第7話 2日目①


 【岩見沢市北村公園】

 

 朝露をふんだ芝生に、陽がゆっくり差し込む。テントの影が濃く伸びていた。


武「よし……OK!バッチリだぜ」

 アルミホイルを広げたタケシが言った。


慶次「なんか昨日、アルミホイル何重にもして炭を包んでたな?」


武「火がついてる炭をアルミホイルで包んどくと、酸素なくなって勝手に消えるらしい。んで次に使うと、すぐ火がつくんだって。修司さんが言ってた」


涼「なるほどねぇ……っつうか、足やっばい。太ももパンパン」


慶次「もう筋肉痛きたのかよ?若いねぇ〜」


涼「おめえも13歳だろうが!」


慶次「ふふふ、オレは14歳だぜ!」


 3人で顔を見合わせて笑った。


 重い足を引きずりながら、テントを畳み、出発の準備を終え、自転車を漕ぎ出した。

 まだ朝8時前。町は静かで、空気はやけに澄んでいる。


 美唄びばいまで1時間ほど走った。市街地に入ったところでスーパーに寄る。


 自動ドアをくぐると、冷房の涼しさに思わずため息が出る。体中がじっとり汗ばんでいたことに、改めて気づく。


 買い物カゴを一つ取って、惣菜コーナーに向かう。


慶次「なんかしょっぱいもん食いたいな。塩分足りてねぇ」


武「パンとかだけじゃ物足りないよな、正直」


 オレが覗き込むと、串に刺さった焼き鳥が目に入った。


涼「……あ、美唄びばい焼き鳥だ」


武「何それ?」


涼「モツとか皮とか、色んな部位が一串に刺さってるやつ。父さん、美瑛の帰りによく買って食ってた」


慶次「これ、何種類かあるな……こっちはタレ、こっちは塩?」


武「タレにしようぜ、ご飯に合うし。だから……おにぎりと冷たい麦茶も買おう」


 タレ焼き鳥を3パック、カゴに入れる。


慶次「これ持ってどっかで食う? いや、もうここで食っちまいたいわ」


武「外、日陰あったよな。そこいこうぜ」


 会計を済ませて、3人は再び、真夏の陽ざしの下へ出ていった。

 汗と土と、レンジで温めた美唄びばい焼き鳥のタレの香りが、少しずつ混ざりはじめていた。

 オレたちはそこに腰を下ろし、さっそくパックを開けた。


 「いただきまーす!」


 串をひと口頬ばった慶次が、すぐに目を丸くする。


慶次「ん? うまっ……けどこれ、オレンジの丸いのなんだ?」


武「ホントだ。……これ、なに?卵?」


涼「ああ、たぶん卵の黄身になる前のやつだ。内臓も一緒に刺さってるからさ」


慶次「マジで!? なんかすげぇな……」


武「オレこれ好きかも。甘いタレがちょうどいいわ」


 オレは串を握ったまま、少しだけ黙って空を見上げる。


 3人の手元には、タレで照りのある串と、コンビニの麦茶があった。


 汗が引いて、体が静かに落ち着いていく。


 食べ終わったゴミを店のゴミ箱に捨てて、再びペダルに足をかけた。


 また30分ほどすると、奈井江ないえに入った。


 何もないような小さな町。通りには車の姿もまばらで、夏の日差しだけがやけにまぶしく感じた。


 そして、気づくと3人は店の前に立っていた。大きなソフトクリームの置き物が目に入ったのだ。


 ただただ暑くて、体が冷たくて甘いものを求めていた。


慶次「これは食べるだろ?」


涼・武「もちろんっ!」


 全員バニラを選び、ひと口食べる。濃いめのミルク味が口の中にひんやり広がる。


慶次「冷てぇ〜! これこれ、チャリ旅に必要なやつ!」


武「……ちょっと癒されたな」


涼「うん……今日、なんかすげぇのんびりしてる」


慶次「……こんな静かな町、あるんだな」


武「何もないけど、……なんか落ち着くよな」


 ソフトクリームを舐めながら、3人で何となく座っていると、どこからか蝉の声が聞こえてきた。


 時計を見ると10時半を回っていた。

 

慶次「そろそろ行きますか〜!」


武「そうだな、生き返ったな」


涼「よっしゃ、行くぜ〜!」

 

 滝川に向けて再出発。

ひたすら真っ直ぐの国道12号線を駆け抜けること1時間、砂川市を過ぎて滝川に入った。

 探していたコインランドリーを見つけて、自転車を停めた。


涼「昨日の服、全部ぶち込もう。もう汗でぐっしょりだし」


 店内に入ると、乾燥機のゴウンゴウンという音が響いている。


 洗濯機にTシャツや靴下、タオルを投げ込み、コインを入れる。


慶次「洗ってる間に、行くか。ジンギスカン!リョーのおすすめ、あんだろ?なんだっけ?」


 オレは黙って頷いた。


涼「ふふふ、花尻はなじりっていう肉屋だ!美瑛からの帰りに、いつも父さんが寄ってジンギスカン買ってたんだよ!」


武「滝川なら松尾じゃないのか?」


涼「そう考えるのが素人よ!松尾はどこでも売ってるだろ?花尻はな……滝川に来た時だけだぜ!うちは松尾派じゃなく花尻派だ!マジで美味い!」


慶次「へぇ、ハードル上げるねぇ、今日は、それ食うわけだな」


涼「マジで、なまらうめぇぞ〜」


 乾燥機の音を背中に、3人で歩き出した。日差しは強いのに、風は不思議と涼しかった。



 



 

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