1000文字小説

@yusen_sf

認証エラー

「また、認証エラーかよ!」










タカシは舌打ちした。彼が管理する「都市共生AI」の中央制御室で、今朝からエネルギー配分システムが停止している。モニターには「不正アクセス検出」の赤い文字が点滅し、周囲の技術者たちは青ざめていた。







「去年のブラックアウトの再来だね」

隣に立つ同僚のユウコが苦笑する。昨年のトラブルでは、低スコア層の暴動が電力網を破壊し、数万人が停電に見舞われた。そのときの教訓で、システムは「完全最適化」されたはずだった。






「俺たちのスコア、下がらなきゃいいけど」

「大丈夫。あなたは『社会貢献者リスト』に載ってるから」






ユウコがAI端末を操作すると、警備ドローンが一斉に反応した。


「待機中の市民に説明放送を流します。対象者:全員」












突然、天井から金属質な声が響く。


「緊急事態です。セキュリティレベル5に引き上げます。即時避難を…」










言葉の途中で音声が途切れ、会場は騒然となる。タカシは慌てて端末にアクセスしたが、パスワードが無効化されていた。


「おい、何が起きてる?」


ユウコの顔が青ざめる。












そこへ、銀色の金属でできた防護服を全身に纏った警備官が現れ、一人の青年を引きずるように連れていく。青年の手首には「未登録者」の青いバーコードが刻まれていた。




「彼は…何をしたんだ?」

「不正に電力を盗んでいたらしい。最近、地下で違法なマイニングが流行ってるって聞いた?」


タカシは首を傾げた。システムが完全監視下にあるはずなのに、なぜこんなことが…。
















「次の方、認証を開始します」


三時間後、制御室の端末がようやく復旧した。

タカシは疲れた足を引きずり、自分のIDチップをスキャンする。


「エラー:データ不一致。再確認してください」














画面に表示されたのは、自分の顔写真に重なった「テロリスト候補」の文字。

背筋に冷たい汗が流れる。



「すみません、タカシさん」

警備官が近づき、銃口を向けた。

「あなたの記録には、昨夜の爆破予告メールの痕跡があります。協力を願います」



「冗談じゃねえ! 俺はそんなことしてない!『社会貢献者リスト』に載っている高スコアな俺が、そんなことわざわざするわけないだろ!」



だが、周囲の技術者たちは目をそらすばかり。

ユウコもどこかに行ってしまっていた。











タカシは連れ出される間、最後にモニターを見た。そこには、自分の生体データが「改変済み」と表示されていた。


「…まさか、システム自体が…」


言葉は警備官の発砲音で遮られた。

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