第17話 二つの覚醒
砂煙が立ちこめる瓦礫の上、動けずに腰を抜かしている美羽・翔花・凪。
その視線の先、かおるのオレンジ色の髪は陽光を浴びて
「……かおる…!」
三人はただ息を呑み、言葉を失う。
一方かおるは迷いなく白髪の少女へ向かって一直線に走り出した。
地面が轟音とともに砕け散り、その衝撃が体の芯に響く。
かおるは斧を両手で振り上げた。
空気を切るブンッ!!という重い音が鳴る。
かおるは歯を食いしばり、白髪の少女へと真っすぐ叩きつけるように振り下ろした。
「ひっ…!」
白髪の少女は涙を浮かべ、慌てて空中へ跳び上がり斬撃をかわす。
振り抜いて地面に斧が叩きつけられた瞬間、轟音と共に亀裂が四方八方に走った。
白髪の少女はその威力にプルプルと震え、どんどん涙目になっていった。
「ひぃぃ…!力比べじゃ勝てませんし、目的は果たしました!ペリートのことも気になりますし…さよならっ!」
弱々しい声で、杖をしっかりと抱きかかえながら少女は捲し立てた。
かおるは叫んだ。
「待てっ!」
だが、少女は振り返らずそのまま姿を消した。
何もない虚空を見つめたかおるは、すぐ思い立ったように踵を返し、慌てて地面にへたり込んでいる3 人のもとへ駆け寄った。
「3人とも、大丈夫か!?」
「かおるぅ…!」
「ゔぅっ…ごわがったぁ…!がおる、がっごいぃ…!」
泣きじゃくりながら美羽と翔花がかおるの腰へとしがみつく。
「泣くのか、褒めるのか、どっちつかずだなあ」
軽く笑いながら、二人の背中を優しく叩く。
その横で凪は眉を寄せ、かおるの体を心配そうに見つめる。
「ケガは…ない?」
「大丈夫だよ、ちゃんと動ける」
かおるは安心させるように微笑んだ。
「かおるも…何か見えたの?」
翔花が涙をぬぐいながら、かおるの鎧に視線を落とす。
「うん、詳しく説明したいけど、未桜達も気になる。都市へ戻りながら合流を目指そう」
「―そうだね。無事だといいんだけど」
凪も不安げに、別方向へ走り去った未桜たちのことを案じている。
「おっと…」
ふわっとオレンジ色の光が身体を包み、元のかおるへと戻った。
「…さ!急ごう!」
4人は未桜達と合流すべく、一歩一歩足を速めた。
―――
崖の上、岩の巨大な蛇はまだのたうち回っている。
ペリートは斧を振り上げ、崖っぷちにいる灯・優・霞へゆっくりと近づく。
3人は一瞬の隙を狙いじりじりと後退するが…
「逃げないでよ〜、面倒くさいんだからさぁ〜」
ペリートが鋭い目で3人を睨みつける。
足元から毒々しい
「なっ…!?動けない!」
「なんやこれ…!」
灯と優の
霞の瞳が一瞬見開き、揺らいだように見えた。
ペリートが鋭く一歩を踏み込み、
「待てっ!」
未桜が飛び込み、大剣でペリートの斧を受け止める。腕に痺れが走る。
―金髪のあの女とは違う…重い…!!―
背後では岩ヘビがうねりをあげ、猛然と突進してきた。
「くそ…!」
未桜は焦りながら斧を押し返したが、すぐに体勢を整えたペリートが重い斬撃を繰り出す。
未桜は目の前の敵との応酬の余裕のなさと、迫りくる岩ヘビへの焦燥感で、手が震えた。
ニヤリと笑うペリートの表情が憎たらしい。
「この…っ!!!」
未桜は焦りながらも自身を奮い立たせた。
その時
——パチンッ!!
鋭い指鳴らしが響き渡る。
直後、岩ヘビの下に紫色の魔法陣が出現し、無数の紫の腕が伸びて、巨大なヘビを縛り上げた。
「なっ…!?」
未桜は目を見開き、ペリートも動きを止める。
「えっ…?」
灯と優が互いに顔を見合わせる。隣を見ると、霞が肩で荒い息をしていた。
「はぁっ…はぁっ…くっ…!」
パチンッ!!!
霞がまた指を鳴らすと、3人の足元に紫の魔法陣が現れた。毒蔓が消え、3人は解放される。
「か、霞…!?」
優が心配そうに声をかける。
霞は優に答えず立ち上がり、両手を体の前へかざすと、黒い鎌が浮かび上がる。
霞が鎌を手に取った瞬間、濃紺のローブをまとい、紫の髪と瞳が妖しく輝く姿に変わっていた。
荒い呼吸のまま、霞は鎌を右手で高く掲げ言った。
「やっと、思い出せたわ…魔封じなら得意分野や…!」
紫の腕が岩ヘビを空中に放り投げ、ペリートへ向けて投げつける。
「うへぇっ!?」
ペリートが情けない声を上げる。
岩ヘビがペリートの真上へと落ちてきた。
ガガガンッッ!!!!
その瞬間、上空から隕石が降り注ぎ、岩ヘビは轟音とともに粉々に砕け散った。
土煙と、焦げた匂いが立ち込めた。
――土煙が薄らぎ、視界が開けると全員が隕石が降ってきた空を見上げた。
そこには、白髪の少女が杖を構えて浮かんでいる。
霞の姿を認めて、少女は呟く。
「こっちも…達成ですね」
少女は地面に静かに降り立ち、ゆっくりと4人を見渡したあと、その視線はまっすぐ優へと注がれた。
「……っ…?」
優は思わず、言いようのない感覚を覚え、たじろぐ。
―うちと…似てる…?
雰囲気はまるで違う。しかし、直感的に白髪の少女が自分と似ている。幼い頃の自分をみているような、声色が似ているような――そう思った。
―そんなわけ…こんな子知らんもん…!―
そして――まるで鏡の中の自分が睨みつけてきているような、そんな不気味な不安感が押し寄せ、手に汗が滲んだ。
優の怯えて一歩後ずさる姿に、未桜は庇うようにして剣を構えて前に立ちはだかる。
「パールの方も、とりあえず終わりぃ?はーー岩ヘビもダメになっちゃったし、今日はもぉ疲れたなぁ」
ペリートは斧を空中に投げると、霧のように消えた。
パールが杖を構え、ペリートへ
「あとは…任せましょう。やりすぎて不機嫌になられても困りますし」
優はパールの視線が自分に向いているのを感じ、思わず叫んだ。
「―待って!」
その言葉にパールの表情が歪む。
弱々しかった目は力強く、優をじっと
「……あなた、嫌い」
「…っ!」
優は息を呑んだ。
その一言は鋭く優の心を突き刺し、彼女の胸に冷たい感覚が広がった。
言葉を失い、立ち尽くす優。
サァッ
一瞬風が吹き、二人はまるで灯火のように静かに消え、残された空間に寂しさが漂った。
未桜達は2人が消え去った空間を見つめ、固く拳を握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます