テレビ局の潜在意識クローラー

ちびまるフォイ

テレビの奴隷

「100人に街頭インタビューした結果がこれか!?

 ぜんぜん面白くない! 番組で使えないぞ!」


「す、すみません……」


「ったく使えない新人だ!!」


憧れのテレビ局に就職できたまではよかった。

奥手の自分にはまるでこの業界が向いていないことを悟る。


今日も深夜残業を覚悟したとき、家から電話がかかってきた。


「もしもし? お母さん……?」


『あんた最近、顔ぜんぜん見せないけど元気しとるのかい?』


「うん……。でもちょっと仕事忙しくて……」


『ムリだけはしちゃダメよ。それと話すこともあるから、帰れるとき教えてね』


「うん……」


そんな日はあるのだろうか。

電話を終えると今度はなぜか偉い人に呼び出された。

ついにクビと言われるのか。


「君が新人の〇〇くんだね」


「はい……」


「職場の評価も低いし、職場にも溶け込んでいないとか」


「すみません……お荷物ですよね……」


「いいや、素晴らしい才能だ。君のような人間を探していた」


「え?」


「実は君にテレビ局の裏方の仕事をまかせたいと思う。

 潜在意識クローラーという仕事だ」


「は……?」


「詳細は機材とともに伝える。今は誰が聞いているかわからないからね」


自分はテレビ局の新たな部署へと配属になった。

仕事の時間も日中から夜中心に切り替わる。


秘匿性の高い仕事なので誰からも孤立していて、

情報漏えいしにくい自分のような人間がうってつけという。


潜在意識クローラーは特にテレビで大事な情報収集らしい。

渡された機材を頭に装着し、インターネットに接続。

ネットにダイブして画面越しに見ている人の脳内へアクセス。


その脳内情報の海を泳いで、そこの潜在意識をモニター。


なにを考えているのか。

どうなりたいのか。

今後どうなっていくのか。


そういった深層心理をモニターして報告書にまとめるのが仕事。


「断られないぶん、街頭インタビューよりずっと良いや」


老若男女わけへだてなく、深層心理を覗き見て情報収集。

報告書をまとめて提出するまでが潜在意識クローラー。


「今週の報告書です」


「おお、ご苦労さま。いい仕事だね、君に頼んで良かった」


「こんなに潜在意識を集めてどうするんです?」


「アンケートと同じだよ。今後の番組制作に活かすだけさ。

 でもアンケートじゃ本音は拾えない。だから潜在意識クローラーが大事なんだ」


「なるほど……」


回収された潜在意識の傾向は次回以降のドラマや番組制作に活かされる。


潜在意識で純愛が求められているなら、そのドラマが作られる。

潜在意識で関心が高い情報があるなら、その報道が行われる。


視聴者が認識すらしていない潜在意識に訴える番組が量産された。


「君のおかげでうちのテレビ局も人気が戻ってきたよ」


「よかったです」


「またこれからも潜在意識を回収していってくれ」


「はい」


自分の仕事は変わらなかった。

人々の潜在意識に入り込んで情報収集。

ほんとうに地道で数がものをいうしたっぱ作業。


「たくさんの潜在意識に入るのしんどいな……」


意識という情報の海に飛び込むのだから精神がやられる。

なんとかもっと楽な方法がないかと考えたときだった。


「世間の潜在意識をうけて番組を作るんじゃなくて、

 番組が潜在意識に訴えかければいいのに」


逆の発想だった。

そうなれば、いちいち人の潜在意識に潜る必要もなくなる。

こんなに楽なことはない。


一度その発想にたどり着くと試さずにはいられなかった。


潜在意識に入ったタイミングで、その意識の奥底にリンクを配置。

特定の番組視聴タイミングでリンクが発動。

自然と潜在意識が呼び起こされるようにした。


それを潜在意識の回収のかたわらでリンクの配置を繰り返す。

今週の報告書提出のとき、リンクのことを話すと上司は驚いた。


「そんな方法が! まるで思いつかなかった! 君は天才だよ!!」


「あ、ありがとうございます」


「これなら視聴者の感情奴隷として番組を作ることもない!

 まさにテレビの革命だ!!」


それからは潜在意識に配置されたリンクに届く番組制作が始められた。

テレビ局に届く意見も好意的なものばかりになる。


『番組を見ただけで心が洗われました!』

『いつも笑わせてもらっています!』

『このバラエティからは目が離せません!』


番組の随所に仕込まれた潜在意識リンクにより、

視聴者は自然と潜在意識がゆり動かされる。


この画期的で革命的な方法が評価され、

自分はついにテレビ局の中で大出世をはたした。


「まさにテレビ局の革命児!!

 地上波で我々がトップ独占できているのも、

 すべてこの人のおかげだ! 拍手!!」


その年の納会では大いに祝福された。

これまで頑張ってきたかいがあった。


その時電話がかかる。知らない番号だった。


「もしもし?」


『〇〇さんのお電話ですか? △△病院です』


「病院?」


『じつは……』


その一方を受けてタクシーを飛ばした。

病院についたときにはすべて終わっている状態だった。

病床に横たわる母親の顔には白い布がかけられている。


「あなたのお母様は病気だったんです……。

 ですが、仕事を頑張っているので負担をかけまいと

 これまで黙っていたのですが……」


「そんな……お母さん……」


話したいことがあると言っていたのに。

そのことすら聞こうともしなかった。


「あなたには頑張ってほしいと、最後に訴えていました」


医者の悲しげな言葉に涙が流れた。

せっかくテレビ局で大成功できたのにそれを伝えられないなんて。


「お母さん、私……テレビ局で表彰されたんだよ。

 今テレビでやっている番組はすべて私の成果なんだよ?」


私はテレビをつけて母親に見せてあげた。

テレビではバラエティ番組がやっている。


「ふ……ふふ……」


自分の意思とは関係なく、自分の顔がほころび始める。

バラエティ番組で潜在意識のリンクを動かされる。


「あは、あははははは!!」


悲しくて涙が止まらないはずなのに。

私の潜在意識は笑いを引き起こされ続けていた。



いま、私の潜在意識を誰が主導しているのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テレビ局の潜在意識クローラー ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ