第1部 第7話 『サトシの告白』
《Town Code》のYouTubeチャンネルに、新たな動画がアップされた。
🟥【#06】これは俺たちの“最後の動画”になるかもしれない。
タイトルの不穏さに、綾乃の指が止まる。
動画を再生すると、サトシと名乗る若い男性が、照明を落とした部屋でカメラに向かっていた。
背景には、町の地図や建築図、古文書のコピーらしき資料が散乱している。
『……お前らに、知ってほしいことがある。俺たちは“利用されてた”。』
『最初はただの都市伝説のネタだった。でも、動画を出すたびに“現実の事件”が起きた。』
綾乃の心臓が強く打つ。
『気づいたんだ。動画で発信することで、“誰かの計画”が進行してたんじゃないかって。』
サトシが手に持ったのは、一枚の図面だった。
神納ニュータウンの“開発前”の原案。
『これは、“光の輪”構想が出る前の配置案。中央に医療拠点、その周囲に十二のブロック……』
画面が切り替わり、図面の裏に貼られていたという和紙が映る。
墨で力強く書かれた一文字――『還』。
『“還る”じゃない。“還す”。何かを、どこかから。』
サトシの語気が強まる。
『調べていく中で出てきた名前がある。神納医療法人の理事長、榊原道隆。旧姓・綾小路。』
綾乃は息を呑む。
綾小路――曾祖母が語っていた、生贄を捧げていた豪商の一族。
『神納地区の地権者で、この計画の初期から関わってた人物。町の構造そのものが、“何かを呼び戻す”ために設計された可能性がある。』
次に表示されたのは、《Town Code》のメンバー構成。
彼らは元々12人のチームだった。
『でも、今になって思い出せないんだ。誰が最初に言い出したのか。13人目がいたような、でも思い出せない』
画面が切り替わり、サトシが画面にスマホの画面を映す。
昔のライブ配信のサムネイルには、コメント欄で“YOKO”という名前が何度も呼びかけられている。
だが、現在のメンバー紹介にその名前はない。誰も、“YOKO”という人物の顔も記憶も持っていなかった。
(存在していたはずなのに、記録だけが残っていて、記憶からは抜け落ちている……?)
綾乃の背中に、ぞくりとする感覚が走った。
まるで、誰かが意図的に“記憶”を食いちぎったかのようだった。
画面が一瞬、暗転する。
その後に映るのは黒い画面に赤い文字。
【町は目を覚ました】
【最後の“鍵”は、すでに選ばれている】
その瞬間、綾乃のスマホが震えた。
非通知アカウントからメッセージが届いている。
>あなたも、“13人目”の鍵として選ばれている。
>あなたは、何に“還る”のか。
綾乃は思わずスマホを取り落としそうになる。
「どうして、私が……」
誰に向けた言葉かもわからぬまま、呟いた瞬間。
耳元で、微かな声が囁いた。
――「あなたは、“戻す者”。そして、“導く者”。」
ステンドグラスの向こう、夜空に浮かぶ白い影。
それが、綾乃をじっと見下ろしていた。
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