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何をするわけでも何を考える訳でもない。

ただ、ひたすらに川とその向こう岸を見つめ、空を見上げ星が輝きだした夜を確認する。

もうすぐ完全に陽が眠りにつく。

彼は足を曲げ、膝に自身の額をつけた。

そうすれば少しは楽になるような錯覚に陥る。

川の音が、雑草の匂いが彼の心に少しだけ優しさを与えてくれる。


そのときだった。


「君、何してるの?」

彼の隣で女性の声がした。

驚いて顔をあげると見知らぬ女性が心配そうな表情で彼を見ていた。

「・・・別になんでもありません」

驚きと恥ずかしさで少し小さくなった声で彼は答えた。

「そっか。体調が悪いのかと思ったよ」

安心したように微笑むと女性は何を思ったのか、そのまま彼の隣に腰掛けた。

背負っていた大きなリュックサックを女性と少年の間に置き、うーんと大きく伸びをする。

「あの、何か?」

相手は女性でも知らない人物だ。

警戒するなという方が無理な話だろう。

彼がそう尋ねれば、女性は空を見上げた。

「んー、君がしんどそうだから話でも聞いてみようかなって思って。気まぐれかな?」

「別に体調が悪いわけじゃ・・・」

なんとなく視線を地面に向け、彼はそう答えた。

「体調じゃなくて君の考えていることの方かな?」


人生、つまらないって顔してるよ?


その言葉に彼は勢いよく顔をあげた。

完全に夜になった世界で蛍光灯からLEDに交換されたばかりの外灯が女性の顔をはっきりと照らした。

やはり知らない女性だ。

しかし、その瞳は優しさを宿し、彼をまっすぐに見ていた。

「知らない人間の方が話しやすいこともあるし、よければ話聞くよ?」

普段の彼ならきっと女性を怪しんで断っただろう。


しかし、手は自然と鞄にしまわれたノートへと伸びていた。

口も言葉を紡ぐ為に開こうとしている。

そのとき、彼は気づいた。

もう息ができないと思うほどに疲れていたことに。

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