第18話 魂の争奪戦
ミア・グーゼンバウアーの体内から放たれる冷たい光は、嗤う影の眷属たちを押し返し、その奥に潜む中村健太の魂を覆っていた。
しかし、嗤う影の本体は、その巨大な姿をねじらせ、ミアの光を貪り食らおうと迫る。
ミアの意識は、健太の魂との共鳴によって、その絶望と痛みを共有し、同時に自身の中の「招かれざらる力」の膨大な可能性を感じていた。
『お前…この光を…我らに捧げろ…!』嗤う影の声は、ミアの脳に直接響き、彼女の精神を混乱させようとする。
「いや…!」ミアは、力の限り抗った。
ゲームで培った集中力と、決して諦めない闘争心が、彼女を突き動かしていた。
ルクスとの契約、そして、このゲームのような理不尽な「ゲームオーバー」を覆したいという強い意志が、彼女の光をさらに強くする。
その頃、地下の鉄扉の前では、紳士ルクスが必死に扉を叩き続けていた。
彼は、ミアの放つ光が、単なる霊力ではないことに気づいていた。
それは、ミア自身の魂の深部に眠る、何か「異質」な力だった。
「ミア! その光は…契約を破るかもしれない…それでも…!」ルクスは叫んだ。
彼の目的はミアの魂を喰らうこと。
しかし、ミアがこのまま嗤う影に飲み込まれてしまえば、それも叶わない。
彼の葛藤が、扉を叩く手にさらなる力を込めた。
影山宗一郎と黒岩隆は、鉄扉から噴き出すおぞましい霊気の圧力に阻まれ、儀式を始めることができないでいた。
しかし、扉の奥から聞こえる、ミアの放つ光の波動が、彼らに新たな可能性を感じさせていた。
「あの娘の力が…『嗤う影』を抑制しているのか…?」黒岩が驚愕に声を上げた。
「これほどの力は…まさか…」宗一郎の顔色が変わった。
彼は、古文書に記された「招かれざる魂」の記述を思い出していた。
それは、この地の怨念を鎮める唯一の鍵となりうる、しかし同時に、想像を絶する危険を伴う存在のことだった。
一方、地上では、影山葵たちが体育館で絶望の淵に立たされていた。
スピーカーから流れ出す血と、そこから浮かび上がる歪んだ顔の幻影が、彼らの精神を蝕み続ける。
田中浩太、佐藤優美、山本莉子、小林大地は、恐怖に震えながら、互いに身を寄せ合っていた。
その時、体育館のスピーカーから、再びミアの声が響いた。
それは、先ほどよりもはっきりと、力強く響き渡った。
『まだ…終わってない…!』
その声は、生徒たちの心に、凍てついた氷を溶かすかのような温かい光を灯した。
優美は顔を上げ、莉子はスマホを握りしめた。
大地は、震える足で立ち上がった。
彼らは、あのミアの声に、かすかな希望を見出したのだ。
地下深部。ミアの放つ光は、嗤う影の本体を押し返し始めていた。
影は、怒りとも、驚きともつかない歪んだ嗤い声を上げ、ミアに襲いかかる。
しかし、ミアの光は、その度に影の力を削り取っていく。
健太の魂は、ミアの光の中で、少しずつ回復していくのが見えた。
彼の意識が戻り、ミアに感謝の念を送っているようだった。
しかし、完全に解放されたわけではない。健太の魂は、依然として嗤う影の一部に捕らえられており、ミアの力だけでは、完全に切り離すことができないでいた。
その時、ルクスが、ミアの意識の奥底に語りかけた。
「ミア! その力は…あなたの命を蝕む! 私の力を使え! 私が契約を果たす…そして、あなたを救う!」
ルクスの声が、ミアの頭の中で響き渡った。
ルクスは、自らの存在を、ミアの魂に深く浸透させようとしていた。
彼がミアの魂を喰らうことは、同時に、彼がミアを、この嗤う影から完全に解放することを意味していたのだ。
それは、ルクスにとって究極の「契約履行」であり、ミアにとっては、究極の「ゲームオーバー」でもあった。
ミアは躊躇した。ルクスに魂を渡すことは、これまでの彼女の全てを失うことと等しい。
しかし、このままでは、健太の魂も、自分自身も、嗤う影に食い荒らされてしまう。
その瞬間、ミアの瞳の奥に、ある覚悟が宿った。
彼女は、ルクスに意識を集中した。
遠く、高校の敷地の外にある古物店の店主は、店の軒先で、その光景を不気味な笑みで見守っていた。
彼の瞳には、ミアの光と嗤う影の激しい攻防、そしてルクスがミアの魂に深く干渉しようとする様が映し出されていた。
「さて、本物の『魂の争奪戦』が始まったねぇ。これは…見物だ。」
店主の低い笑い声は、闇に響く嗤い声の合唱と混じり合い、どこまでも深く、不気味に響き渡った。
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