解放-消えた境界-

「-っ!」

 やがて光の雨は上がり、町の空に青空が広がると建物の窓が一斉に開いた。そして、そこからNPC達が恐る恐る顔を出す。

『-…さっきのは、なんだったんだ?』

『…身体の震えが収まってる』

『…混沌のバケモノ共は消えたのか?』

「「……」」

 それを聞いた俺達は、顔を見合わせた。…恐らくNPC達は、先程まで『恐怖』の状態異常だったのだ。

 確かに、混沌の敵に負けた場合『呪い』としてこの状態になる。…だが、あくまでそれはプレイヤーを含めた龍騎士とドラゴンのコンビだけの話だ。

 戦う力を持たない町のNPCが、一体どうしてそんな状態になっていたのか。…これは、なるべく早く解き明かさないといけない。

 そう思った俺は、メモウィンドウを展開しこの不安要素を記入する。これで、忘れる事はないだろう。


『-…あっ!誰か居るっ!』

『…っ!』

『…ま、まさか、あの龍騎士さんが助けてくれたのか?』

 それが終わると、丁度良いタイミングでNPC達がこちらに気付いた。…とりあえず、彼らに聞いてみるか。

 ふと、そんな事を思い付きながら住人達が建物から出て来るのを待つ。すると、直ぐに建物のドアが次々と開いていった。

『-……』

 それから程なくして、俺達は住人に取り囲まれる。そして、奥から町長らしき立派な髭を生やしNPCが出て来た。

「…はじめまして。私は、この町の町長を任せられているエコスという者です」

「どうも。

 自分は、ライト。こっちは、相棒のヴァイスです」

「お初にお目にかかります」

「…な、なんと」

『…っ!?』

 まずは、お互いの自己紹介を済ませると直ぐに住人達はざわざわとした。…多分、俺達の事を良く知っているからだ。


『…ま、まさか、あの混沌の龍を打ち倒された『方々の一組』っ!?』

『-白き英雄-様だっ!』

「「……」」

「静かにっ!」

『…っ!?』

 だんだん住人は騒がしくなり、収拾がつかなくなってきた。すると、町長は大きな声を出して住人達を落ち着かせる。…一方、俺達は内心で驚いていた。

 -今、間違いなく住人達は俺達を『英雄の一組』と言った。…恐らく、他のクリア済みプレイヤーの事を言っているのだ。

 つまり、ゲーム世界がオンラインのように統合されているという事になる。…これは、素直に喜べない情報だ。

「…とりあえず、宿屋で休みたいんですけど良いですか?」

 いろいろ聞きたい事はあるが、まずは当初の目的を果たすのが先だ。…なので、少し疲れた顔を作り宿屋の事を口にした。

「…っ!これは失礼致しました。

 -皆っ、白の英雄は宿屋をご所望だっ!」

『…っ!』

 すると、町長はまた大きな声で住人達に声を掛けた。それを聞いた住人達は、直ぐに家の中に引っ込んだり店を再開したりした。


「-それでは、私はこれで失礼致します」

「…はい。

 あの、後で幾つか聞きたい事があるので役場に伺っても良いですか?」

「…っ!ええ、是非ともお越しください」

 町長は二つ返事で了承し、役場に戻った。…なんかホッとした様子だったのは、多分礼が出来と思ったからだろう。

「んじゃ、俺達も行こう」

「はい」

 とりあえず、俺達も宿屋に向う。そして程なくして宿屋に到着すると、とても良い笑顔を浮かべた店主が待っていた。

 それから直ぐ部屋に通されたので、直ぐに倉庫にアクセスした。…えっと、確かアイテムコンプの枠は下だったよな。

 記憶を頼りに下へスクロールしていくと、ようやく目的のアイテムを見つけられた。後はインベントリに、それを入れる。


『-キュイイイッ!』

 すると、窓の外から聞き慣れた可愛い鳴き声が聞こえた。そして、開いていた窓から白く小さなワイバーンが入って来て、直ぐに相棒の肩に降りる。

「やあ、お疲れ」

「キュイイイッ!」

 相棒が労いを込めて撫でると、ワイバーンは嬉しそうにした。…本当、ウチの相棒は『気が利いて』助かる。

 そんな事を思いながら、俺は素早くパレス宛のメッセージを書いていく。こうしないと、向こうが心配するからだ。

「-…よし」

「キュイイイッ!」

 メッセージを書き終えると、ウィンドウから手紙が出現した。それを見たワイバーンは直ぐに飛翔し、手紙を足でキャッチした。

「じゃあ、頼んだ」

「キュイイイッ!」

「…さて、そろそろ役場に行くか」

「はあ」

 そして、そのままワイバーンは窓から外へと飛び出して行く。なので、俺達は宿を出て町の中央に町役場に向かった-。


「「-失礼します」」

「ああ、ご足労いただき恐縮です。さ、どうぞお掛けになってください」

「「はい」」

 役場に到着すると、町長が話を通しておいてくれたので直ぐに町長室に通された。すると町長は丁寧に出迎えてくれる。

「…それで、私に聞きたい事というのは?」

「…まずは、この町の近辺に出現した『混沌より生まれし者』について聞かせてください」

「…分かりました-」

 町長の質問に、俺はまずその事を聞く。すると町長は真剣な顔で頷き、先程の事を教えてくれた。


 -今から一時間程前。突如として、地震が町を襲った。…それだけでも住人達は恐れてしまうのだが、もっと恐ろしい事が起きた。

 なんと、村とパレスを繋ぐ神聖な道に地割れが発生したのだ。…そして、その大きな裂け目から混沌の敵が這いずり出て来てパレスへと進軍して行ったそうだ。

 それを、空に浮かんだ『大きな窓』から見ていた住人達は心底恐怖し、皆慌てて建物に避難したのだ。


「「-……」」

 話を聞いた俺達は、物凄く険しい顔になっていた。…よりによって、敵が厄介な力を身に付けていたからだ。

「…『大きな窓』というのは、間違いなくアレですよね?」

「…ああ。まさか、創世龍殿の権能の一部が奪われているとはな」

 そう判断する理由は、話の最後に出た超重要キーワードである『大きな窓』だ。…本来ソレは、プレイヤーとパレスを繋ぐ物であり決してNPCをビビらせる物ではない。

 だが、話を聞く限り間違いなく奴らは『龍の天窓』を使っていた。…つまりそれは、創世龍のスキルを敵も使えるという事になる。

「…な、なんですって?あれは、創世龍様の御力だったのですか?

 …っ!ま、まさか創世龍様の御身に-」

「ご安心下さい。創世龍殿は、ご健在です」

 町長はとても不安な顔になり、龍の確認をしてした。なので、俺は笑顔で無事を伝える。…だが、内心は穏やかではなかった。


「…よ、良かった。…あ、まだ何か聞きたい事があるのでしたね?」

「…ええ。

 -私達以外の、混沌の龍を討伐した者達について何か知ってますか?」

「…いいえ。他の英雄達については聞き及んでいません。…ですが、少し前に都市から来た旅の商人が三組のコンビを見たそうです。

 なんでも、三組とも『英雄になりそうな』雰囲気を持っていたと」

「…っ!…特徴は、覚えていますか?」

「はい-」

 町長の口にした情報に、俺達は僅かな希望を抱きつつ三組のルーキー達の事を聞いた。…すると、町長は事細かに教えてくれた。

「-ありがとうございます。…おかげで、次の目的が決まりました」

 それを聞いた俺は、二つの事に対して礼を述べる。そして、直ぐにパレスへとを報告すべく俺達は席を立った。

「それでは、これにて失礼します」

「…あ、お待ち下さいっ!」

 すると、町長は慌てながらこちらを引き留め直ぐに事務机に行く。そして、小さな桐の箱を取り出し戻ってきた。


「先程の事へのささやかな感謝として、是非こちらを受け取って頂けますか?」

 そう言って、町長は桐の箱を開けた。…その中には、見た事のないアイテムが入っていた。

「…これは?」

「こちらは、とある遺跡で見つかった『転移の魔道具』だそうです」

「……はい?」

 魔石に似た球体状の空色のガラス玉であるそれは、とんでもないアイテムらしい。…とりあえずそれを受け取り、確認してみる。


「…マジか」

 すると、アイテムのフレーバーテキストが表示されるのだが、どうやらこれは『本物』のようだ。

「…そういえば、聞いた事があります。

 我々と人が友好を結ぶ前は、人はこのような魔法の道具を使っていたと。そして、我々が人に力を貸すようになってからは、多くの道具がその役目を終えたのだと」

「…っ!」

 相棒の補足に、俺はハッとした。…確か初期設定に、そんな話があると思い出したのだ。それに、メインストーリーと関係ない所にそういうネタがちりばめられてもいた。

「…でも、コレは流石に使われてるんじゃないか?」

「…マスター。多くの魔法の道具が役目を終えた理由は、我々の台頭だけではありません。

 魔法の道具は、魔力の燃費が非常に悪いうえに事故が多発しやすいのです」

「…その通りです。いや、流石博識ですな」

「…え?」

 それを聞いて、かなり不安になる。…魔力燃費の方はどうにかなるが、トラブルは避けなられい。


「…ああ、ご安心下さい。

 それは、『遺跡』で見つかった物ですので不良品ではありません」

「そもそもそういった不良品は、遺跡で発見された『本物』を再現しようとした『複製品』ですからね」

「…なるほど」

 流石にそこまでは知らなかったが、何にせよこの便利アイテムを安心して使えるようだ。なので、とりあえずそれをインベントリに入れておく。

「ありがとうございます。…それでは、そろそろ失礼致します」

「はい。

 -どうか、道中お気をつけて」

「…っ」

 すると、町長は町の見送り人が言うセリフを口にした。…そのセリフは、道中で沢山聞いている筈なのに今はやけに頭に残った。

「「はい。行って来ます」」

 だから、俺達は笑顔を浮かべながら返事をして部屋を後にした。それから少しして、俺達はパレスへと戻った-。

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