第6話 1日目③
【岩見沢市北村公園】
キャンプ場に着いたのは16時半過ぎ。まだ日は高かったが、ジリジリした暑さは、少しずつやわらいできていた。
荷物を置いて、まずはテントの設営から始める。
タケシは昨日のうちに、修司さんと一緒に練習していたらしく、慣れた手つきでポールを組み立て、シートを被せていく。
オレとケージは指示を受けながら動いただけで、20分もしないうちにテントが立ち上がった。
慶次「修司さんって、ほんと優しいよな」
ハンマーを片づけながらケージがつぶやく。
慶次「うちの親なんか、オレのことなんて無関心って感じだよ。まぁ、こういう時は助かるけどな。ははっ」
オレたちは笑いながら、テントのなかに荷物を収め、風呂道具を持ってキャンプ場の裏手へ歩く。
目的地は「北村温泉」。テントから徒歩5分ほどだった。
建物に入ると、ひんやりした空気に包まれた。
シャワーで体を流し……「ザバァ〜〜ン」
武「極楽だぜ〜!」
涼「でけぇ声出すなタケシ!他の人もいんだから!」
慶次「お前の声の方が大きいぞ、リョー」
一同、ぎゃははは!
涼「あっ、すいません」
小声で謝ると、隣のじいちゃんが笑ってくれた。
風呂から上がったあと、販売機で缶ビールとコーラを3本ずつ買った。
テントに戻ったのは18時半。
慶次「よし、火起こしだ!」
オレたちは、誰かが以前焚火をした石囲いの跡を囲むようにダンボールを敷いて座る。
温泉に向かう途中で拾っておいた枝を組み、タケシが持ってきた炭を準備する。
ケージがジッポを鳴らし、文化焚き付けに火をつける。
パチパチと音を立てて燃えはじめた枝の間に、炭をくべると、少しずつ赤い炎が安定してきた。
慶次「ジンギスカン、いくぜ〜!」
網の上にタレ付きの肉を広げると、甘い匂いが漂ってきた。
涼「うめぇ!鍋で焼くより、網のほうがうまくね⁉︎」
武「マジで美味いな……」
慶次「ご飯はもう少しあとにしようぜ!まずはこれ、これ!」
黒ラベルの500ml缶をプシュッと開ける。
慶次「カンパーイ!」
3人で缶を鳴らし、ぐいっと飲む。
涼「……美味いな!」
と言いながら、オレはコーラを開けた。
腹がふくれると、火のそばでゴロリと横になった。芝生のにおい。夜風。パチパチという焚火の音を聞きながら、ハイライトを吸う。どれもが、いつもとちがう時間だった。
武「……しかし、このテント助かったな。軽くてコンパクトで、3人寝れるしよ」
慶次「なっ!修司さんが貸してくれたんだろ?優しいよな、あの人。オレらが遊びに行っても話しかけてくれるしな」
焚火を見つめながら、オレは黙っていた。
武「……修司さんさ、優しいしありがたいよ。家も建ててくれてさ。市営住宅から引っ越せたのも、あの人のおかげなんだ」
「明るいし、気ぃ遣ってくれるし。母さんに怒られた時も、間に入ってくれる。
でも……それが、なんか、違うっていうか……。
たぶん今回のことも、怒らないと思う。母さんがキレて、修司さんがなだめて……それで終わり……そんな気がするよ」
火の粉がパチッとはぜた。
タケシは、小枝で崩れかけた炭をつつく。
オレは何も言わなかった。ただ、炎の揺れがタケシの横顔を照らしているのを、黙って見ていた。
武「……いや、贅沢言ってんなオレ。悪りぃリョー。すまん!」
涼「いいって。オレは別に、何とも思ってねぇし」
本音はちょっと、羨ましかった。でも今、焚火を囲んでるこの感じが、オレにはちゃんとあって、それで十分だった。
そのあとは、くだらないバカ話で盛り上がった。
中学校の先生のモノマネとか、誰と誰が付き合ってるとか、テレビの話とか、3人で大笑いしていた。
火はゆるやかに、でも確かに燃え続けていた。
22時。焚き火の始末も終わり、煙の匂いから芝生の匂いへと変わった夜風に包まれて、オレたちはテントへ潜り込む。
明日は、涼しいうちに出発する予定だ。
今日は、月がいつもより大きく見えた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます