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数日後、再び、祖父のお見舞いに訪れた病室には女性はいなかった。

真っ白に取り替えられ、しわ一つない誰もいないベッドを見下ろすように、窓によって切り取られた青空が清々しいほどに澄んでいた。

「話し相手がいなくて暇でなー」

そう笑う祖父にはいはいと彼は適当に返事をした。

たわいもない会話をし、家に帰れば勉強と息抜きに絵を描き続けた。

あれ以来、彼は女性に連絡を取らないと決めた。

「約束したから」

女性からの遊びの誘いが来るまで、彼からは決して連絡はしない。

かつて、女性から貰った言葉は今も大事に彼のポケットに入っている。

無くさないように落とさないように専用の入れ物を購入し、お守りとして肌身離さずに持ち歩いた。

箱庭も昔ほど窮屈と感じなくなった。

人の価値観や気持ちなどそれぞれなのだと気づいた日から、彼は息の仕方を完全に思い出していた。

受験当日も合格発表の日も女性から貰った言葉のお守りを持ち歩き、女性ならどういう言葉をくれるだろうかと想像した。

周りの人との距離感や合わせ方が分かるようになっていた。


完全に合わせてつらいだけなら、程よく線をひけばいい。

線よりこちら側にこれるのは・・・。


彼は気づけば大学2年生となっていた。

未だに女性から連絡はない。

それでも彼は待つと決めていた。


友人も出来るようになり、サークルで描いた絵も特別賞を受賞した。

笑顔も偽りではなく、自然に笑うようになっていた。

その姿はかつて女性が見た少年の笑顔とよく似ているのかもしれない。


「じゃぁ、いってくる」


母親にそう声をかけ、彼は玄関の扉を開けた。


今日は隣町との合同の祭りの日。

大学でできた友人達と一緒に行く約束をしている。


女性のことを忘れたわけではない。

その証拠に言葉のお守りは今も肌身離さず持ち歩いているし、彼が描く絵は全て女性との思い出だった。

きらきら世界に色とりどりの景色。

そして、必ず女性を想像させる魚やレッサーパンダが描かれている。

女性本人を描くのは再び遊びの誘いがきたときと決めている。


待ち合わせ場所の祭りの入り口で白い狐の面を受け取ると、彼は穏やかに今ではない景色を見て微笑んだ。

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