22
青空の下、彼から無言で渡されたパーカーを羽織り、女性は日陰のベンチに腰掛けた。
花の見頃は終わりに近づいているのか、少ししおれていた。
しかし、青空の下で見るその姿は美しく凜としているように見えると女性は思った。
「いやぁ、偶然というのは怖いものだね。君のおじいさまとは思わなかったよ」
彼から無言で渡されたホットウーロン茶を飲みながら、女性はふふっと笑った。
その笑い方は祭りの時より、格段に儚くなっていることに彼は気づかないふりをした。
「どうして連絡してくれなかったんです?」
少し責めるような口調になってしまったことに彼は少し後悔しながらも、それでもその感情をどう伝えれば良いのか分からず、両手のひらに自身の指が食い込むほど強く握った。
無意識の行動だろうと女性は、その手を見つめるとふわりと微笑み向かいに立っている彼を見上げた。
「あの頃とは逆になっちゃったなー」
彼の質問に答えずに女性は懐かしそうに空を見上げた。
青空が広がる世界。
しかし、当時はオレンジ色が眩しい夕焼けだった。
「何の話ですか?」
「私と君が初めて出会った日のことだよ」
ホットウーロン茶を一口飲むと、女性はいつもとは違う大人びた表情で彼をまっすぐと見つめた。
「私と君が出会ったのはね、もっと、ずっと前の、私が今の私ではない光がない世界に生きていた時の頃なんだ」
そうだね、例えるなら君が川辺で座り込んで絶望していたような時代だよ
「きっと君は覚えていないだろうけどね。でもね、私はあのとき確かに君に救われた」
彼に声をかけたのは本当に偶然だったのだと女性は言った。
声をかけ、顔を見たときに彼の顔に当時の少年の面影があることに驚いたのだと。
「偶然かと思ったけど。話してみたら同一人物だと確信しちゃって」
だから、今度は私が手を差し出そうと決めたんだ
「全く話が見えないんだけど」
いつの間にか両手の力が抜けた彼は、不服そうに女性の隣に座った。
「そうだね。でもそういうことなんだよ」
隣に座った彼の方を見ずに、ホットウーロン茶の缶を見ると女性は目を瞑った。
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