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「後で連絡するね!」

そう言って女性は元気に手を振りながら去って行った。

その背中に背負っている大きなリュックサックの主張が強いと思いながら、彼は自身が持っているスマートフォンを見つめた。

見知らぬ女性の連絡先が入っていることに戸惑いを感じながら、家に続く道を歩き出した。

すっかり陽は落ち、満天の星がきらきらと輝いている。

地元では見慣れた有名らしい大きい川が鏡のように星空を映しだし輝いている。

彼は期待しているわけではない。

しかし、心のどこかが少しだけ弾んでいるようだった。


家に帰り、母親が用意してくれていた晩ご飯を口に運ぶ。

最近の会話はどこの大学に行くのかという話ばかりだった。

パンフレット片手に大学の特色を読み上げる母親の言葉をBGM代わりに黙々とご飯を平らげていく。

「ごちそうさま」

小さくそう呟き、母親BGMを終わらせると彼はお風呂へと向かった。

髪を洗い、身体を洗い、湯船に浸かればどっと疲れが押し寄せてくる。

興味のない会話、興味のない流行、興味のない大学・・・。

意識しなくても入ってくる情報は彼の心をどんどんと黒く染めていく。

息苦しい。

目を閉じ、耳を塞ぎたくなる。

そんなことをしても何の意味もないことを彼自身が一番よく知っている。


「私と一緒にお出かけしよう!」


黒く染めた心に小さな点のような光が浮かんだ気がした。

初めて会った見知らぬ女性。

年齢は彼よりかなり上だろうと思う。

お人好しなのか怪しい人物なのか。

その判断が出来ないまま、交換した連絡先。

彼は湯船から上がると、寝間着代わりのジャージに着替えて髪を適当に乾かした。

母親に捕まる前にとさっさと二階の自分の部屋へと向かい、彼はノートを開いた。

絵の方ではない。

大学受験に向けて無理矢理作っている参考書用のノートだ。

ゆっくりと参考書を開き、進まないシャーペンを動かしながら公式を写していく。

書いたところで頭に入らないのは彼にも分かっている。

しかし、少しでも勉強していないと母親からの愚痴が煩わしい。


ふと、スマートフォンの画面がメッセージを受信したことを告げた。

見れば、女性からよく分からないキャラクターのスタンプが送られてきていた。

「・・・個性的なキャラだな」

そう呟き、適当にスタンプを返せばすぐに既読マークが表示された。

『さっきぶりだね!さっそくだけどお出かけの場所を決めよう!』

元気いっぱいな文章に彼の口元は自然と緩んでしまう。

何故だか分からないが妙にわくわくしてしまっている。

『どこでもいいです』

彼がそう返せば、女性はそれは困ると返ってきた。

『君がわくわくするところに行かないと!』

急に言われても出てくるはずがない。

彼は暫く悩んだ後、ボウリングをリクエストした。

『おっ!私、ガーターには自信あるんだよね!』

「どんな自信だよ」

思わず口に出してつっこんでしまった彼の心はやはり少し弾んでいる。

予定表を確認し彼は次の休日の予定を確認した。

特に予定は入っていない。

その旨を返信すれば、女性から善は急げだスタンプが送られてきた。

こうして、次の休日に彼はボウリングに行くことが決まった

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