1000文字小説
@yusen_sf
認証エラー
「また、認証エラーかよ!」
タカシは舌打ちした。彼が管理する「都市共生AI」の中央制御室で、今朝からエネルギー配分システムが停止している。モニターには「不正アクセス検出」の赤い文字が点滅し、周囲の技術者たちは青ざめていた。
「去年のブラックアウトの再来だね」
隣に立つ同僚のユウコが苦笑する。昨年のトラブルでは、低スコア層の暴動が電力網を破壊し、数万人が停電に見舞われた。そのときの教訓で、システムは「完全最適化」されたはずだった。
「俺たちのスコア、下がらなきゃいいけど」
「大丈夫。あなたは『社会貢献者リスト』に載ってるから」
ユウコがAI端末を操作すると、警備ドローンが一斉に反応した。
「待機中の市民に説明放送を流します。対象者:全員」
突然、天井から金属質な声が響く。
「緊急事態です。セキュリティレベル5に引き上げます。即時避難を…」
言葉の途中で音声が途切れ、会場は騒然となる。タカシは慌てて端末にアクセスしたが、パスワードが無効化されていた。
「おい、何が起きてる?」
ユウコの顔が青ざめる。
そこへ、銀色の金属でできた防護服を全身に纏った警備官が現れ、一人の青年を引きずるように連れていく。青年の手首には「未登録者」の青いバーコードが刻まれていた。
「彼は…何をしたんだ?」
「不正に電力を盗んでいたらしい。最近、地下で違法なマイニングが流行ってるって聞いた?」
タカシは首を傾げた。システムが完全監視下にあるはずなのに、なぜこんなことが…。
◇
「次の方、認証を開始します」
三時間後、制御室の端末がようやく復旧した。
タカシは疲れた足を引きずり、自分のIDチップをスキャンする。
「エラー:データ不一致。再確認してください」
画面に表示されたのは、自分の顔写真に重なった「テロリスト候補」の文字。
背筋に冷たい汗が流れる。
「すみません、タカシさん」
警備官が近づき、銃口を向けた。
「あなたの記録には、昨夜の爆破予告メールの痕跡があります。協力を願います」
「冗談じゃねえ! 俺はそんなことしてない!『社会貢献者リスト』に載っている高スコアな俺が、そんなことわざわざするわけないだろ!」
だが、周囲の技術者たちは目をそらすばかり。
ユウコもどこかに行ってしまっていた。
タカシは連れ出される間、最後にモニターを見た。そこには、自分の生体データが「改変済み」と表示されていた。
「…まさか、システム自体が…」
言葉は警備官の発砲音で遮られた。
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