第14話 目覚めて


 「ッッったあああああぁ!」


 とあるテナントの中、激痛によりエイタは目を覚ました。

 もうもうと瓦礫の塵が舞う中、ぐらつく視界に吐き気が込み上げてくる。


 全身がバキバキと痛み、特に最後に攻撃を受けた腹部が重症だ。

 

 おなかを擦りながらなんとか立ち上がる。


「あーやば、よく生きてたな、俺」


 飛ばされてきた場所を見ると巨大なクマのぬいぐるみがあった。

 それをみて思わず乾いた笑みが零れる。


「ははっ、流石に運が良すぎるな」


 飛ばされながらも離すことのなかったバールに視線を落とす。

まだ殴った衝撃が抜けておらず、ビリビリと震えていた。


(全然通じなかった、今のままじゃあいつには勝てない・・・)


 遠くかららズドン、ズドンと聞こえてくる。


(そういえば、最後にくーねを見たな。ってことは今くーねが戦っているのか。)


 戦場に戻るために歩き出す。


「あ”あ”ぁ”ぁ”あ”あ”」


 そんなエイタの進路をふさぐように1体のゾンビが現れる。

しかし、エイタは特に動揺することもなく歩き続ける。


「そりゃいるよな、魔獣ですっかり忘れてたけど」


 近づいていく両者。

 ゾンビが両手を前に伸ばしエイタを掴もうとする。


 エイタはそれを難なく避けた。

 掴む対象がいなくなってしまったゾンビは前のめりによろめく。


 そんなゾンビに振り向きざまにバールの横なぎを振るう。

 曲がった先端がゾンビの頭部に突き刺さる。

 殴られ大きくバランスを崩したところに追撃を二発、頭部に叩き込む。


 叩くたびにグシャッと音を鳴らしながら形を変えていく。


 しかしまだ動きが止まらない。


「たしか、心臓だったよなっ!」


 そういいながらバールの逆手側をゾンビに突き立てた。


 ビクビクッと痙攣したゾンビが動かなくなる。


 その場で放心。

 暫くしてから心臓の鼓動が早くなっていくのを感じる。

 深呼吸しながらなんとか落ち着かせていく。


 ゾンビと対峙し、戦闘したのに思ったより冷静だった。


「やっぱり、アレと比べるとな」


 魔獣と比べられたゾンビからすると、「あんな化け物と比べるなっ!」と思われてしまうかもしれなが、やはり魔獣と戦ったという経験がゾンビの恐怖心を和らげていた。


 一度ゾンビを見たエイタは「ごめんなさい・・・」と小さく呟くと立ち上がり、今度こそ魔獣の所へと向かう。






 遠目からでもくーねの姿が見えてくる。


「すごい・・・」


 ミカを抱えて3階までジャンプした時にも思ったことだが、今の感動はそれ以上だった。

くーねの戦闘をちゃんと見るのはこれが初めて、正直別次元だと感じる。


 迫りくる魔獣を拳で弾き、クレーターが発生する。蹴りで飛ばし、軌道が逸れていく。接近戦では懐に潜り込み、確実にダメージを負わせていっていた。

 地形をも利用した縦横無尽な動き、ツインテールが舞う。

まるで映画のバトルアクションを見てるようだ。


 それに比べて自分の戦闘はどんだけ幼稚なものだったか・・・

 よくあの魔獣にタイマンで喧嘩売ったな、と呆れてしまう。

今ならわかる。魔獣は手を抜いていた。でなければエイタは今頃ぺしゃんこだ。


「これが、本当の戦いか、」


 想像していたよりもずっと遠くに感じ、少し落ち込んでいると、とある場所がピカピカ光っている事に気が付いた。


 不思議に思い近づいていく。戦闘の邪魔にならないように裏を通り目的地へと到着すると、


「これはっ?、あぁ、あのときの光はこれだったのか」


 そこには中にぷかぷかと浮かびながらくるくると回り、光をまき散らしているビー玉のようなものがあった。

 ゆっくりとそのビー玉を手に取る。


「これも心核なんだな。くーねは光るものが好きなのか?」


 手のひらにビー玉を転がすと次第に光は収まっていき、見た目はただのビー玉になってしまった。

 それをポケットにしまい込みながら、これからのことを考える。


 (魔獣のところに戻るか?いや、俺が行ったところで足手まといにしかならないか)


 くーねと魔獣の戦いの邪魔をして、くーねが不利になってしまうようなことはしたくない。

 なら今はミカのところに行くのが先決だろう。


 そう思い歩こうとして、ピタッと足を止める。


(そういうば桐島さんがどこにいるか知らなかった)


 そう思った瞬間だった。


――ズガドドオオォォオオォォンン!!


「??!?!!?っなんだ!?」


 少し離れた場所から大爆発の音が聞こえてくる。

 反対側ではくーねが戦っている。つまり、この音は魔獣との戦闘で起こったのもではない。

 ならば一体だれが、


「桐島さんっ!」


 エイタは爆発した方向へと走り出した。

 

 爆発があった場所へとたどり着いたエイタは驚愕した。

 まさかここまで大きな爆発が起こっていたとは。もう半分外と言っても過言ではないくらい壁は壊れ、天井は崩壊している。


 その近くに倒れているミカを見つけ駆け寄る。


「桐島さん!大丈夫?」


「エイタ君!来てくれたの?」


「なんか凄いことなってたからな」


 「嬉しいなぁ」と言いながら立ち上がろうとするミカ。そこでようやくエイタを視界に入れる。


「ってエイタ君なにその怪我!?大丈夫なの!?」


 エイタの腹部を見て驚きを露わにするミカ。それもそうだろう、魔獣の尻尾をもろに食らったのだ。すんごい痕ついてたりする。


「ん?ああ、平気だよ、痛いけど我慢できる。」


 それ絶対やばいやつだよ。と思ったミカだが、本人が平気ならまあいっかと考えるのをやめた。


「そうだ。エイタ君がここにいるってことは魔獣はもう倒せたの?」


「いや、それがまだなんだ。俺は最初の方にすぐぶっ飛ばされたから」


 ミカが少し微妙な顔をする。「それ大丈夫じゃないよね?」とか言いたそうな表情だ。


「それよりさっきの音は?なんか凄いことなってるけど」


 そう聞くとミカはしら~と視線を反らした。これは何か知ってるな。

 問いただすと指をちょんちょんとしながら自分が起こしてしまったことを話し出した。


「おぉ、凄いな、桐島さん。」


「若干引いてないっ?!」


「そんな事ないよ、まさかガスが充満してるところに粉撒いて火入れるとか、えげつない事を考えるなとか全く思ってない。」


「思ってるじゃん!!もう!!」


 怒りや羞恥心でプルプルするミカ。いつの間にか彼女の肩に乗っていたかっこんも両手を交互に上げて反抗の意を示している。おそらく共犯者だろう。


「いや、ホントに思ってないって。ってか凄いと思う。大勢のゾンビをいっぺんに倒すなら最高の案だ。」


「えへへ、そ、そうかな」


 褒められて今度は照れだす。かっこんも自分の頭を撫でていた。多分照れてる。


「後はくーねか。」


「そうだね。助けにはなれないかもだけど、それでも私は行きたい。」


 エイタも気持ちは一緒だ。ならもう行くしかないだろう。


「よし、行こう!」


「うん!」


 そうして二人はくーねの元へ向かうのであった。


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