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「よお、久しいなー」

懐かしい声に川辺に立っていた女性は振り向いた。

「これはこれは。お久しぶりです。お隣さん」

そう微笑むと女性はふふっと微笑んだ。

彼の祖父が当たり前のように話しかけてくれることが嬉しかったらしい。

「今日は祭り日和だなー。お前さん、よお似合っとるじゃないか」

「でしょ!今日は気合いを入れたからね」

そう言って、くるりと回る女性。

黒い浴衣に赤い花が咲き誇り、赤い花と同じ色の帯をつけ、足下は動きやすさを重視したサンダル。

頭の右側には黒い狐の面をつけ、女性はふふんと胸を張った。

「なんせ久しぶりのお祭りだからね!何より」


川の向こう側、隣町の祭りには彼が来ているらしいから


「頑張ったんだねー。勉強も絵も。でも、私をモチーフにするのは恥ずかしいから止めて欲しいとこだけどね」

照れくさそうに笑う女性の隣で彼の祖父は、いいじゃないかと大声で笑った。

「おかげで元気に過ごしてくれている。あんたには感謝してるよ」

「それはこっちの台詞だよ。彼のおかげで私は本当に幸せで楽しい時間を過ごしたんだ」

後ろから流れる祭りの音を聞きながら、女性は空を見上げた。

満天の星空が今にも降ってきそうだ。

「そろそろ時間か」

彼の祖父がそう呟けば、女性はそうだねと返事した。

「それよりお隣さん。お隣さんはあっちの祭りの人でしょ。なんで隣町にきてるのさ」

「細かいこと気にすんなよ。この歳になれば橋の渡り方くらい分かるさ」

「いいから戻りなよ。お面の色分けてる意味なくなっちゃうじゃん」

むすっとした表情で女性が彼の祖父を追い出すようにしっしっと手を動かした。

「はいはい。じゃあまたな」

「その挨拶もどうかと思うけどね」

手を振りながら、橋の方へと向かう彼の祖父を見送ると女性は川辺を再び見つめた。

気づけば、女性の周りに人が集まり、楽しげに会話をしながら照明が消えるのを待っている。

川の向かいにも人が集まっているのが見える。

きっとあの中のどこかに彼も来ているのだろう。

祭りの照明がひとつまたひとつと消えていく。

連動するように隣町の祭りの照明も消え、辺りが静寂と暗闇に包まれた頃、見上げれば満天の星空が、目線を戻せば川に星空が鏡のように映し出され、輝いている。

まるで空から星が降り注ぎ、流れていくようだ。

「あの日見た星も綺麗だったよね」

そう呟き、微笑むと女性は胸の前で手を組んだ。


空見上げ

暗き帳に星光り

流れ願うその先に

彼方の夢に思い馳せ

祈るは君の幸せと


照明がひとつまたひとつとつき始めた。

祭りももうすぐ終わるのだろう。


女性は黒い狐の面を顔の正面につけた。

そのまま、ゆっくりと川に背を向け、隣町へと帰っていく。

「また遊ぼうね」

そう呟き、黒い狐の面をつけたまま女性は祭り会場を後にした。

気づけば、黒い狐の面の人々は姿を消し、満天の星空と空から落ち流れていく星空だけが静かに輝いていた。

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星流れ 水無月白雨 @ayamehakuu

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