
ペトラの実家はライニンゲン家といいい、ハイドリッヒ王の息子ウィルヘルム王の三番目の妻であるベルンハルデ王妃の子孫。
ペトラの後、一度断絶しかけたが、遠い親戚の某公爵家の次男が婿入りしている。
それでもペトラは一族の女長老として大事にされている。
したがっていつでも部屋は用意されているのだ。
「これはペトラ様、歓迎いたします」
顔見知りのバトラーが歓迎の言葉を口にしました。
「休暇をいただいたので、久しぶりに泊めていただこうかなと思いまして」
「存じておりますが、ホテルにお泊りだったとか?ご遠慮なさらずに当家にお泊りください」
「侯爵様が残念がっておられましたよ」
「そうね……私が国王陛下主催の舞踏会に参加するにあたり許可がいりますし、大っぴらにはできませんのでね」
「舞踏会が終わったから、まあ里帰りという名目でね、ごめんなさいね」
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